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インターネット芸人の鬼十則。人に押し付けると問題だが、自分で背負うなら問題ない。


「電通鬼十則」というものがある。電通を日本一の広告代理店に躍進させた吉田秀雄が唱えた、電通の精神を象徴する言葉である。

1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
2. 仕事とは、先手先手と働き掛けて行くことで、受け身でやるものでない。
3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは・・・
6. 周囲を引きずり回せ、引きずると引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。
9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

https://www.conyx.co.jp/wp/wp-content/uploads/2003/02/200302.pdf


もともとは電通社員の行動規範として社員手帳にも記載されていたらしいが、2016年に過労死問題が取り沙汰された流れで記載が取りやめになり、現在はあまり日の目を見なくなってしまったようだ。

たしかに、時代錯誤な部分があると思う。特に「5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…」はちょっとマズそうだ。書き方がやたらと過激なのも含めて、インターネットの時代に適合できていない。(これが作られたのは昭和20年代なので当たり前である)

そういうワケで、記載取りやめになるのは妥当なのだけれど、僕個人としては割と好きだ。特に「8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。」が良い。昔、売れないインターネット芸人だった頃の僕には自信がなかったので、作るコンテンツには「迫力も粘りも、そして厚みすら」なかった。身につまされる、素晴らしい教えである。


思うに、「鬼十則」は、手帳に記載して社員に配るから問題なのである。ワークライフバランスの重要性が叫ばれる昨今、こんなストイックな教えを他人に押し付けていいはずがない。こういうストイックな教えは誰かに押し付けるためではなく、自分で勝手に背負うためにあるのだ。

そういうことで、今日は僕なりの「インターネット芸人鬼十則」を書いてみようと思う。10年ほどインターネット芸人としての生活している上で身につけた、ストイックな教訓の数々を。「電通鬼十則」にならって、激しめの書き方で。

繰り返すが、これは僕が勝手に自分で背負っているものであって、あなたに押し付けたいものではない。誰にでも通用する教えだとも思わない。そういう意味ではすごく自己本位な記事なのだけれど、部分的には参考にできたり、面白かったりすると思うので書いてみる。よろしくお付き合いください。


1 コンテンツが王。それ以外はおまけに過ぎない。

インターネット芸人をやるのなら、良いコンテンツを作ることに99%の力を注げ。それ以外のことはおまけに過ぎない。

「フォロワーとたくさん交流して仲良くなっておけば読者がつきやすい。何よりもまずは交流が大事!」なんてことを言うヤツには、「失せろ無能が」と返してやろう。そんなことを言い出すヤツはまず間違いなく、ロクにコンテンツを作る能力がない人間だ。身内票を増やそうとするな。おもしろいものを書け。

「作る努力よりも、知ってもらう努力の方が大事!」これも間違いだ。そんなワケがない。知ってもらうための最善の方法は、良いものを作ることだ。この真理を取り違えた人間はすぐに「マーケティングの勉強をしよう!」と見当違いの努力を始める。そんなヒマがあるなら少しでも良いコンテンツを作れ。もっともっともっと、良いコンテンツを作れ。


2 「人脈」なんて蹴り飛ばしてしまえ。

「人脈が一番大事だから」と言っていたクリエイターが生き残っているのを見たことがない。人脈なんてカスだ。そんなものはツーブロックの営業マンとか、革張りの椅子に座る経営者とかに任せておけばいい。

俺たちの仕事は良いコンテンツを作ることであって、他人におべっかを使うことじゃない。退屈なパーティへの招待状は今すぐ全部破り捨てろ。名刺交換の作法なんて憶えなくていい。気の利いたカクテルの名前も、ドレスを褒めるためのボキャブラリーも要らない。

お前は家で創作をしろ。豪華な酒と食事に彩られた晩餐会ではなく、資料で散らかった書斎がお前の居場所だ。山積みの情報をありったけ口に入れて、それを芸術的な一文に消化しろ。

冷たいシャンパンは要らない。熱いコーヒーを飲め。カフェインこそがお前の最大の友だ。


3 自分に誇れるものだけを作れ。

自分が良いと思わないコンテンツを作る創作は不幸だ。「読者はバカだからこういうのを書いておけば喜ぶだろう」と思いながら書くものが、良いものになるワケがない。読者を舐めるな。媚びたら必ずバレると心得よ。

自分に誇れるものだけを作れ。自分が心から良いと思えるものを作ったなら、評価は後からついてくる。お前と同じ感性を持つ人間が、100人にひとりはいるだろう。だったら日本国内にも100万人いる。お前というクリエイターが生活していくのに、100万人の市場は大きすぎるくらいだ。

誰かが良いと思うものじゃない。自分が良いと思うものを愚直に作れ。結局、それが一番誰かを喜ばせることになる。


4 量をこなせ。

納得いく完成度にならないからまだ書き始めない? 黙れ。いいから手を動かせ。

寡作で成功した人間なんてほとんどいない。ピカソも葛飾北斎も手塚治虫も、描いて描いて描きまくった。やる気が出ないとかリサーチが終わってないとか考えが煮詰まってないとか、言い訳は常に存在する。すべてゴミ箱に放り投げてやろう。そいつは掛け値なしのゴミだ。

チャイコフスキーも言っている。「インスピレーションを待っていたら、何も書けない。私は毎朝必ず作曲をする。そうすると、神様がインスピレーションを送り込んで下さる」。池波正太郎も言っている。「その日その日に、先ず机に向かうとき、なんともいえぬ苦痛が襲いかかってくる。それを、なだめすかし、元気をふるい起し、一行二行と原稿用紙を埋めてゆくうち、いつしか、没入することができる」。

お前はチャイコフスキーや池波正太郎よりも才能に溢れてるのか? 違うだろ。だったら今すぐ机に向かえ。一行でも多く書けよ。


5 〆切を作れ。絶対に守れ。

量をこなすための最善の方法は、〆切を設定することだ。「なるべくたくさん更新します」と言っているブロガーやYouTuberがたくさん更新している例は存在しない。「毎日20時に更新」でも「毎週水曜日に更新」でもなんでもいいから、とにかく〆切を決めろ。それを絶対に守れ。

「決めちゃったら質が下がるかも…」じゃないんだよ。それを言うのは素人なんだよ。スケジュールという制約の中で常に一定品質を確保できるのがプロだ。のんびりマイペースでやりたいならアマチュアでいろ。お前はプロの世界に来たんだから、制約条件ありきで作るんだよ。

「時間があればもっと良くなるのに……」そう嘆きながら、唇を噛んで公開ボタンを押すのがプロだ。

「もっと良くできたのに」という痛みを胸に刻め。次はもっと良いものを作れ。限られたスケジュールの中で最善に持って行く技術を高めろ。


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