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釣り人を襲ったクマ、女性2人重傷も生還|北海道・木古内|平成11年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。

はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることに繋がることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。


事件データ

木古内町上磯郡付近(参考:『北海道新聞』1999(平成11)年5月11日(6版)
  • 発生年:1999(平成11)年5月8日・9日

  • 現場:北海道木古内町

  • 死者数:1人

釣りを目的として
川へ向かい連絡不通に

1999(平成11)年5月8日、午後1時ごろ函館の自宅を車で出発したA(47歳)は、釣りを楽しむため、1人で木古内町きこないちょうのトンガリ川を目指した。函館から木古内町までは1時間~1時間30分ほどの距離。その後、夜になっても本人と連絡がとれず、帰宅しなかったため、家族が警察に捜索願いを出した。

翌9日の朝、現場付近を捜索していた警察車両は、ケガをした女性2人が乗った軽トラックと出会い、山菜採りに山中に入ったところをヒグマに襲われ、逃げてきたことを確認した。

前日の行方不明の男性もヒグマに襲われた可能性があることをもとに、警察官と猟友会会員ら約80人が集められ、午前9時ごろから林道や川などの捜索を行った。すると川の左岸沿いにAの遺体を発見するに至った。

Aが向かったトンガリ川とは木古内川の支流で、現場は国有林の山中。道道木古内江差線の大川ゲート手前に通称「トンガリチリチリ林道」と呼ばれる林道の入り口があり、その道はトンガリ川と平行して知内町方面へと続く。林道は基本的に森林管理署職員用なので、入り口ゲートは閉まっている。

Aは、ゲート手前に車を置いて川に向かったと思われる。遺体があった場所は、車を駐車した地点から約150mの川の左岸。川の幅は約6m、水深は10~20cm程度の浅瀬だった。

左岸際に大きな岩が一つあり、その岩と岸辺の間に頭部を下流側に、両足は上流側に向け水の中に浸かり、あお向けに倒れていた。

その岩に、本人が着用していたと思われる、引き裂かれた焦げ茶色のカッターシャツが引っかかっており、そのほか、釣り竿やサングラスなども水の中から発見され回収されている。

窪地に身を潜めて
獲物を監視するヒグマ

検死によると、男性の死亡推定時刻は午後4時ごろ。午後1時に自宅を出て、現場に到着し午後3~4時ごろ、釣を始めてまもなくヒグマに襲われたものと推測される。

Aは、釣り用の「胴長」と呼ばれるゴム長靴と防水ズボンが一体になったものを着用していたが、その靴部分は両方がちぎれ、上半身の着衣が頭部方向へめくれ上がっていた。

そのため、ヒグマは岸辺で釣りをしていたAを襲って水中に倒し、足をくわえ、遺体が発見された場所まで引きずって行ったと思われる。

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