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台本①

Twitter上での企画である、「#おうちで読もう」へ向けた台本になります。
こちらは以前自分が書いていた舞台台本「黒い芝生」と言う作品からの抜粋になります。
いくつかのパートに分かれていますので、もし使っていただける方がいらっしゃいましたらお好きなパートからお選びください。

設定としては庭の芝刈りや整備を生業としている二人の登場人物から成る物語です。以前は役者として携わらせて頂いていましたが、脚本を書いている自分はこんな事を思いながら書いています。

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~Aパート~
「今、何時?」
「時計が壊れてるって言ってからかれこれ・・・5分ぐらい経ったかな。」
「そう・・・。」
「・・・時計壊れてるの忘れてた?」

間。

「うん。」
「ごめんね、今日のためにちゃんとした物を持ってこようと思ったんだけど。」
「いいよ、別に。」
「たぶん、昔はそれなりにしっかりしてたと思うよ。」
「それはどっち?」
「どっちって?」
「壊れている時計のこと?それとも慌てて支度をした所為でうっかり壊れた時計を持ってきた君のこと?」


「もし、この時計を直したらさ。壊れてからの時間を取り戻せると思うかい?」
「難しいだろうけど、試してみたら?」
「どうして難しいんだい?」
「だって直してる最中だって時間は進むからさ。そこからまた取り戻そうと修理する手を早めても、もしかしたら逆にどんどん壊れやすくなるかもしれない。何処かに部品を落とすかもしれない。」
「じゃあ修理屋さんに頼もうか。」
「生憎と、僕らは今仕事中だよ。」
「街に修理屋がいたはずだ。彼に頼もう。きっと禿げた塗装も塗り直して新品同様にしてくれるさ。」
「ご提案ありがとう。けどもう夕暮れだし、遅いからお店はもう閉まってるよ。」
「そうか・・・。僕らが直したいと思っただけでもダメなんだよね。」
「少し悔しいけどね。けど、それが世の中さ。理解と妥協だよ、要は。」
「難しい言葉を知ってるなぁ。」
「えっ?これって言葉なの?全然知らなかった」
「何だい、じゃあ今まで何だと思って話してたの?」
「ただの『音』かと思ってさ。」
「ふーん・・・。」
「そう、まさしくそんな感じ。」
「あぁ。」
「キミは色々な音を知ってるね。」
「音じゃないよ、言葉だよ」
「言葉?音階で言うとどれに位置するの?」
「そうだなぁ・・・たぶん最初のドから次のドまでのどれかじゃないかい?」
「そっか・・・。」
「でもさ、言葉そのものを話すのが僕らだとして、キミは文字を知っていることが大切だと思うかい。それとも音階やリズムを大切にするかい。」
「どっちだろう・・・。難しいね。」
「確かに単純じゃないね。」
「けど、伝わればいいんじゃないかな。だってほら、音にしろ文字にしろ伝わったり伝えられたりする事に変わりはないし。」
「確かにそうだ。」
「たぶんね。」
「いやいや、面白いよ。」
「君だって面白いさ、色々な言葉って言う音を出せるんだから。キミはまるで楽器だね。」
「僕に言わせれば君の考え自体僕にとっては楽器の様だ。音は聞こえないけど、音みたく奥行きがあると思うよ。」
「そうか。」

「うん。」

「・・・そうか、僕らは人間じゃなくて本当は楽器なんだ。」


~Bパート~
「天国ってあるのかな」
「あるともさ。少なくとも、今のこの布団がそうだよ。」

「僕らは昨日何してたっけ?」
「朝おきて、ラジオ体操。いつも通りに芝を刈って、昼食をとってそのまま昼寝。
 昨日は僕が水の当番だったから僕が午後から水をまいて、キミはその閒新聞を読んでいた。
 夜は夜で虫が寄り付かないように殺虫剤を撒いて、そしてトランプやって布団に入った。」

「ちょっとまって、やり忘れてる事があるよ。」
「なんだっけ?」
「晩飯を食べてない。」
「忘れてた! 考えてみればトランプよりも大事じゃないか。」
「天国からでも星が見えるかな」
「星があれば見えるさ。」
「天国にも星はあるの?」
「さぁ、分からない。でも、天国には神様がいるんだ。少しお願いすれば観測するだけの星なんかすぐに
 作ってくれるさ。」
「すぐに?」
「そう、すぐにさ。」
「神様と会ったの?」
「そうじゃないけど、あれだよ。サンタクロースっていただろ?」
「うん」
「あれを信じるのと同じさ。信じる心には神様もサンタクロースもいるのさ。」
「そっか・・・。サンタクロースは神様だったのか。」
「・・・ちょっと違うと思うけど、まぁ、何かを与えてくださる所は一緒だろうね。」


「天国に星があるとして、その星と今僕らが見てる星は一緒かな?」
「星は星だもん、きっと一緒さ。」
「星座も? 惑星も?」
「知らないけど、星座って殆どが神様だろ? だからきっと天国には彼らがいるんじゃないかい?」
「僕、神様って何だか好かないな」
「どうして?」
「あの星みたいに綺麗だったらいいけどさ、だって誰一人として本当の神様に会わせてくれないんだから。」
「じゃあ、会えるとしたら、会いたい?」
「どうかな。良い神様ならいいけど、悪い神様だっているでしょ?」
「悪い神様?」
「死神とか疫病神とか」
「あぁ、確かに。」
「別に呼んでもいなければ選んだわけじゃないのに、勝手に出てくるじゃないか。別に死んでしまうことは仕方ないし、いいんだよ。それが人間なんだから。けど、嫌だよ。悪い神様がいるって事が。」


~Cパート~
「いつか偉い人が言ってたけど、何処かの山には誰も見たことのない生き物がいるんだって。」
「へぇ~。そりゃ一度見てみたいね。」
「それでね、別のお偉いさんが言うには実は他の惑星にも生物がいるらしいんだ。」
「そりゃすごい! 今度写真に収めなきゃ。」
「あと、もう人間は何度かそういう生物と実際に会ってるらしいよ。けど、世間に出すと皆騒ぐから僕たちが知るのはもっと後になってからなんだって。」
「そりゃいけない。偉い奴は偉い奴で内緒にして楽しんでるんだな、秘密を共有して。」
「許せないよな。」
「あぁ、許せない。そう考えるとテレビのクイズ番組で司会者が回答をひっぱるお約束なんてちっぽけに思えてくるよ。」
「確かに。待たされるという事に関しては同じだね。」

間。

「考えたんだけどね。」
「何を?」
「僕たちは何だかよく分からない物を一様に怪物って呼ぶけど、
 僕たちも彼らにとっては同じ怪物なんじゃないかなって。」
「まぁ、何処かの星に行けばそうなるだろうし、そうはならないかもしれない。少なくともそう出来ない僕ら普通の人間と言う小さな枠の中で振り分けるなら、まだ僕らも『普通』に分類されるさ。」



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