第6回 西尾維新『ヴェールドマン仮説』感想【レビュー】

始めに(注意書き)

はじめましての方ははじめまして。そうではない方はお世話になっております。吹井賢です。

コラム『吹井賢の斜に構えて』第6回は、吹井賢も敬愛し、僕達くらいの年代のサブカル好きでこの人の作品を読んだことがない人間がいるだろうか、いやいない、と思わず反語を使ってしまうくらいの人気作家、「小説は読んだことないけど『刀語』は見た」「本は買ったことないけど『めだかボックス』は読んでた」という人も膨大な数いるであろう、そんなミステリー小説家・西尾維新先生の、記念すべき100作目の作品(マジで!? そんなに書いてんの!?)、『ヴェールドマン仮説』をレビューしていきます。

最初にお断りをば。


※今回のコラムには、西尾維新著『ヴェールドマン仮説』のネタバレはありません。

※以下の内容は吹井賢の感想に過ぎません。ご了承ください。

※なお、吹井賢は西尾維新氏の著作を大体25冊くらい持っており(『戯言シリーズ』『人間シリーズ』『世界シリーズ』『りすか』『世界シリーズ』と『物語シリーズ』など数冊)、累計で50作くらい読んでいます(+『刀語』『忘却探偵シリーズ』数冊)。


それでは始めます。


『ヴェールドマン仮説』あらすじ

公式のあらすじは以下の通りです。

おじいちゃんが推理作家で、おばあちゃんが法医学者、
父さんが検事で母さんが弁護士、お兄ちゃんが刑事で
お姉ちゃんがニュースキャスター、弟が探偵役者で妹はVR探偵。
名探偵一家のサポートに徹するぼくだけれど、
ある日強烈な「首吊り死体」を発見し、連続殺人事件を追うことに。
被疑者は怪人・ヴェールドマン。
布(ヴェール)に異様な執着を示す犯罪スタイルからそう呼ばれている――。(『講談社BOOK倶楽部』より)


そういったわけで、この『ヴェールドマン仮説』は推理小説というジャンルに属すると思います。

「ホームズ一家のホームズホーム」と呼ばれるほど、家族が漏れなく名探偵らしい肩書きを持っている中で、探偵らしい仕事どころか、そもそも職に就いていない”ぼく”こと、吹奏野真雲(以下「真雲」)が主人公となります。


なお、主人公である真雲は25歳であり、学生ではありません。職歴もなければ、高校も中退している無職です。

彼の名誉の為に補足すると、「職に就いていない」だけで、仕事は滅茶苦茶にやっています。主に家事を。

うーん、強いて名乗るなら、優秀な家族を世にプロデュースする、マザーシップと言ったところだろうか?(本文p32)

と、本人も冗談めかして述べていますが、吹奏野家において家事を行うのは誇張抜きで彼だけです。「家事手伝い」ならぬ「家事全部」


そんな何者でもない彼が、布に並々ならぬ拘りを持つ(と思われる)怪人『ヴェールドマン』について捜査していく、もとい、仮説を検証していくのが、こちらの『ヴェールドマン仮説』という作品です。


総合評価(※ネタバレなし)

オススメ度:☆☆☆

お気に入り度:☆☆☆☆

……いきなり指標だけ出されても意味が分からないと思いますが、要するに「オススメ度」「他人に対してどれくらい勧めたいか」で、「お気に入り度」「吹井賢がどれくらい気に入ったか」です。

最高で☆5です。


今回の作品の場合、オススメ度は☆3です。

単巻で完結しており読みやすいこと、西尾維新氏(以下「西尾氏」)特有の言葉遊びも随所に散りばめてあって飽きさせないこと、話が二転三転するわけでもないのに、どんでん返し的な驚きが複数あること、などが評価のポイントです。

逆に、☆5ではない主な理由は、「ある程度、西尾維新作品に慣れている人間でなければ受けにくい文章だが、西尾維新作品としてはパンチが足りない」という感じですね。

例えば、

ぼくが月曜日の朝をどんな風に迎えているのか知りたいというお便りが我が家のポストに殺到していたので、まずはその質問からお答えしようーー基本的に、ぼくは平日は、午前五時に起床する。(本文p9)

このような真雲の語りから物語は始まるのですが、恐らく、この小気味いいジョークを受け入れにくい人も多いでしょう。

……いやまあ、「なら多分、西尾維新作品はあなたの好みじゃないんだと思うよ」という、それだけの話なんですが、特に本筋とは関係のない言葉遊びにせよ、やはり人を選ぶな、という印象です。

主人公の名誉の為に再度補足すると、彼が五時に起きてやっているのは家事です。普通に尊敬する。


Amazonのレビュー欄では「家族の設定が活かされる機会が少ない」というような意見も散見されますが、その指摘については、「……でも他の家族の出番を増やすと真雲が主人公じゃなくなっちゃうしなあ」という感想を抱きました。

ちなみにですが、真雲は作中において、役者をやっている弟のサインでナースを買収するなど、家族の肩書きを滅茶苦茶に使ってます。

そういう意味では、ちゃんと設定は活かされてるのかなー、と考える次第です。家族の設定、というよりも、「名探偵一家に生まれ育ち、家族に事件の機密や専門知識を知る人間が大勢いる」という設定が活かされていると言えば良いんでしょうか?


また、割とあっさり終わるので、そこも好きじゃない人は好きじゃないかもしれませんね。吹井賢は気に入ったんですが……。


あ、お気に入り度は☆4です。

大体、「続刊が出ればまず買う」「機会があれば読み返す」くらいのラインが、☆4ですね。

普通に好みの作品で、続きが出て欲しいなーと思います。

西尾維新作品の名物である「主人公と独特なキャラクターの軽妙な掛け合い」は少なめでしたが、純粋に地の文、真雲の語りが好みだったので、気になりませんでした。


最後にネタバレありの総評を書こうかとも思ったのですが、「でもミステリだしなあ」という思いと、正直ちょっと自分の仕事で疲れているので、ネタバレありの評論はなしにしておきます。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


宣伝

最後に宣伝!


西尾維新作品も良いですが、吹井賢作品も是非読破してくださいね。

ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな。(これほど宣伝に適さない台詞もないな……)




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