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首都/落

1 首都/落


ビッカメのアーチの裏で電話するぼく は だ れか を ひと り に し まし た?

シャンプーが流れて唇ひきしめる否定されているわけじゃないとか笑

東京に雪は降らないと思っていたあきらめの数かしこくなって

雪がまだ残るところはよごれている恵まれている自覚が自傷

春の風 祈りも平和もふりかえりたずねる名前のように虚ろ

拳銃のように財布をポケットへだれもころさず済むくにはらで

行先はきまらないまま岡山へ帰って読んだカフカ『変身』

とある朝無職になって妹にめんきょのとりかた教えてもらう

車の窓のうちがわに張りつく羽虫 敵の命も本来ひとごと

ハローワークは土日が休み ともすれば詩のアイデアは詩になれない

たんぽぽの綿が飛び交う三角州ぼくは日本から逃げられない

祈るだろう、だが祈っていると言うだろうか『平家物語』の線画儚く

福原の乱れを嘆く貴族たち聖者にしか言葉はなくて

まず悪が裁かれなさい 詩歌はその中立に突き立てるべきつるぎ

水星に水はないので東京に家がなくてもホームシックで

春の日も氷菓自販機は氷点下 そうです 悔やんでもいます

ハッピーアイスクリームのない青年期ひっくり返した「誓いのフィナーレ」

今の戦争には今の言葉が要る 大人のための青春映画

東京駅 本当にあるんだなんて踏み締めた日を思い出していた

ガスを止めてもお湯がでるのを待っていたぼくの地図には東京がない


2 残弾と避暑


しゃぼん玉ひとたま道へきてわれてぼくはスマホで撮るか迷った

つぎつぎとインターネットにシェアされる長方形の戦地の動画

しゃぼん玉とばした少年そばにきて恐る恐るぼくを見上げた

ソフトクリームのような雲って夏っぽい。すぐ消えるものに喩えたりして。

八月と言う名の少年兵がもつPTSDなどを思った

げんじつは視点の数だけあるもので雷鳴を爆撃に喩える

ミサイルが風切る空まで何キロか浴室周りもシャンプーの香り

林にはコンビニのふくろ捨ててある心は狂気を隠せてしまう

晴れの日に傘をさすひと 内面の陰に溺れることも知らずに

侵攻はつづいているはず 就職したあいつとだいぶ話していない

渋谷とかテレビにでても懐かしくなくなって観る『東京流れ者』

蝉の声失くした夏の快楽の復讐に意義って美意識に欠く

意義 角膜を泳ぐ魚を現実にいると思い込むのと同じだ

美しさなど存在せず、あるのは醜さへの無頓着だけ。

新作で拳銃を腰にたずさえたKendrickの名盤『DAMN.』

痛み,毒,戦争,平和,忠誠心が人間の血には刻まれている.

曇天におおわれていくグラウンド俯くことが直視だった

血は争えないというか、それしか見てきてないからそうするしかない

ぼくもぼくの精神を御しかねていて父母と同じ血が刻まれている.

クリップは車の床でも留める器具ぼくのとくべつとされる不要

インタビューにこれが戦いと答える高跳びのウクライナ選手

天命の自覚が「かもめ」の結論でそれしかないなら撃つと決めよう


3 CORONATION


二月。部屋の本が冷えていて、捲ると、仄かな冷気が指先に触れた。

足跡はながく延びて引く重さを増すどこまで行けばいいか知らないのに

揚げものを揚げるあぶらが染みる軍手 人は地に張り付いて夢をみる

釜のまえの窓からの風啄んでぼくはぼくの言葉を信じる

お湯が出るころ手を洗い終えていて何が救いか見当もつかず

雪が降り外に出ない日読み返す『破れた世界と啼くカナリア』

鋏 昨日手首を切って今日は着そびれていたTシャツのタグ切る

血が出ない傷 タイムラインは他人のことを他人として見る

誰かを頼る迷子のようにタイムラインをまた引っ張った

絶望の世代だというわたしたち常に繋がれてもあぶれている

乙骨は誰かと関わりたいと言う 言葉 そこが闇でも照らしなさい

終末世界にラジオが残す歌を最後の二人互いに知らず

ぼくは ”壊れた” ”おかしくなった” 幼年期母に殺して貰えなかった

闇がめのまえまで降りてくる。夜だ。ただし不安は可能性である。

ほらね、精神疾患は終われないほむら布団から聞く烏の遠鳴き

早朝、桜の下には空っぽの車。もうずっとぼくではなかった。

婦人らが愛児の話をするそばで命より高いパーツを洗う

狂気がヒトの総体のほつれならRussian stringsが届くといい

悪を悪より救うには 抱きしめるほど奪われれば復讐は深く

機械の中で誰も見つけられない場所に落ち見つけられない部品

ビニール傘の表面に雨の雨 落ちるまでも「落ちる」なら死ぬまでは

バスのタイヤ上の席でリュックを抱く。共存の中で透きとおる、支配。

『シベリアの掟』 ぼくらが握り合う互いの不可視な利害の鎖

個は完全ではないため社会になるが、社会が完全なわけではない。

地元のローカルバスは昼間、殆ど誰も乗せずにバス停を巡る。

水路に矢印の反射板がある君が要るんだと言ってほしくて

外来種の花が彩る川の土手 精神病者は茫洋とした?

遅延するバスは雨という牢のなかここから先で報われたがるな

夕日うけ空き地で輝く枯れ草のように抱きとめていてほしい

銀座から北斗七星を眺める成瀬巳喜男の『銀座化粧』

小さな光、大きな光。いまは、銀座が星座を遮っている。

山肌のソーラーパネルは木々とならび同じ日光を必要とした

地に身体ぶつけまた飛び立った蝉 希望を保つのはむずかしい

思い出すことができれば覚えていた? 身構えるとき死神は来ない

洋杯を揺らす手に撥ねた白湯がかかる知で血を流すのが成熟なら_____

淡紅に日焼けたホース格納庫もう救えない言葉ではなくて

必ずしも変革は旗手を救わない天上ウテナは悔いただろうか

各々のさつえい画面の同じ像しかしぼくらは分断されて

たぶん、Twitterが終わった日は蝉が鳴かなくなった夏のよう。たぶん。

クソ田舎になぜか新居がふえていく飛びたい者はみな今飛べず

夜夜中鳴く蝉は変すぎ(あのとき誤謬と知っても選んでしまう)

曇りの日のフロントライト 一人の矮小な天命を探している

可能性の上で言えばぼくもまた引き金を引く 広告をスキップ▷|

今日の未知の部分を詩歌も知らなくて塚本邦雄歌集を閉じる

読めたり読めなかったりしてもう夏だ『戦争はいかに終結したか』

白紙を掲げ連行される蒼生よ言葉よ肉を失くしても生きて

じゃあそれが幸せかなど裁定も憚るヘルマン・ヘッセ「クヌルプ」

ぼくたちは未来へ殉死できるでしょう積雪は足跡を葬って


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