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結婚パーティに出席したら戦艦大和の出撃を見た話-『空気の研究』の応用


つい先日、友人の結婚式で簡単なテーブルスピーチを頼まれた。

結婚式の最初の方で、短時間ずつ数人が順々にスピーチするらしい。軽い役回りなので二つ返事で引き受けて、「なんか無難にコミカルなエピソードでも喋ろう」と軽く考えていたのだが、当日は予想外の事態が発生した。

僕の直前にスピーチをした女性は新婦側の友人だったのだが、彼女がボロ泣きしながらスピーチしたのである。

「○○ちゃんは、ホントにぃ……健気で頑張り屋さんでぇ……グスッ……素敵な旦那さんを欲しがっていてぇ……ズビッ……だから……ホントに良かったねぇ~ッ!!」

会場は「ギャン泣きする人を温かく見守るムード」が完成してしまい、とても「ちょっとコミカルな話をして終わる」雰囲気ではなくなった。いや、感極まるの早すぎん??まだ開始10分なんだけど???


予想外の感極まりムードのまま「続いては新郎のご友人の堀元様……」と呼ばれてしまい、仕方なく立ち上がる。立ち上がりながら「なんかこのムードに合わせて上手いこと言えないかな……」と考えていたのだが特に何も思いつかず、予定通り、学生時代のちょっとコミカルなエピソードを喋った。ビックリするほどスベった。機転が利かない自分を呪った。

本来、友人を祝う場であるはずの結婚式でうっかり自分を呪うという悲しみに浸る。人生はいつだって予想外である。

「白羽の矢が立つ」という慣用句がある。現代ではいい意味で使われることが多いと思う。「特別に選び出される」というイメージの言葉だ。

しかしこの言葉は元来、生贄になる少女の家の屋根に、生贄の目印として白羽の矢を立てたという伝承に由来する。つまり白羽の矢が立った人は死を約束されているのだ。

スピーチを頼まれた僕は、「おっ、白羽の矢が立ったな!」と少し嬉しく思ったが、これは文字通りの方の白羽の矢だった。死が待っているとは思わずに引き受けてしまった。人生はいつだって予想外である。


とはいえ、このくらいの失敗はすぐに笑い話になる。次に彼に会った時は、「あの時は変な空気だったよな~ww」と、酒の肴になるだろう。ありふれた失敗は笑い飛ばして、すぐに記憶の彼方に消えていく。

そう。中身が克明に記憶される結婚式など存在しないのだ。儀礼行事の存在意義は「予定調和」にあると言っていいだろう。儀礼がつつがなく行われたことにだけ意味があり、儀礼の内容にはほとんど意味がない。

全ての結婚式の印象は「幸せな、良い式だった」に収束する。それこそが結婚式の存在意義であると言っていい。


だけど、例外もある。

僕の中で、何年経っても消えない衝撃の結婚式の記憶がある。

この衝撃の結婚式のできごとについては、あまり公にするようなことでもなかったし、体験が意味不明すぎて上手くコンテンツに昇華できる気もしなかったので、どこにも書いていない。


「あれは戦艦大和だったのか」

そんな折、山本七平『「空気」の研究』を読んだ。


日本人が意志決定をする際について回る「空気」の正体に迫った評論であり、歴史的な名著とされている。発表から40年以上経ってもあちこちに引用され続けている。

著者はこの本の序文で、戦艦大和の出撃について触れている。


驚いたことに、「文藝春秋」昭和五十年八月号の『戦艦大和』(吉田満監修構成)でも、「全般の空気よりして、当時も今日も(大和の)特攻出撃は当然と思う」(軍令部次長・小沢治三郎中将)という発言がでてくる。

山本七平.「空気」の研究(文春文庫)(Kindleの位置No.78-80)


従ってここでも、あらゆる議論は最後には「空気」できめられる。最終的決定を下し、「そうせざるを得なくしている」力をもっているのは一に「空気」であって、それ以外にない。

山本七平.「空気」の研究(文春文庫)(Kindleの位置No.82-84)


戦艦大和はかつて、無謀としか言えない出撃をし、沈没した。

その理由は「空気」にある、というのが著者の主張である。

ではこの我々を拘束してやまない「空気」の正体とは何なのか……という形で、本書は論を展開していく。


僕はこれを読んでいる間、ずっとあの結婚式のことを思い出していた。もちろん、スピーチでスベった方の結婚式ではなく、衝撃の体験があった方の結婚式だ。

今になって思えば、あの結婚式で起きたことは「戦艦大和の出撃」だったのだ。僕は結婚式の出席によって、期せずして戦艦大和の出撃を目にしたのだ。

だから、今日は『「空気」の研究』の内容をたっぷり活用しながら、忘れられない結婚式の思い出を書こうと思う。もちろん、必要に応じて解説を入れるので、『「空気」の研究』を読んでいない方も楽しんでいただける。


あまり公にするべきことじゃないし、公にすると関係者に怒られそうなので以下有料になるが、気になる方はぜひ課金して読んで欲しい。

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