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宜保無道の怪綺談⑤

宜保ぎぼ 無道むどう

無道:ご無沙汰ですね。近頃少々お忙しかったのでしょうか。えぇ。あなたをお待ちしている間にきっちりとあなた好みのお話をご用意していますよ。ふふ。では早速...夜寝る前、天井をふと見ると、木目が人の顔に見えたことはないだろうか。お風呂で髪を洗っている時、背後から誰かの視線を感じたことはないだろうか。家に帰った時、誰もいないはずの部屋からさっきまでまるでそこに誰かいたような空気を感じたことはないだろうか。なにも家の中に限った話ではない。横断歩道で信号待ちをしているとき、向かい側に立っている人の中で1人だけやけに気になる人がいることはないだろうか。職場で誰かに呼ばれた気がして振り返るとそこには誰もいなかったということはないだろうか。今日はそんなナニカのお話を。

【Episode.12-一人暮らし】

柴田しばた 香澄かすみ
岸本きしもと 英寿ひでとし

無道:丁度今のシーズンにぴったりのお話がありましてね。このお話を聞かせてくれたのは香澄さんと言う女性とお付き合いをされていた英寿さんと言う方でして。彼女、転職を機に実家を出て一人暮らしを始めたそうなんです。念願の一人暮らし。親に縛られることも無く、自分の自由を手に入れたと喜んでいたそうなんですよ。けどね、女性の一人暮らしはやっぱりなにかと色々と気を使わなければならないんですよ。ストーカー対策として英寿さんの衣類もパンツから靴下まで1式貰って洗濯物として干したりなんかしてね。そんなこんなで1ヶ月も経ち新生活にも慣れてきた頃のことだそうです。

香澄「もしもーし。」
英寿『もしもし。』
香澄「ちょっと今日は疲れたなー。」
英寿『お疲れ。』
香澄「うん、ありがと。英くんの声聞いたら元気もらえた。」
英寿『なんだよそれ。』
香澄「どうせなら英くんも一緒に暮らせたらよかったのにねー。」
英寿『さすがにそれは香澄のご両親が許してくれないだろ。』
香澄「まぁね。うちの親頑固だし。」
英寿『ははっ。まぁたまには泊まりに行かせてもらうよ。』
香澄「うんっ!楽しみにしてる。それでさ...」
英寿『...』
香澄「...」
英寿『...あれ?もしもし?もしもーし?』
香澄「...」
英寿『あれ?おかしいな。香澄ー?』
香澄「...たんだよねー。あれ?ねぇ、英くん聞いてる?」
英寿『あ、聞こえた。よかった。で、何て?』
香澄「え、もしかして聞こえてなかった?私一人で喋ってたの?」
英寿『うん、それでさから聞こえなくなって俺ずっともしもーしって言ってたよ?』
香澄「え、そうなんだ。じゃあ話丸々聞こえてないじゃん。」
英寿『うん、だね。』
香澄「じゃあもう1回話してもいい?」
英寿『ははっ。いいよ。』
香澄「あのね、今日仕事の休憩のときのことなんだけど、」
英寿『うん。』
香澄「前に言った先輩いるじゃん?」
英寿『あー、あの御局様的な?』
香澄「そうそう!その人が急に私の所に来てさ、」
英寿『ちょっとさ、テレビの音下げてくれる?聞き取りづらくて。』
香澄「...え?私テレビなんてつけてないよ?」
英寿『あれ?マジで?じゃあベランダとかに移動した?』
香澄「...いや、最初から同じとこだけど。...えっ?なに?驚かせようとしてる?」
英寿『いや、大丈夫。俺の気のせいだと思う。ごめんね、続けて。』
香澄「んー...ホントかなぁ。まぁいいや、それでね、その人が私の所に来て、」
英寿『...』
香澄「柴田さんおつかれみたいね。って言うんだ。」
英寿『...うん。』
香澄「いや、そりゃね?疲れはするけどそんな表情に出てたのかなーって思って、」
英寿『...。』
香澄「だからすみませんって言ったんだけどさ、あれ?英くん?聞いてる?」
英寿『あぁ、ごめん。聞いてるよ。』
香澄「よかったー。また聞こえなくなったのかと思った。」
英寿『香澄、今一人だよな?』
香澄「え?うん、そうだけど。」
英寿『近くに誰かいたり隣が騒がしかったりしない?』
香澄「えー?そんなことないよ?」
英寿『あのな、電話越しに香澄の声と別の声が聞こえるんだよ。』
香澄「えっ!やめてよ!怖いじゃん!」
英寿『ごめん、怖がらせるつもりはないんだけど...』
香澄「えー...でもホントに1人だよ?」
英寿『うん、だよな。俺も疲れてんのかな。』
香澄「そうかもね。私も今日はお風呂入って寝ようかな。」
英寿『だね。俺もそうするよ。』
香澄「うん、じゃあおやすみ。」
英寿『おやすみ。』

無道:そうは言ったものの何か気になる。普段よりも家鳴りの音もどこか大きく感じる。それでも変わったことはなくまた数日後。

英寿『もしもーし。』
香澄「もしもし。」
英寿『だいぶ疲れてんな。』
香澄「うん、やっぱり環境も変わったってのもあるけど...。」
英寿『どうした?』
香澄「前に言った先輩ね、噂なんだけど霊感があるらしくて...」
英寿『ん?うん、それで?』
香澄「もしかして私につかれてるって言ってきたの疲れが溜まってるってことじゃなくて、何かに取り憑かれてるってことなんじゃないかなって気がしてきて...。」
英寿『なんで?そんなことないでしょ!』
香澄「だってね、英くん以外と電話してても他の人の声がするって言われたり、この前は突然テレビにノイズがはしったり...」
英寿『そんなの偶然だって!』
香澄「でも...」
英寿『んー...どうしてもそんなに気になるなら1回お祓いにでもいく?』
香澄「うん、一緒に行ってくれる?」
英寿『じゃあ今度の休みに行こうか。』

無道:こうして2人はお祓いに行ったそうです。しかし、そこでは何にも憑かれてないからお祓いの仕様がないと言われたそうなんです。それから香澄さんはみるみるうちにノイローゼ気味になって...自ら命を絶ったそうなんです。

英寿「あとで分かったことなんですけど、その家の近くに電波塔?みたいなのがあって、電話は混線していただけで、テレビも多分その影響だったみたいなんです。家鳴りも多分香澄の気のせいで...。俺がもっと気にかけてやればよかったのに。」

無道:英寿さんはそう言って悔やんでおられました。恐らくその背後から鋭い視線を送っていた女性が香澄さんなんでしょうね。


【Episode.13‐集合写真の手】

山田
佐藤
田中

無道:これは彼らが学生の頃の話だそうです。クラスで年に数回集合写真を撮りますよね?そんなとき、山田さんと佐藤さんがイタズラで田中さんの肩にゴム手袋を置いていたそうなんです。今のようにデジタルで写真を印刷する時代じゃなく、フィルムを焼いて現像するような時代だったんでね。出来上がった写真を見て大騒ぎ。山田さんと佐藤さんはほんの冗談のつもりだったんですが、何せ田中さんがあまりにも恐がってしまったもんだから本当のことを言い出せずにいたそうなんです。

山田「な、田中!これはたまたま影がそう見えるんだよ。」
田中「いや、そんなことはない。影がこんなにはっきり5本指で写るか?」
佐藤「そういうこともあるだろ。現にお前が何か肩を痛めるようなことはないだろ?」
田中「そうだけど...。これこのままでいいのかな?」
山田「大丈夫だって!ほら、そんなこと言い出したらこの木の後ろにも人が居るように見えるし、鈴木さんの足だって透けてるように見えるだろ?」
佐藤「そうそう、写真なんてそう見ようと思えばいくらでも見えるんだって!」
田中「そうなのかな...。」
山田「そんなに気になるなら俺のじいちゃんの知り合いに霊媒師やってる人いるから見てもらうか?」

無道:田中さんのあまりの怖がりっぷりにバツが悪くなったので何ともないと言うことだけでも証明して貰おうと山田さんがそう提案したそうです。そして田中さんはその言葉を受け、その写真を見てもらうことにしたそうです。

佐藤「まぁこれでなにもないって分かったら安心だしな。」
山田「ただ田中がビビりだってことになるけどな。」
田中「お前らはいいよな。自分の事じゃないんだから。」
山田「だから一緒に付いてってやってんだろ。」
佐藤「そうだよ。」

無道:こうして写真を霊媒師に見てもらったそうです。霊媒師は田中さんの肩は何も問題がないと言いました。そこで田中さんは一安心したのですが...。よく見ると佐藤さんの右手の指が6本あるのです。それだけではなく山田さんのお腹の辺りから白い手のようなものが伸びているのです。

佐藤「え...?俺どうかなるの?」
山田「いや、俺のも...。」
田中「お前ら人の時は好き勝手いってたくせにいざ自分となったらそんなに恐がって...。」
佐藤「いや、だってこれ本物だろ?」
山田「じゃあこの木の後ろの人影とか鈴木さんの足とかもまさか...」

無道:写真はその場でお焚き上げしてもらったようですが...。一体彼らに何を知らせようとしていたんでしょうね。


【Episode.14‐アブラハムの子】

無道:さて、少し趣を変えて。皆さんは幼い頃に『アブラハムの子』と言う歌を1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?聞いた事がないとお思いの方でもメロディを聞くと思い出すとは思うのですが。ここでこの歌に関して。これは私の推測に過ぎないと言うことだけ先にお伝えしておきます。そもそもこの歌のモデルとなったアブラハムとは誰なのか。恐らく聖書に登場する最初の預言者と言われる彼のことだと思います。そしてなんと彼は100歳にして初めて正妻であるサラとの間にイサクを授かるのです。その後、アブラハムが137歳の時にサラが亡くなり、後妻としてケトラと言う女性を娶ります。そのケトラとの間にはジムラン、ヨクシャン、メダン、ミディアン、イシュバク、シュアと言う6人の子どもを授かる事になるのです。これがアブラハムには7人の子、1人はノッポであとはチビと言う歌詞と繋がるのではと考えております。しかし、実は妾との間にも子どもはいたようなのですが...。まぁ今回の私の推測の中では認知した子がこの7名だったのでは無いかと。彼らの子孫がアラブ人であるなど、歴史的な経緯もありますが、今回はそれを割愛して。歌詞の中で右手、左手、など順番に身体の部位が出てくるのです。アブラハムは175歳ににしてこの世を去ったとされています。旧約聖書などによると様々な考察がなされているようですが、再度、これは私の考察であり憶測であると言うことを。この歌の主人公は実はイサクではないのか、私はそう考えております。何故なら歌詞に出てくる部位は6箇所しかないのです。イサクは歌詞の順番に、ジムランの右手、ヨクシャンの左手、メダンの右足、ミディアンの左足、イシュバクの頭、シュアの臀部を切り取り、そして最後の回ってでは、周りを魔法陣のようなもので囲ってと言う意味だったと捉えると、1人の人間を作ろうとしていたのでは無いだろうか、ということです。しかしここで1つの疑問が。胴体がないのです。そこで考えたのが先程少し触れた妾の子です。妾の子はイシュマエルと言いまして、そのイシュマエルの胴体があれば...ほら、どうです?1人の人間の形が出来上がるのです。いえ、なに。最初から申しているように私のただの妄言でございます。しかしながら、昔から伝わる歌には財宝のありかが示してあるだとか、人身売買の方法を隠密に伝えているだとか、様々な逸話がありますからね。この歌にも何かが隠されていても不思議では無い。そう思っただけの事でございます。

無道:さて、本日はこの辺りにしておきましょうか。世の中には理屈では語れない不思議なことが起こりますからね。あなたの身にも何か不思議なことがあらば、こちらの怪綺談に教えて頂ければと思います。では、またいつかお会い致しましょう。

-END-


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