第4回 『魔人探偵脳嚙ネウロ』の素晴らしい伏線回収集 前編【雑感】

始めに(注意書き)



はじめましての方ははじめまして。そうではない方はお世話になっております。吹井賢です。

コラム『吹井賢の斜に構えて』第4回は、吹井賢の最も好きな漫画『魔人探偵脳嚙ネウロ』のおける、吹井賢の好きな伏線回収についてです。

最初にお断りをば。

※今回のコラムには漫画『魔人探偵脳嚙ネウロ』のネタバレが含まれます。

※マジで今回はネタバレしかないので、未読の方は絶対に見ないでください。

※下記の内容は吹井賢の考察に過ぎません。ご了承ください。

それでは始めます。


『魔人探偵脳嚙ネウロ』の凄まじい伏線の数々

吹井賢の最も好きな漫画『魔人探偵脳嚙ネウロ』(以下『ネウロ』)は、「伏線回収が凄い」ということで有名です。

ちなみに、同じく松井優征氏が描かれた『暗殺教室』も、恐ろしいほどの伏線回収を行っています。


今回は部屋の掃除に嫌になった吹井賢が、一巻から読み直していく中、好きな伏線とその回収シーンを挙げていきましょう。


第1巻第1話 「座っているヤコの傍に現れるネウロ」

主人公でありヒロインの『桂木弥子』(以下「ヤコ」)が悲嘆に暮れる傍ら、床に対して水平に立つようにして『脳嚙ネウロ』(以下「ネウロ」)が現れます(本当に傍ら)。

伏線……とは少し違いますが、この構図は最終話でも使われています。

第23巻201話では、「飛行機の席に座っているヤコ、窓の外で水平に立つネウロ」という構図が出てきますね。


第1巻第1話 「食欲のないヤコ」

こちらは少し前、周藤蓮先生(@Stollen0102)も触れていらっしゃったことです。

食欲魔人とも言えるヤコ、次に食欲がないシーンが出てくるのは、なんと第21巻184話。

およそ少年漫画と思えないエグい展開(笹塚さんが目の前で射殺される、本城さんがシックスの手先だと判明、しかも娘を人体実験に差し出したという過去≒必然的にHALの騒動の原因が人為的なものだと判明、その本城さんは「悪いのは全て自分の弱さ」と謝罪しながら自らに毒薬らしきものを打ち込み橋から身を投げる、等々)が連続する辺りですね。

……よくジャンプで連載できたな、これ。


第1巻第1話 「興味を失くしたネウロ」



”謎”が主食であるネウロは、犯人の動機やその後は基本的に「興味なし」です。第1話でも、謎を解いた後に完全に興味を失っている様が見れます。

同じような場面は第21巻183話にも登場。心が折れてしまったヤコに対し、その冷たい視線を向けるネウロという形です。

この時点のネウロは、「様々な事件を通して、”謎”を生み出す人間にも一定の価値を見出している」ということを踏まえると、印象的なシーンですね。


……まあ、1話時点でのネウロは人間とか心底にどうでも良さそうなので、彼の変化もこの作品の面白い部分です。




第1巻第7話 「ドーピングコンソメスープに対するネウロの見解」



恐らく『ネウロ』という漫画で最も有名なシーンですね。

ドーピングコンソメスープだ… …さあ諸君 俺が逃げるのを止められるかな…?(第7話)

「ドーピングコンソメスープ」というインパクトが強過ぎるネーミング、麻薬が混ざっているとしても”スープ”なのに静脈に注射、即座に上半身の筋肉量が三倍くらいになり衣服が千切れる、なのに、下半身はそのまま、そこまでムキムキになったのに言うことが「俺が逃げるのを止められるかな?」(倒すとか殺すとかじゃなく、逃げるんかい)

……という、無数のツッコミところが存在する迷場面。


しかしながら、ここは笑えるだけではなく、ネウロとヤコの共通点がはじめて示されたシーンでもあるのです。

「喰べることはそれ自体が幸せだ」と そんな事はこの僕でも分かるというのに(同話)

この「食へのこだわり」は、両主人公に明確に共通する部分であり、そのことが明確に示された話でした。


……この台詞をヤコに言わせたアニメスタッフを僕は許せねえ。


第3巻第22話 「サブタイトル『X【アンノウン】』」



『怪盗X』(以下「サイ」)が初登場する事件ですね。

ネウロのサブタイトルは、”一文字”と”それの読み”の組み合わせなのですが、サイがその正体を現す【アンノウン】というサブタイトルは、最終盤でもう一度出てきます。

第22巻193話『Ⅺ【アンノウン】』

サイが、ヤコの記憶を読み取り……。というシーン。この辺りは本当に名場面の連続です。


サイのキャラクター性やその変化もまた、『ネウロ』という漫画の魅力の一つでしょう。


第3巻第22話 「人間離れした悪意」



怪盗Xという恐ろしい存在に対し、ヤコはこう独白します。

あいつが人間だから… 私は… こんなにも恐怖を感じたんだ 私と同じ人間なのに 人間離れした能力”ちから”を持っていて 私と同じ人間なのに 人間離れしたその悪意で その能力”ちから”を使っているから…(第22話)

サイとシックスの関係の伏線は無数に張ってあるのですが、これはかなり分かりやすいですね。

『人間離れした悪意』――まさに『新しい血族』であり、シックスのことです。


ですが、同時にサイについて「同じ人間ながら」ともヤコは述べています。

それを「『新しい血族』なんて… あんた一人でやってろよ」に繋がると思うのは、流石に吹井賢の考え過ぎでしょうか?


第3巻第23話 「ネウロの考える『進化』」



『ネウロ』には『進化』に関する発言が幾度も出てきますが、ここもそうですね。

資質と欲望が… 人間をどこまでも進化させる その進化こそがこの地上で… 魔界にはない多種多様な『謎』を育むのだ(第23話)
我が輩は人間の本質を理解する目を持たないが… 貴様がそれを望むのなら いずれ貴様はより多くの人間を理解するよう進化するだろう たとえそれが… 貴様には理解ができないという… あのXでもだ(同話)

この辺りの台詞は、電人HAL編のエピローグにおける、「忘れるとは進化も忘れること」「忘れるな、ヤコ。忘れなければ貴様は再び進化ができる」に繋がっていますね。

また、ネウロが述べたように、最後にはヤコはサイでさえも理解しています。そこまで考えて松井先生が考えていたとしたら本当に凄いです。


第4巻第30話 「笹塚衛士の空白の一年間」



爆弾魔”ヒステリア”の事件の終盤、笹塚衛士刑事(以下「笹塚さん」)の過去が語られます。

「一年近く姿を消していた」という説明がありますが、この空白の一年間は小説版の『世界の果てには蝶が舞う』で一部、分かるようになっています。

なお、この小説版のエピソード、笹塚さんが射殺される際の回想でも一部出てきているので、小説版と侮るなかれ、パラレルなどではない完全な過去編です。


第6巻第47話 「『貴様の日付はいつになったら変わるのだ?』」



多分、知っている方は大好きな、そして知らない方は「すげー!!」となること請け合いな、有名な伏線。

期待外れだ ヤコよ 貴様の日付はいつになったら変わるのだ?(第47話)

ここまでの流れだと、「ヤコの進化に多少なりとも期待していたが、まだまだ未熟な彼女に少しばかり失望するネウロ」というシーンなのですが、この後が凄いのです。


電人HAL編、謎を解いたヤコは、「分かんないよっ……。……あんたなんかには……!!」と涙ながらに言います。

それに対するネウロの返答が、以下の通りです。

…………そうか ならばいい 日付も変わった 帰るぞ(第90話)

普通に取れば、「もう謎も解いたし、帰ろうか」というだけです。

しかしこの言葉の真意は「日付が変わった」≒「ヤコが間違いなく成長(進化)した」ということ。

実際、電人HALのパスワードはヤコが解きましたしね。

この伏線回収、仕込んだ松井先生も凄いですが、自力で気付いた人も凄い(吹井賢は気付かなかった)。


第7巻第58話 「サイの頭に過ぎる影」



再びの登場のサイ、ネウロとの決戦の前に、こんな風に独白しています。

俺の脳細胞は 定期的に大規模な変異をする ゴトリと入れ替わる記憶の中で… その時にだけ一瞬 横切る影がある(第58話)

続けて、「変異が作り出した偶然か、俺の本当の正体なのか」。

この横切る影が何かが分かるのはシックス編も中盤、第18巻152話で判明します。

その影は、シックスが広げた手の平。

思わず、ぞくり、とするシーンです。


今日はここまで

そんなわけで、今日は『ネウロ』の伏線回収に触れてきたわけですが、コラムの為に読み返していたら、一人でじっくり読みたくなってきたので今日はここまでです。

全23巻なので、大体三分の一が終わりましたしね。


また中編、後編、とやっていきたいと思います。

良ければよろしくお願いいたします。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


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最後に宣伝!


……さあ諸君。吹井賢作品の伏線を、見抜くことができるかな……? クシカツ‼




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