![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141343440/rectangle_large_type_2_65d34eca68badecddc3c1c6626b51e3f.png?width=800)
【密着取材】猪咬み止め谷落とし 〜 猪犬と歩く猪単独猟
本稿は『けもの道 2018春号』(2018年4月刊)に掲載された特集「2017年猟期 猟犬と歩く。その先にある光景」を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。
狩猟を行なうには狩猟免許の取得、猟具等の取得・所持の許可、狩猟者登録などの手続きが必要なほか、狩猟期間や猟法、狩猟できる区域や鳥獣の制限等があります。狩猟制度に関する情報については「狩猟ポータル」(環境省)等でご確認ください。
山梨県は富士山を臨む山中湖。その湖畔に暮らす猪猟師、羽田健志さんの猪狩り、猪犬を連れた猪単独猟に同行した。近年、各地の狩猟イベントで講演を務める羽田さんの、会場では語られることのない実猟の姿を追った。
取材・文・写真|佐茂規彦
犬で猪と勝負する
羽田さんは主に本川系四国犬(以下「本川犬」)を好んで使い、それをベースに繁殖させている。本川犬とは、四国犬の一系統であり高知県本川村を発祥とする。
「本川の犬は訓練所でも山でも同じ動きで、(猟)芸は安定してる。鳴きも咬みもあるし、猪にやられて潰れてしまう犬も滅多にいない」
本川犬のほかは紀州系の和犬、そして実猟家では珍しくアラスカのエスキモー、マラミュート族の労働犬を祖とするアラスカン・マラミュート、それらを掛け合わせた自家繁殖犬を使う。
常時、数多くの犬を飼育しているが、単独猟に連れて行くのは山で主人とのコンタクトが良く、1頭でも猪と「勝負」できる犬に限られる。多くの犬を放しても、バラけてしまえば数の優位性は失われるからだ。
「猪を起こすときは1対1の勝負。1匹で勝負できる犬だけ連れて行く」
羽田さんは「勝負」という言葉をよく使う。地形や相手となる猪を読み、獲るための犬を選び、自分一人と犬だけで猪に挑む。勝つときもあれば負けるときもある。
![](https://assets.st-note.com/img/1716268636954-DZsLmJ3xwn.png?width=800)
話を伺った人|羽田健志さん
山梨県猟友会青年部長。若かりし頃から犬とともに山を歩き、数々の野生動物と対峙して来た山人。狩猟界の中では若手に当たる年齢40歳代にして、猟歴18年、犬とともに山に入り始めて24年を数える。自身繁殖の猪犬を使い、狩猟期中は単独またはごく少人数での猪猟を行う。環境省主催の『狩猟の魅力まるわかりフォーラム』で基調講演を務めるほか、狩猟免許更新時の講師なども担う。
1番は「犬」2番は「意地と根性」
羽田さんは犬とともに斜面を駆け上がって行く。取材のためにピタリと着いて行こうと思うが、こちらが中段まで上がるころには、息も乱れない涼しい顔で尾根の上に立ち、GPS受信機の画面を見ながら犬の位置を確認している。
![](https://assets.st-note.com/img/1716267619186-m5xXaMiPYo.png?width=800)
羽田さんの体格は小柄で細身。身軽であるということは渉猟には有利だが、この足の速さの秘訣はそれだけではないはずだ。
「村のベテラン猟師も足が達者で、若手から『なんでそんなに速く歩けるんですか?』って聞かれてる。
そしたら『バカヤロウ、誰だって足はダルいんだよ、根性で歩いてんだ』って答えてる。俺も聞かれたら同じ答えだよ」
狩猟の格言に「一犬、二足、三鉄砲」とあるが、羽田さんの場合、2番は「根性」。それに「自分自身との闘いに負けたくない」という「意地」が加わる。
「生まれつき山で足の速い猟師はいない」という羽田さんの言葉を全国の若手狩猟者にぜひ贈りたいと思う。
![](https://assets.st-note.com/img/1716267582092-9kG5VXm1DI.png?width=800)
猟師とケンカはしない
尾根の途中で、それまでノーリードで捜索させていた銀牙をつないで歩き出した。
「この尾根の向こう側は、ほかの猟隊との取り決めで俺は犬を掛けないことになってる。だから犬をつないで通り過ぎることにしてる。山で誰が見てるわけでもないけど、それがルール」
![](https://assets.st-note.com/img/1716267716610-8CjOng26hi.png?width=800)
羽田さんは鉄砲を持って猟を始めたころは、若造に猟場を荒らされると思ったベテラン猟師から、山でたくさんの嫌がらせを受けた。
既存のグループに属さない者はつまはじきにされる。当時の閉鎖的な狩猟の世界では珍しくないことだった。
車に悪戯されることは日常茶飯事、「お前の犬を山で見かけたら殺す」とまで言ってくる者もいた。
しかし、他の猟師とケンカはしないと心に決めていた。争ったところで同じ地元の人間同士、逃げ場はなく、何より山で猟がしたかっただけだからだ。
「皆が欲しがるような良い猪犬を作ってやろうと思った。だから犬を作って、猪を獲った」
羽田さんは自ら猪犬を作出し、その犬で猪を獲り続けた。犬を作り、犬で獲っていると聞けば、他の猟隊の勢子の見る目も変わった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?