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【書評「モラル・ハラスメント 人を傷つけずにはいられない」(マリー=フランス・イルゴイエンヌ[著]、高野優[訳])】

2024年の現在では、「モラル・ハラスメント」という言葉はすっかり定着している。これには本書の邦訳が流布されたことが寄与している。しかしながら、言葉として市民権を得た割には、事例の発生は後を絶たない。考えられる理由は二つある。一つは被害者が事案をモラハラとしてメタ認知し顕在化させたこと。いまひとつは、相変わらずの日本の組織の閉鎖性が原因で被害者は告発しにくく、果てはメンタル不調に追い込まれてはじめて事態が明るみに出ること。特に昨今ではモラハラ指摘を恐れる加害者が表面上の正当性を装うロジハラというやり方を用いるなど巧妙化しており、事態は深刻化している。この問題の始末の悪い点は、これは加害者持つ毒が被害者にとって感覚的には認知されるものの、明確な概念として表現しにくく告発に結び付きづらいからである。そうは言うものの、本書に克明に分析されている「非のない相手の罪悪感を煽り立て、心理的に不安に陥れる」という加害者のやり口の基本パターンは変わらないので、被害者の防衛と安全の確保には本書は処方箋として役に立つ。産業カウンセラーとして座右に置いておきたい一冊。
 
(2024.3.9読了)

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