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心象風景の旅6 深淵と槍 前編



地面を叩き割り降り立った世界は焼け焦げた廃墟と化した石畳の旧い街だった。

ふと。
そこに雨が降り出した。
この雨は涙だ、と俺は認識した。
この世の生きとし生けるもの全ての涙。
炎が燃え燻った街は蕭々と雨の降る街になった。

俺とリルは街の外れまで歩いていく。
そこは海岸のようだった。

打ち寄せる波は黒い。
その海は…塩の水ではなかった。

溶けた肉、黒い闇、グツグツブクブクと泡が立ち目のない蛇のような生き物や何十本もでたらめに足が生えた蟹のようなもの、甲羅の真ん中に人間の口がある首を切り落とされた亀、背鰭に無数の目が付いた魚そうした名状し難い無数の醜悪なものたちが共食いしながら、中心の渦の中に飲み込まれて行き、絶えず姿を変える異形の海。

俺が「深淵」と名付けた虚無感の先にある狂気の海だった。
俺はユング心理学を知る前からこのどこから来るかも解らない「深淵」のイマジネーションに20代の頃からずっと悩まされていた。

心理療法を受けてからはこの「深淵」を消し去るためにイマジネーションを重ねていた。
一時はこれが変質し優しげで豊かな海に変わっていた。

だが…俺はカウンセリングでこの「深淵」を母だと心理士に明確に言った。
今までそううっすら感じる事はあっても言葉にはしなかったように思う。

「自分の情動をちゃんと再体験しよう」という取り組みを行い、怒りや悔しさ、悲しさをそのまま感じようとした矢先にこの「深淵」が再び現れた。

触れる事も許されない異形の海は地平線まで広がっていた。

海辺に近い場所でザブリと波が隆起ししばらく前に夢で見た女性の幽霊のような者が現れた。

内容は忘れたが面倒な事を言っていたので剣でバラバラにした。
その後その女性の幽霊が波打ち際に無数に現れたので俺はtrue  endを呼び出し全てバラバラに切り刻み呵呵大笑した。

「深淵」の砂浜の海辺はバラバラにされた女の幽霊の無数の四肢が打ち上げられていた。


克明に記すために書いた。
ボーダー全開の病理的なイマジネーションだ。
カウンセリングを終えたあと現れた「深淵」が原因なのだろう。
炎獄は雨と共に姿を変え雨の降る燃えカスだらけの鎮火した廃墟になった。
カウンセリングでエモーショナルに(一年半ぶりくらいに涙を流した)いろいろ吐き出したためマグマのような情動は一時的に昇華したのだろうか。

この醜悪な海も常軌を逸した俺もまだ「俺の中」に在る。
だがもう否定はせず、行動化もせず「ただ体験する」事に努めようと思う。
そういう意味でいつの間にか知性化のイマジネーションで覆い隠してしまったものが蘇ったのはある意味収穫だったかも知れない。

「深淵」

俺の中の狂気。
俺はこれに飲み込まれず、かと言って拒絶もせず対峙しなければならない。

地蔵(心理士)に涙ながらに言った「答えを出さない勇気」を俺は実践出来るのだろうか。


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