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米国VCが好む起業家の7つの特徴(その4/4:規律、執念)

DCMの原です。これまで、好まれる起業家の7つの特徴を5つ、頭の使い方や他人との関わり方について書いてきました。今回は最後の2つ、精神面について書きます。とくに"執念"は7つの特徴の中で最も大切なものだと思っています。

これまで紹介した特徴です。

A. 学ぶ力、考える力 (その1)
A-1. Learning: 仮説検証/学習/修正のうまさ
A-2. Focus/Clarity: 思考の明瞭さ、シンプルさ
A-3. Domain expertise: (業界によっては)常識を疑うことを前提とした経験

B. 他人との関わり方
B-1. Convincing/Vision: 説得力/ビジョン (その2)
B-2. Coachability: アドバイスを聞く力 (その3)

C. 続ける力、ブレない力

C-1. Discipline/Obsession: 規律、集中

"フォーカス(集中)"は起業家にとってとても重要なテーマだと思っています。シンプルな課題への"考え方"の集中については、前の記事で触れましたが、これは"精神面"の集中です。
日々生活していると色んな雑音が聞こえてきます。どこかの会社が資金調達をしたらしい、いい人が入ったらしい、うまくいっていないらしい。元来の負けず嫌いである起業家は他のスタートアップの事が気になりはじめます。
抽象的なトレンドも語りたくなるかもしれません。抽象的なトレンド、注目テーマを語る起業家はいかにもカッコよく見えてきたりします。
ただし、これらの雑音やトレンドはユーザーには全く関係のない話です。目の前のユーザーと課題に、時間と頭と全精力を集中すべきです。目の前のユーザーに関係のないもの噂や抽象的なトレンドだけではありません。社内政治、オフィスなどのコスト、ソーシャルや界隈での承認欲求。"規律"のある起業家は、これらに目もくれず目の前のユーザーと課題にのみ集中し、その解決に取り憑かれ(Obsess)ます。
ある課題の解決に「取り憑かれているか」の定義はSequoiaのMichael Moritzが言う、"夜寝る前にいつも最後に思い出し、朝起きていつも最初に思い出しているか"というものがあります。また、同じインタビューで1980年代に当時上場前だったビルゲイツに空港まで車で送ってもらっていったときの話をしています。

The radio was missing in the car. Big gaping hole in the dashboard. And I said "Bill, so what happened to it? You get ripped off?" And he said "No, I had it taken out." "Why do you have it taken out?" "Well, I drive from my home to the office which is 7 minutes and 32 seconds and then I'll drive from the office to the airport which is however long." and he said "if I've got the radio, I'm afraid that I'll switch it on and I won't be thinking about Microsoft". That's obsession.

(空港まで車で送ってもらっているとき)車にラジオがついていなかったんだ。ダッシュボードには大きな穴が空いていた。私はビルに聞いた。

「ビル、これ何があったの? ラジオ盗まれたの?」
「いや、僕がとったんだ」
「なんでラジオ取っちゃったの?」
「会社からオフィスまで運転していくと7分32秒、オフィスから空港まで運転すると大体これくらいかかる。もし車にラジオがついていたら、僕がラジオつけてしまい、その間マイクロソフトの事を考えなくなることが嫌なんだ」
これが"取り憑かれている"状態です。

Obsession(オブセッション)という言葉はまさにAmazonのジェフベゾスを表す言葉だと思います。20年以上インタビュー、株主への手紙、変わらずCustomer obsession(カスタマーへの執着)を、それこそ取り憑かれたように言い続けています。
Relentlessとは"情け容赦のない、絶え間なく続く"という意味がある言葉ですが、ジェフベゾスが大切にしている言葉で、Relentless.comとタイプすると今でもAmazon.comにつながります。情け容赦ない、絶え間ない、ユーザーへの集中。ジェフベゾスの真骨頂だと思います。

こういう起業家はかっこいいトレンドについて語れないかもしれません。自分の事業以外は全く詳しくないどころか、興味がないかもしれません。SNSや飲み会にもあまり現れず、いつも同じ話ばかりしているでしょう。
でもそういう起業家が僕は好きです。

C-2. Tenacity/Perseverance: 執念、忍耐

これが一番大切な特徴だと思っています。"執念"です。何があってもやめない強さです。DCMの投資先のCEOに唯一共通する特徴で、これがない起業家には投資しないという、唯一の必要条件なのではないかと思っています。
スタートアップの簡単ではない道のりの中で、精神的にもつらく、成功も遠く、不安を常に抱える中で、最後までやりとげる"執念"が生まれるならその源泉はなんでもいいと思います。ただの負けず嫌いでも、原体験でも、お金でも、モテたいでも、なんでもいいです。途中でやめたら成功はしません。

最初はそんな高い志や本気で始めたものでないにしても、やっているうちに次第に"執念"が出てくるかもしれません。Facebookもはじめから一生かけてやろうと思って会社をはじめたとは思えません。プロダクトがユーザーに受けていく中で、チームを採用していく中で、"執念"につながっていたんだと思います。本気で"執念"をもってやり続けられるようになるのであれば、周りに"これが人生でやりたいことなんだと"言い続けることでもなんでも、やればいいと個人的には思います。

ここで僕の話をします。僕は2011年に中国でファッション系のスタートアップをやっていました。チームメンバーはマッキンゼー時代の先輩後輩とチームラボの方々です。
当時オンラインのアパレルは中国で最も伸びている市場で、Alibabaの取扱高は年間3-4倍で成長を続け、2011年の取扱高は1000億元(当時のレートで約1.2兆円)を超えたところでした。(ちなみにFY2019/5の取扱高は5.7兆元、約90兆円です)。当時は楽天がBaiduと組んだり、ZozotownがAlibabaと組んだり、日本企業の中国進出が目立つ時期でした。
また、当時中国で売れているファッション雑誌のトップ3は日本の雑誌でした。Vivi、mina、Rayが日本から1ヶ月遅れでそのまま翻訳されて売られていました。ただ雑誌で取り上げられる肝心の日本の洋服はまだ中国であまり売られておらず、日本っぽいデザインの洋服がタオバオに並ぶのみ。ここにチャンスがあると感じました。

中国のEコマースという一大成長産業で、日本の強みを生かせるであろうファッションで勝負。事業サイドは元マッキンゼーのメンバー、エンジニアリングやUI/UXはチームラボの皆さん、デザイナーも日本の一流のデザイナーさん、投資家もそうそうたるエンジェル投資家勢です。皆で中国に移り住み、上海にあるオフィスに住んで共同生活を行い、日々サービス作りに邁進していました。
自分たちでデザインするものと買い付けしてくる洋服を在庫に、中国の女性向けのEコマースサイトを2012年1月にサイトをローンチしました。

ところが、マーケをしてもサイトには全く人がやってきません。やってきても一つも売れない。クーポンを出してやって来るのはウイグル自治区の人や明らかに女性ではないなど、明らかにリピートしないようなカスタマーだけ。オフィス兼自宅のホワイトボードに線を引き、上の段にコンバージョン数、下の段に売れた服の数を毎日アップデートしますが、ひたすらゼロが続きます。さながらダルビッシュと田中将大のしびれる投手戦です。

どうやっても売れない。在庫は積み上がり、売れるようになる手がかりすらわからない。スケジュール通りにもいかず、プレッシャーも増え続け、取引先の工場は無茶な交渉をしてきて、中国人の従業員からの文句にも対応する日々。上海にもあるすき家の牛丼を持ち帰り、オフィスで窓の外を見ながら昼ごはんを食べていたら自然と涙が流れていました。

1年ほどやってファッション事業はやめることになりました。チームの体制も変わり、大体が日本に戻りました。そのファッションブランドは中国人の従業員の女性に譲渡しました。彼女は普通に洋服が好きで事業を続けました。
すると、しばらくすると彼女がオフラインで売り続けたそのブランドは売れ始めました。”やめなかった”彼女は成功しました。

ユーザーではない日本人が中国人女性向けのサービスを作っていたこと、洋服は年に4回しか出せず定量的でもないのでA/Bテストによる改善が難しいこと、2011年当時の中国の消費者が求める価格帯に合わなかったこと、オンラインでブランドを作りタオバオ上に数十万ある店舗の中でアテンションを獲得することが難しかったこと。後から考察することはいくらでもできますが、やはり"成功するまでにやめたこと"が結局のところは失敗した一番の理由だと僕は思っています。

その会社は今は粘り強く違う事業を行っています。その会社を離れた人も、米国で起業した人、日本で起業した人、大手コマースの物流の責任者になった人、さまざまです。僕はこの経験から、事業の難しさ、それを続けることの覚悟と執念の大切さ、その執念を持ち続ける起業家の尊さとかっこよさを身に染みて理解することになりました。そういう起業家のかっこよさが好きで僕はこの仕事についています。

最後にスティーブジョブスの1995年、2007年、2つのインタビューから引用をしてこの記事を終わりにします。

(1995年のインタビューより: 若い起業家が成功するための条件とは何かと聞かれて)
多くの人が僕のところに来て「起業家になりたい」と言うことがある。そこで「どんなアイデアでやるの?」と聞くと大抵「いやまだどんなアイデアかはなくて」と言う。
そう言われると「そうか、それなら本当に情熱を持てるものが見つかるまでは、ウエイターでもなんでもいいから仕事につくほうがいいよ」と言う。
なぜなら、起業をするのは本当に大変だからだ。成功する起業家と失敗する起業家をわける理由の半分は、純粋な忍耐力だ
起業は本当に難しくて、生活のほとんどをそれに費やさないといけない。起業しているとものすごい辛いタイミングが来て、多くの人はそこで諦めてやめてしまう。
ただそれは僕は責められない。なぜなら本当に辛くて、生活を奪っていくからだ。もし家族がいて、会社を始めたばかりだとしたら、どうやってやっていくのか想像もできないよ。もちろん耐える人もいるかもしれないが、とにかく辛いよ。しばらく週末もなく18時間働き続けるんだ。
だから、本当に情熱がないなら、スタートアップを続けることはできないと思う。きっと諦めてやめてしまうだろう。
だから、アイデアでも課題でも問題意識でも、本当に実現したくて本当に情熱があるものでないといけない。でないと、忍耐を持ち続けることはできないし、忍耐が持てるかどうかがスタートアップの戦いの半分だ。
It is so hard. You pour so much your life into this thing. There are such rough moments in time that most people give up. I don't blame them. It's really tough and it consumes your life. If you've got a family and you're in the early days of a company, it's I can't imagine how one could do it.I'm sure it's been done, but it's rough. Because it's a pretty much a you know an 18 hour day job seven days a week for a while. So unless you have a lot of passion about this, you're going to not survive. You're going to give it up. I'm sure it's been done, but it's rough. Because it's a pretty much a you know an 18 hour day job seven days a week for a while. So unless you have a lot of passion about this, you're going to not survive. You're going to give it up. So you've got to have an idea or a problem or a wrong that you want to write that you're passionate about. Otherwise you're not going to have the perseverance to stick it through and I think that's half the battle right there.
So you've got to have an idea or a problem or a wrong that you want to write that you're passionate about. Otherwise you're not going to have the perseverance to stick it through and I think that's half the battle right there.


(2007年にビルゲイツと共に登壇したD5カンファレンスで: 成功する企業を作る上で最も大切な事はと聞かれて)
多くの人が自分たちがやっていることに情熱がないといけないというが、それは全くもって正しい。なぜならば本当に起業は難しいからで、情熱がなければ、合理的な人間なら諦めてやめると思う。
難しくて辛いことを長期間やりつづけないといけない。
だから、もし今やっていることが本当に好きでなければ、やっているだけで楽しいと思えなければ、諦めてやめるだろう。ほとんどの人に起きることだ。
実際に成功したと思われる起業家とそうでない起業家を見ると、多くの場合成功した起業家は自分たちがやっている事が好きだったんだ。だから本当に辛いときに忍耐強くやり続けることができた。
自分たちがやっている事が好きでなかった人たちは諦めてやめる。むしろ彼らは"まとも"なんだよ。誰が好きでもない事を我慢強く続けられると思う?
起業はとにかく大変で、つねに心配だらけだ。だから本当に好きでないならば、失敗する。だから、好きであって、情熱がなければならない。

People say you have to have a lot of passion for what you're doing and it's totally true. The reason is because it's so hard that if you don't any rational person would give up. It's really hard and you have to do it over a sustained period of time.
So if you don't love it, if you're not having fun doing it, if you don't really love it you're going to give up. That's what happens to most people. 
Actually if you really look at the ones that ended up being successful in the eyes of society and the ones that didn't, oftentimes the ones that are successful loved what they did. So they could persevere well when it got really tough.
And the ones that didn't love it quit because they're sane, right? Who would want to put up with this stuff if you don't love it.
So it's a lot of hard work and it's a lot of worrying constantly. And if you don't love it you're going to fail. So you got to love it, you got to have passion.


まとめ

以上これまで4つの記事にわたって、僕が大切だと思う起業家の特徴を書いてみました。最初に書きましたが、これは全く網羅的ではなく、これがなくても成功する起業家はたくさんいると思います。しかも多くの特徴は相反していたりします。この特徴を全て持っていたとしても(そんな人はいません)、成功するとも限りません。だからこそ起業は難しいし、起業家の人は尊敬されるべきだと思います。
以上、長い長い記事ですが、読んでいただきありがとうございました。

7つの起業家の特徴
A. 学ぶ力、考える力 (その1)
A-1. Learning: 仮説検証/学習/修正のうまさ
A-2. Focus/Clarity: 思考の明瞭さ、シンプルさ
A-3. Domain expertise: (業界によっては)常識を疑うことを前提とした経験

B. 他人との関わり方
B-1. Convincing/Vision: 説得力/ビジョン (その2)
B-2. Coachability: アドバイスを聞く力 (その3)
C. 続ける力、ブレない力 (その4)
C-1. Discipline/Obsession: 規律、集中
C-2. Tenacity/Perseverance: 執念、忍耐




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