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危機の時代に応答すること

先日の文化庁のあいちトリエンナーレへの補助金交付撤回を受けて、香港の「反送中運動」の初期(6月末)における、アーティストや文化関係者たちによる素早い対抗的アクションの数々を思い出していた。

香港の「逃亡犯条例」改正に対する反対運動は、6月に入って急激に拡大した。6月12日には、2回目の大規模デモが行われたが、その時点ですでに香港の100以上のギャラリーや藝術文化私設が一斉閉鎖ストライキを行っていた(ベネチアビエンナーレの香港館も含む)。これは、「香港畫廊協會(Hong Kong Art Gallery Association)」の会議内で提案されており、香港の藝術関係者が即座に事態に対して声明とアクションを発していたことを意味している。

他にも香港のアーティストたちによって結成されている労働組合「香港芸術家工會」による反送中デモへの参加やバナー等の集団作成、公開声明文の発表等も6月の時点ですでに活発に行われていた。300名ほどの会員は、各自でデモのプラカードやバナーを作成し、デモ行進の現場に飛び出していったのだ。

また、ギャラリー「Para/Site」で開催されていた展覧会「Bicycle Thieves」では、急遽展示内容を一部変更して、反送中デモ抗議に関するスケッチ、文章、映像等の展示ブースが設けられていた(下:写真)。この展覧会のキュレーター、Hanlu Zhangは上海出身だが、彼女は香港の状況に即座に反応して、当初企画にはなかった展示内容を付け加えたのだ。

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他にも油麻地のアートスペース「CCCD Art Space Green Wave」のディレクター、サミュエル・チャンがデモ映像をギャラリーの前で流す「緊急展覧会(Emergency Exhibition)」(下:写真)を開催し、ギャラリーのなかでは7月1日のデモに参加するマーチングバンドのための簡易ドラムを作成していた。このような香港のアーティストたちの社会況へ応答する反射神経の高さと柔軟性、その行動力に驚いた記憶がある。

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香港のアーティスト・文化関係者たちと話をすると、誰しもがこの法案の通過を許すことが、表現の自由を奪われることであり、芸術文化に関わる人間にとって致命的な事態であること、また香港社会そのものの危機であり、「一市民として」の各人がそれぞれの方法でもってこの事態に応答することを当然のこととして語っていた。そして、敵をきちんと見据え、各人がそれぞれの方法で応答していくことが暗黙の了解となっていた。

3ヶ月前までは、香港の状況の酷さを目の当たりして友人と「香港は日本の未来かもしれない」と話していたが、想像より早くその未来がやってきた(ある意味、日本はもっとひどい部分もある)。だからこそ、センセーショナルなデモ報道に隠れがちな香港のアーティストたちの実践と態度は、今の日本の状況においてもっと共有されてもいいはずだ。このような実践と態度を可能にしているもの、それは「創作すること」「生きること」「社会の矛盾に対して声をあげること」を分離せずに一貫して考え、想像する力であり、香港の表現者たちはためらうことなく危機的状況のなかでこの力を発揮していたのだ。

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