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学問バー

僕はその日、知人の桐原くんと、豆腐さんがこの1月に始めた学問バーに初めて訪問した。その日のテーマは「感情と身体をめぐる哲学」であったが、テーマを勘違いして、ラカンの哲学だと思い込んでいた。加えて、その数日前に、LINEでこの学問バーの事業拡大アイディアについてのメッセージをくれたのは豆腐さんだと勘違いしていて、「明日、学問バーに行くからその時に話そう」って返答したのだけど、そのメッセージはえらてんさんからのものだった。なので、「何時頃きますか?」と聞かれた時に(あれ?桐原さん話してないのかな?)と思いながら19時に行くことを伝えたのだった。思えば、この辺りから、「誤配」の連続であった。

18時に歌舞伎町入り口のセブンイレブンで、今冬一番の寒波の中で立ちんぼしている桐原さんと、結局飯食わずにバーに直行した。だから18時15分くらいにはバーに入ったが、先客がすでに2名(男性と女性。男性の方がのちに理系の人だとわかる。男性の方を以後Aさんと呼ぶ。)いて、軽く今日の哲学店長と会話をしているところだった。僕は勝手がわからず、でも、豆腐さんも知っているので、いそいそとカウンターの席の一番端っこ、入り口に近いところに陣取った。「今日はどんな関心で?」と店長さん(豊島さんという)から聞かれて、「いやー、フランシ現代哲学にちょっと興味があってー」など、イキったような発言をした。もちろん、その後、ここに続々とやってくることになる猛者のことを知らぬ、無鉄砲な発言だったが、でも、本当なんだから仕方がない。

で、4人に向けた講義が始まった。全く予備知識がないので、全然わからないけど、でも距離の近さや、発言の敷居が低い気がしたので、ふんふん言いながら聞いていた。

そうしたら、もう一人、お客さんが来た。仮に彼をTさん、と呼ぼう。彼は、桐原さんが座っていた席に座って、しばらく講義の続きを聞いていたが、その後わかるが、西田哲学で大学院まで出た本物であった。

そこにAさんの友人というBさんがやってきた。入ってくるなり、Aさんが「このBさんはすごいんですよ」というようなことを軽く紹介した際に、Bさんは「いや、僕高卒なんで」と、これまたとんでもない衝撃波をぶち込んできた。そして、その後の講師との質疑応答で、このBさんが一番、本日の領域に関して知見を持っていたことが明らかとなる。

大学院生と大学生の男性二人コンビ、そして、えらてんさんとこのお店を一緒に保有するオーナーの若手政治家が参入。

その後、翻訳したばかりの分析哲学の原稿を持って、大学院生Cさんが入店。今度はそのCさんの今回の原稿のポイントについてのレクチャーが始まった。一方、えらてんさんはやはり大好きな永井均の独在論を投げかけ、それをTさんが「西田哲学の文脈で説明しましょうか」と応戦。そこから「死」について、えらてんさんとTさんの深い会話が始まった。

流石に席を変わろうと思って、大学生の二人組と豊島さんの会話に移動した。大学生二人組がが、科学と哲学の境界について関心があるとのことだったので、豊島さんがユクホイの「中国における技術への問い」の話をしたときに、もう堪え切れなくて「ゲンロンの会員なんです」と、またイキった発言をしてしまうダメな51歳。

さらに、多分哲学科の女子大生3人組が入店。狭い店内がいよいよ混沌としてくる中、波頭亮さんとその知人が豆腐さんに会いに参戦。結局移動を繰り返すうちに席をなくした僕は、豊島さんを捕まえて、ミッシェル・アンリの問題意識と豊島さんの実存はどう関わるのか?など、暑苦しい投げかけをしたりしていたが、穏やかに返してくれる豊島さん。

飲茶さんの区分であるシロ哲学と黒哲学の話をしたら面白がってくれて、FBで繋がりましょう、今度のみに行きましょう、って話になって、繋がったら、なんと、僕が起業家PJでメンターを務めたS君と同じサークルであることが判明。いやー、奇遇ですね、と。では3人で飲み行きましょう、って話になって、いそいそとやっと会いた席に戻ったら、最後のお客様の老夫婦が扉を開けて「あら、もう入れないのね。楽しみにきたのだけど、仕方ないわね、またきます」と。

正直、ちょっとした奇跡のような夜だった。

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