ここまでの流れ:「侵害コンテンツのダウンロード違法化」&「リーチサイト規制」について
※この記事は2020年5月28日の記事を再掲したものです
【前提のお話】
映画館の上映前CM「NO MORE 映画泥棒!」でご存じの通り、映画や音楽を違法配信と知りつつダウンロードするのは「違法」となっています。
・・・ところが何と今、「マンガ」ならば海賊版サイトからいくらダウンロードしても「合法」なのです!
また、海賊版マンガのデータを収録したストレージサービス(サイバーロッカー)のURLを集めた「リーチサイト」も合法です。悲しいことにこれが大人気で、凄いアクセス数となっています。
彼ら業者は、DL高速化のプレミアム料金や、DL数に応じたインセンティブ制によって、漫画家たちの才能や努力にタダ乗りし、かなりの金儲けを行っています。(※アップロード者のみ現在も違法だが、なかなか捕まらない)
これに対して、出版社はマンガなど静止画のダウンロード行為も(映画や音楽と同様に)違法とするよう国に要望してきました。
しかし昨年、その要望を受けて文化庁から出てきた法案が、非常に違法範囲が広く厳しいもので、例えば「もしパソコン画面に2次創作イラスト(※もちろん権利者不許諾)が表示されていたら、そのイラストの保存はおろかスクリーンショットさえも違法」という厳しい内容だったため、国民のネット生活に支障が出ると大炎上!
こういった法律を「漫画家の権利を守るため」と称して導入するのは、非常に抵抗感があります。でも海賊版サイトはぜひ粉砕したい。
・・・そして、ここから長い議論が始まりました。
【発端から現在までの流れ】
■2019年2月8日
あまりにも対象が広く厳しい規制内容に対して、慎重(反対)派が議員会館で「院内集会」を開き、竹宮惠子先生や赤松など漫画家も懸念を表明。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1902/08/news154.html
■2019年2月27日
日本漫画家協会も正式に(事実上の反対)声明を発表。
https://nihonmangakakyokai.or.jp/?tbl=information&id=7718
守ってあげようとしていた漫画家側からさえ反対声明が出たことを、与党議員が重要視。極めて異例だが、自民党総務会が了承を先送りして、文部科学部会に差し戻し。
■2019年3月6日
赤松が自民党本部(知財戦略調査会+文科部会の合同役員会)に呼ばれ5分間スピーチ。推進派も同じくスピーチして激しく戦闘。
■2019年3月13日
ダウンロード違法化の法案は、正式に見送りに。
https://digital.asahi.com/articles/ASM3F31MFM3FUCLV001.html
結局、著作権法改正案が丸ごと全部潰れてしまい、「映画や音楽の海賊版DLは違法なのに、マンガなら合法」で、しかも「リーチサイトも合法」という無法状態を作ってしまう。
■2019年春~夏
文化庁が態度を改め、漫画家協会と(出版社も交えて)きちんと打ち合わせをし始める。
この夏、参議院選挙で山田太郎議員が当選。以後、自民党の知財方面で重要な役職に就任していく。
■2019年9月25日
日本漫画家協会と出版広報センター(出版9団体)が、共同声明1を発表。
https://shuppankoho.jp/doc/20190925.pdf
「海賊版を退治しつつ、ユーザーの萎縮を招かない」という絶妙なバランスを目指し、一枚岩となって協力する方向性に転換。
■2019年11月27日
著作権法案検討に係る有識者検討会1(赤松も委員として参加)がスタート。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/01/
「著作権侵害物が写り込むスクショはOK」「二次創作やパロディ等も対象から除外」など現実的な路線で議論が進む。
■2020年1月8日
有識者検討会3で、「著作者の利益を不当に害することとなる場合」という要件については結論が出ず、両論併記にして提出。議論は政治の場へ。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20200107-OYT1T50268/
■2020年1月29日
有識者検討会の結論を受けて、自民党のデジタル小委員会(小林史明委員長・山田太郎事務局長)が提言をとりまとめ。
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1232325.html
結局「要件てんこ盛り」でかつ「脱法行為も許さない」し「アップロード対策もする」というなかなかの好バランスとなる。
■2020年2月4日
昨年に続き、日本漫画家協会と出版広報センター(出版9団体)で共同声明2を発表。
https://shuppankoho.jp/doc/20200204.pdf
知財戦略調査会がまとめた(文科大臣への)申し入れ案を、バランスの良さから評価し支持する内容。
■2020年2月12日
自民党の文科部会での概要審査を通過。
■2020年2月25日
自民党文部科学部会などの合同会議で、インターネット上に無断掲載された著作物と知りつつダウンロードする行為を違法化する著作権法改正案を了承。
■2020年2月27日
自民党の政調審議会で了承。
■2020年2月28日
自民党総務会で了承。(←昨年はここで差し戻しになった)
■2020年3月3日
公明党の部会・部会長会議で了承。
■2020年3月4日
MANGA議連で内容を再確認。
■2020年3月10日
閣議決定。施行日は2021年1月1日とし、今国会での成立を目指す。
■2020年5月20日
衆議院の文部科学委員会に参考人3名(CODA後藤氏・集英社堀内社長・福井弁護士)が呼ばれ、各会派の議員からの質問に回答。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=50199&media_type=
■2020年5月26日
衆議院本会議で全会一致で可決され、参議院へ。
■2020年6月2日
参議院の文教科学委員会に参考人3名(CODA後藤氏・漫画家協会赤松・早大上野教授)が呼ばれ、 各会派の議員からの質問に回答。
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=5845
■2020年6月4日
参議院の参院文教委員会でも全会一致で可決。
■2020年6月5日
参院本会議でも全会一致で可決、成立。
https://www.sankei.com/entertainments/news/200605/ent2006050006-n1.html
改正法は令和3年1月1日に施行。
リーチサイト規制については(被害が大きいため前倒しして)今年10月1日から。
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・・・今回、「部会への差し戻し」から「有識者検討会」を経て、国会に「参考人」として呼ばれ、可決成立に至るまでを現場で実体験しましたが、一つの法案を作るのに、本当に長々丁寧に議論しているのですね。驚きました。
関係者の皆様、ご協力ありがとうございました。
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