見出し画像

マニラKTV☆カラオケ物語5


一瞬の出来事であっけにとられていると、ボーイがニヤニヤしながら、おしぼりを手渡してきた。


そしてヘルプの子が付いてから20分後に席に戻ってきたラーニャは、神妙な顔をして自身の過去のことを語り始めた。


『ねえ、あなたに過去のことを正直に話してもいい?』

俺は少々面食らったが、ああ・・いいよと言った。

『お願い、私のこと嫌いになったりしないでね』

俺は無言で頷いた

『私は19歳のときにタレントで日本に行ったの』

『そこで知り合ったお客さんと結婚をしたの』

『優しかったのは最初だけ・・』

『すぐに子供が生まれて、でも暴力が酷かったの』

『それで喧嘩が絶えなくて・・』

『しまいには子供にまで暴力を振るうようになって・・』

『逃げるようにフィリピンに帰ってきたわ・・』

『でもね、お金がないから働かないと』

『子供はバギオにいる母に預けてあるの』

『子供に会えないのは本当につらいわ・・・』

ラーニャの瞳からポロポロと涙が溢れだしてきた

---------------------------------------------------------------
ラーニャのこの話は、全て真っ赤なウソである
相手の男がいい鴨になりそうな場合は
都合のよい時と場所で、作り話をしながら
迫真の演技で、何時でも涙を流すことが出来る
これは極めて重要な武器になる
----------------------------------------------------------------

この時はそんな嘘をついてるなんて微塵にも感じず、ラーニャがとても愛おしくなってしまった。



気が付いたら両手で固く抱きしめていた


そしてラーニャの耳元で


『心配するなよ、お前を見捨てたりしない』


この時は本心で言っていたと思う

しかしこの時もう泥沼に足を、突っ込んでいたのかも知れない・・

ラーニャが上目づかいで明日の俺の予定のことを聞いてきた。


『朝の10時にホテルを出て、友人達とショッピングセンター巡りだよ』


それを聞いたラーニャの表情が、パっと明るくなり


『お願い、私も連れてって、まだマニラに来てほとんど出歩いてないの』

俺はフィリピーナが時間にルーズなのが分かっていたから


『いや~無理だよ、それだと君が寝る時間がないだろう』

『それに時間通り出発するから遅れたら間に合わないよ・・』

『大丈夫、絶対に遅れないで行くからいいでしょう??』

『分かったよ、10時にマビニ通りのシティガーデンだよ』


俺はあまり気乗りがしなかったが、渋々了承した。



そしてボーイが『そろそろお時間ですが、延長なさいますか?』

と言ってきたので、帰ると言い清算を頼んだ。

店長が車で送りますというので、お言葉に甘えることにした。

帰り際にラーニャと、熱い抱擁を交わした

ラーニャが俺の耳元で『インビック キタ(あなたが好き)』とささやく

嘘で固めた吐息の中で、天使と悪魔が交錯した・・

そして店長が用意した、お店の車に乗り込んだ。

時計を見た、深夜2時前だ、まだ間に合うな・・

エンジンを掛けながら『シティガーデンでしたよね?』と店長が聞いてきた。

『ごめんその予定だったけど、やっぱり・・デジャヴに行ってくれないか』

了解、店長がにやけながら車を動かす


暗闇のデルピラール通りを突っ走りながら、次の目的地へと向かった。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?