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10年間ストックし続けた、琴線に触れたマンガの1シーンたちを大放出

「いつか創作に活きるかもしれない」と思ってかき集めたものは、ほとんど使われずに終わっていく。僕は毎日20個ぐらいネタ帳にメモをするが、19個は半年後に見直して「なぜおもしろいと思ったのか分からない」と吐き捨てることになる。

しかし、この習慣はやめられない。20個のうちの1個は何かの役に立つので、無駄撃ちを覚悟でメモし続けている。ベンチャーキャピタルに似ているかもしれない。彼らはほとんどの投資に失敗するが、20社に1社でもFacebookが誕生すれば1000倍になって返ってくるので、大儲けである。

ベンチャーキャピタルもその価値観で行動していると聞いたら、エコノミックアニマルである僕もそれに従わざるを得ない。結局、ほとんど使わないストック習慣を保ち続けている。


僕がいつもやっているストック習慣のひとつに、「マンガのコマのスクリーンショット」がある。読んでいて琴線に触れたシーンはすべてスクリーンショットを撮って、出典情報と共に保存している。どこかで引用しよう、と思って。(僕はマンガをKindleでしか読まないので、いつでもすぐにスクショが撮れる)

たとえば、『鬼滅の刃』で僕が一番好きなシーンはこれ。


『鬼滅の刃』21巻Kindle位置125

鬼殺隊の名もなき隊士たちは、わずか0.1秒を稼ぐためだけに己の命を差し出して、ボロ雑巾のように次々に死んでいく。一握りのエリートを生き残らせるために、とても人間的とは言えない仕事「肉の壁」に殉じて死んでいくのだ。

僕はこれが官僚制の悲しみを描いているようにしか見えなかった。現代社会の根幹を支える官僚制という巨大なシステムは、無数の無名の人が「肉の壁」として犠牲になることで成立しているのだ。末端の隊士はさながら、馬車馬のように働く国家公務員だ。


そう思いながら読むと、続いてのこのシーンも「柱」が「国家」に見えてくる。

『鬼滅の刃』21巻Kindle位置126

我々は「国家」という高次の存在の恩恵を受けている。僕たちに安定した人権が供給されるのは、近代国家が存在するおかげだ。これがなければ、いつ理不尽に殺されていたか分からない。つまり、こう読み替えてもいいのだ。


今までどれだけ国家に救われた!!

国家がなけりゃとっくの昔に死んでたんだ!!

臆するな戦え──っ!!


大きなシステムを維持するために、個体として犠牲になる隊士たち。官僚制の悲しさと美しさが全部詰まっている気がして、涙なしでは見られないシーンである。



……みたいな、「僕はこのシーンが好きだ。語れる」と思いつつ、結局何にもならずに死蔵されているマンガのスクショが、もう1000枚ぐらいストックしてある。気づけば、もう10年もこの習慣を続けているのだ。だから、今日は一気に放出しようと思う。

そして、ついでに、思わずスクショしてしまうオススメマンガの話を好きなだけしようと思う。お付き合いいただきたい。



芸術家は生活を安定させろ

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT編 2巻 Kindle位置233

藤子・F・不二雄先生のSF短編集に収録されている『アン子 大いに怒る』のワンシーン。

売れない画家の男性が、「芸術家は生活を安定させろ」と説得されて「その通りだ!」と発奮し、ブランド紅茶の輸入というめちゃくちゃ怪しいビジネスに手を出す。で、案の定それは詐欺なので、最初に投資した2000万が丸ごと持っていかれる……というストーリーである。

ここでの「芸術家は生活を安定させろ」というシーンは詐欺師の方便であって、聞こえの良い騙し文句として描かれている。だけど、内容は圧倒的に真理である

金の裏づけがあってこそ、安心して創作活動にうちこめる。」は、全クリエイターが常に念頭に置くべき内容だ。生活の保証がない駆け出しクリエイターは「何かを作っても儲からず、生活の不安で苦悩し、苦悩しているから手を動かす時間が減る」というどうしようもない負のループに陥りがちである。会社を辞めた専業ブロガーは「書いても書いても伸びないから病んできてもう何も手につかない」と言い始める。

フリーランスクリエイター界隈を見ていると、「創作に集中したいから仕事を辞めたが、創作の時間はかえって減った」という失敗パターンをあまりにもしばしば見るものだ。儲かっていないうちは副業で創作をやった方がいい。ぜひ、生活できそうになってから会社を辞めよう。

他人事みたいに言っているが、これは僕も経験がある。雑文を書き散らかしては「こんな1円にもならないものを書いて何になるんだ…」と苦悩して、結局苦悩しているだけで1日を終えてしまったことが何度もある。今思えばずいぶん時間をムダにしたものだ。


だから、本題とは直接関係のないこのコマが響きまくる。

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT編 2巻 Kindle位置233

安易に会社を辞めようとしている人を見つけたらこれを送りつけようと思っている。皆さんもぜひ使ってください。


あと関係ないが、藤子・F・不二雄先生のSF短編集はめっっっちゃくちゃおもしろいので全部まとめて読むのを推奨したい。

まずは1巻からどうぞ。有名短編『ミノタウロスの皿』とかも入ってます。僕は『気楽に殺ろうよ』の方が好きだけど。


今回引用した『アン子 大いに怒る』は2巻から。



10万というとテトラポッドが買える値段だね

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