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モラル低下の原因は?

 ある企業で「従業員のモラルが低下している」という話を聞きました。

 具体的には、社内で挨拶が行なわれない、共用の手洗いの使い方が汚い、また職場生活の中で決められた最低限のルール(ゴミの分別など)が守られていない、というようなことなどです。

 景気の影響もあって業績も低下しており、人事部門が示すデータによると従業員エンゲージメントが低く、離職率が上昇しているということです。
 またこの会社の給料は比較的業績との連動性が高いため、思うように業績を上げることができない社員は前年並みの賞与額を維持できません。

 このモラル低下の問題に対して、どのような対策が考えられるでしょうか?

 多くの場合、「いかにモラルを高める(=問題行動を是正する)か」ということに主眼が置かれるでのはないでしょうか。飲み会や挨拶励行、Thanks cardなどで社員間のコミュニケーションを促進するか、場合によっては“風紀委員”的な役割を置いてよくない行動を取り締まったりする場合もあるでしょう。

 一方、業績がよくなれば自然と社員のモラルやエンゲージメントは高まる、という見方もあります。多少のことには目をつぶり、短期の業績に直結する行動に集中できるようなマネジメントを行なうというのも一手です。

 しかし、私の過去の経験では、これらの対策には限界があります。

 “風紀委員”で表面上の問題行動を取り締まったところで、社員は逆に息苦しさを覚えますし、何が「可」で何が「不可」なのか、という内向きな議論がとにかく増えるのです。

 そうなると、あれもダメ、これもダメといったルールが次々と”依存症”のように増えていきます。

 また「業績が上がれば、」というのも結果論でしかなく、事業環境が悪化している中で業績を上げることは容易ではありませんし、そもそも業績と給与の連動性が高い会社の場合、業績を上げたいと考えていない社員はほぼ存在しません。


 ではどうすればよいのでしょうか。

 まず、最も重要なことは「適切な問い」を立てることです。

 「従業員のモラルが低下している」という事象に対して「どのように高めるか」という問いはいささか直線的にすぎます。また、表面に現れる問題行動(ゴミ捨て)を改めさせるという対策はもはや「モラルを高める」という目的からも逸れた対症療法です。
(ルールを守って生活している社員や、ビルの入居者に迷惑をかけないよう迅速に問題行動を是正する、という目的においては緊急的に行なう意義のある取組みではあります)

 この場合、モラル低下の原因は何か、そして業績が悪い、エンゲージメントが低い、離職率が高い、といった個別の問題間の関連性(因果・相関)と、それらの事柄に通底する根本的な原因は何か、を考えなければ問題は解決しません。

 では「適切な問い」とは何か。
 この会社の場合は、「なぜ社員のエンゲージメントは低いのか」であるように感じます。

 エンゲージメントとは何か。簡単に言うと単にその会社が好きとか居心地が良いということを超えた、「愛着」という言葉で語られることが多く、大手人事コンサルティング会社の調査によると、エンゲージメントとの相関性が高い因子は以下のような事柄だそうです。(相関性が高い順)

 1)顧客に影響する体験的価値(CE)への自信
 2)成果創出に向けた効果的な組織体制
 3)自社におけるキャリア目標達成の見込み
 4)生産性を高めるための環境整備
 5)やりがいや興味のある仕事を行う機会
 6)仕事を進めるための十分な人員の確保
 7)一個人としての尊重
 8)自社の戦略と目標に対する信頼感

 同じ仕事を行なうとしたら、「その会社でなければ提供できないサービスや価値」が提供できる会社でその仕事を行ないたいという状態こそが、エンゲージメントの高い状態だということです。(仕事に対するエンゲージメントの高さと区別します)

 この結果に関連付けて対策を考えるとしたら、「自分たちが顧客に提供する価値とは何か」、「どのようにしてその価値を高めるか」、「その活動を効率よく行なうために必要なこと(もの)は何か」という議論を徹底的に行なうというのはどうでしょうか。
 日々の業務と厳しい数値管理に追われ、ともすれば考える習慣を失ってしまいがちな社員に対して、大局的に考える論点を提供して脳を刺激するとともに普段とは異なるコミュニケーションを誘発するのです。

 またその活動を自身のキャリア目標にどう繋げるか、人事部門はそんなキャリア・ミーティングの機会や仕組みを作れないでしょうか。


 一方、自社の戦略や目標は社員にとって解り易く語られているか(社員がワクワクするような物語が共有されているか)ということを点検することも無益ではありません。

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 これらが「正解」と呼べるものとは限りませんし、実行して成果を出すことは非常に難しいことです。


 しかし、「風紀委員によって社員の行動を取り締まる」ことによってもたらされるのが社員の受動的態度だとしたら、上記の取組みによって僅かでも社員の能動的な考えや活動を引き出すことができないでしょうか。

 ルールや取り締まりによるマネジメントは社員の考える習慣を奪い、それはやがて考える能力を退化させます。それによる負のスパイラルを逆行させるには無理やりにでも「考える機会」を与えることが必要です。


 あらゆる対策が、社員の「考える習慣・機会」を奪い、思考停止による負のスパイラルになっていないか、気を付ける必要があります。

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