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医療DXの、向こう側へ(1)課題を定義する

注)このnoteは、株式会社ネクイノ代表取締役の石井健一が株式会社ネクイノメンバー向けに書いているnoteです。そのため、使用している用語に通常で使われているものと意味合いが異なる場合があります。

0.はじめに

DX(デジタルトランスフォーメーション)っていう言葉が市民権を得はじめています。僕たちはネクイノという組織を通じて医療の領域におけるDXに取り組んでいるのですがあたらめて僕自身が目指すDXの形、なんで(日本において)医療DXを推進する必要があるのか、について考察してみようと思い筆を取りました。

1.日本の医療インフラの位置付けをもう一度

何度でも言いますが、控えめに言って「日本の医療は世界一」です。何を持って世界一と言い切るのか、ということですが

 国民皆保険制度のおかげで、

◉いつでも
◉質の高い医療が
◉低い負担額で受けられる

これが全てです。え?アメリカの医療の方が進んでいるんじゃないの?って思われるかもしれませんが、お金持ちの個人の視点ではそうかもしれません。でも、全国民レベルでみた場合に紛れもなく最高の医療インフラを持っている国は日本である、ということを各種データを見ながら改めて説明したいと思います。※データについて、特に断りのないものはOECDのDBから参照しています。

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図1 1年あたりの医師診察回数の比較

まず、◉アクセスのしやすさについて。国によって(人種によって)かかりやすい病気があったり生活様式が違ったりするので単純に比較することはできませんが、日本では(平均的に)年間12.5回受診していることになります。医療制度が似ている、とされるドイツの9.8回に始まりフランスの5.9回など、日本は受診回数で他の国を上回っていますね。

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図2 人口1,000人当たりの病床数

さらに、医療機関へのアクセスは外来だけではなく、入院もあります。入院をするためには病床(ベッド)が必要なのですが、↑のようにお隣の韓国を除くと大差で人口あたりの病床数が多いことがお分かりになるかと思います。外来も外来も受診しやすいし、入院もしやすい、ということになります。(※これによる弊害とかもあるのですがあくまでアクセスのしやすさを論点とするのでここでは割愛します)

次に、◉医療の質をどう測定するか難しいのですが

★検査に必要な機器が多く配備されている
★幾つかの疾患の生存率を比較する

ことである程度粗く見ることができるかと思います。なので、やってみました。まずは

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図3 人口100万人当たりのCTの台数

CT(Computed Tomography)はよく知られている医療機器で、X線を用いて画像診断をするために用います。ためしに、参考値としてCTがどのくらい配備されているか、をみてみます(↑)。おっと・・・他の国のダブルスコア、いやトリプルスコアじゃないですかこれ。

ちょっとまて、CTだけで物事を言うな。と言う方に向けて似たような機器でMRI(magnetic resonance imaging)というこっちは磁気を用いて画像診断する機器の配備について調べてみます。

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図4 人口100万人あたりのMRI機器の配備数

あれ?こちらもダブルスコアに近い推移になっています。いやこれ、決して安い医療機器じゃないんです。数千万円から億円を超える値段で導入される機器がこんなに配備されている・・・って言うのが我らが日本です。

もちろん、CTやMRIが全てではないのですが、「検査ができる環境がある」と言うのは質に対して貢献をしている、と考えて良いと思います。

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図5 がん5年生存率の国際比較(産経新聞2018/2/16より引用)

これまた「がんが全て」ではないんですが、がんの成績(生存率)を横で比べると大きな傾向が掴めてくると思うので引用しました。食道・胃・肺がんについては比較国に比べて良好な成績を示しており。結腸・乳房・子宮頸部については同じくらい、白血病については少し低いですが他国と遜色ないか、それを上回る成績を出していることがわかるかと思います。

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図6 平均寿命の比較

で、なんだかんだ言って医療水準を見るのに良い指標が「平均寿命」であることは間違いなく、(↑)のように女性は世界1位、男性も最高レンジにあることが医療水準の高さを物語っています。
※正確には平均寿命に大きなインパクトを与えるのは新生児および乳幼児死亡率なんですが、論点を簡易化するためにあえて指標として用いています。

で、アクセスと質の評価を終えて残るは「低コスト」についてなんですが、正直、医療が低コストで行われているかどうかの比較ってめっちゃ難しいです。全ての国々の医療が公的保険により賄われているわけでもなく、国ごとに重点とすべき疾患や対策が異なるため投資の評価が本当に難しいんです。なので、ここは各論をすっ飛ばしてここまでに「日本の医療のアクセスと質は素晴らしい」と言うことを書いてきたので、通常の商習慣からするとアクセスと質が高いサービスは当然コストも高いよね、という感覚に対して「決してそんなことない」という反論をぶつけようと思います。つまり

質もアクセスも高いのに、他国に比べて飛び抜けてコストが高くない限り、低コストで運用できているんだ、と無理やり理解する、と言う方法です。

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図7 一人当たり医療費の比較

おんなじようなグラフばっかり並んでめちゃくちゃ恐縮ですが、これは国民ひとりあたりの医療費を米ドル換算で並べたものです。公的・私的保険を含んでいます。

今までこう言うグラフでは日本は右側にあることが多かったのですが右から1/3くらいのところにいます。つまり、日本より右側にいる国に比べて一人当たりの医療費は少ない、ということです("進次郎構文"みたいになってきました)↑で比較したアメリカやドイツ、フランスなどと比べてアクセス・質が高いのにコストが低い。あれ、これどっかのホテルチェーンみたいですね。

そうすると、懸命なかたは「そうか、お金をかけずにマンパワーで頑張っているんだ」って思われるかと思います。半分正解で、半分不正解なのがこちら。

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図8 人口1,000人当たりの医師数

日本って、人口あたりの医師数は「むしろ少ないほう」なんです。ですので、医師を含め医療関連従事者の方々が「めちゃくちゃ頑張って」高い質を維持しているのは事実なんですが、豊富な人的資源を投下してこの成果を出しているわけではないんです。

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(本文とは全く関係ありません。犬が好きです)

2.じゃぁ、なんで日本の医療は素晴らしいの?

保険証さえあれば、いつでも、「どこでも」「標準的な医療が」「低コストで」受けられる。これに尽きます。これが制度や商習慣として定着しているからこそ、日本の医療は本当に素晴らしいんです。

「いや、俺標準的な医療じゃなくて先進的な医療が受けたいんだ!」
と言うあなた!!

どこかのタイミングで「標準的な医療」=「最高峰の医療」であるって話をnoteにまとめようと思いますのでいつかその日を楽しみにしておいてください。少なくとも保険診療で受けられる医療は偏差値70越えの、チャンピオン級のエビデンスに基づいた医療なので標準医療を捨ててその他の医療を選ぶのはもったいなさすぎます・・・っていうストーリーになると思います。

3.言いたいこと。じゃぁ、未来にもこの制度は維持できる?

僕は未来を予想することを生業としているわけではないので、ここまで書いてきたことをベースにその延長線上で考えると、この制度を維持するためには・・・・

■ 今までと同じように、必要な社会資本が投下し続けられること
■ 今までと同じように、医療従事者が育成され同じような熱意とエネルギー注入の前提で運営が行われること

が必要不可欠である、と考えます。もし、上記2つの条件が整わない未来があるとすれば、その時には現在の制度の維持は相当に困難なんじゃないのかな、とは容易に想像がつきます。

めちゃくちゃ我田引水な議論ですが、テクノロジーって、こう言う「大きな課題」の解決にこそ使うべきだし、使われるべきなんだと僕は考えています。医療DXというめっちゃ大きな風呂敷の中で、どんな体験をつむぎあげていきたいのかについてはまたどこかで書きたいな、と思っています。

今日のところの結論。

◯ 日本の医療はそのシステムも含めて改めて素晴らしい。(もっと世界に誇ろう!)
◯だけど引きで見てみると、持続可能な制度かどうかは精査しないといけない
◯このシステムを持続可能な形にするためにこそ、テクノロジーを用いるべきだし用いられるべきだ

2021年10月20日
株式会社ネクイノ
代表取締役 いしけん



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