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狩猟における止め場の対処 〜 咬み止め編

本稿は『けもの道 2017春号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

狩猟を行なうには狩猟免許の取得、猟具等の取得・所持の許可、狩猟者登録などの手続きが必要なほか、狩猟期間や猟法、狩猟できる区域や鳥獣の制限等があります。狩猟制度に関する情報については「狩猟ポータル」(環境省)等でご確認ください。

この号が発刊される頃は、春爛漫の日々の中、過ぎ去った猟期を振り返りつつ、次の猟期へ向け犬の仕込みや犬づくりに余念がない方々が多いことだと思います。

また、各地で猪犬競技会や訓練会がたけなわである時期でもあります。そして、猟期が終わったのも束の間、有害捕獲や管理捕獲などで相変わらず山入りの日々を続けている方もいることでしょう。

ここ最近、狩猟というものが少しだけ脚光を浴びるようになり、狩猟免許を取得する若者が微増し、その中にはすぐに「プロハンター」を名乗る人、自らのことを憚りなく「猟師」と称する人、少し狩猟の世界に触れたらそれをすぐさまビジネスに利用する人など、いろいろな若者が見受けられるようになりました。

私などは、犬と共に山に入り獲物を追いかけ始めてから積み重ねた年数がやっと人生の半分を超えたところで、尊敬する周りの方々からすればまだまだ青二才の小僧。とてもおこがましくて自分で自分のことを「猟師」とは名乗れません。

また、猟期を経るごとに、狩猟の奥深さを痛感させられ、新たな壁や課題にぶつかり、反省点を次の猟期までに克服するようあがく日々を毎年送っています。

しかしながら、自分としてはそれなりに真剣に犬を中心とした狩猟に向き合って来たつもりではいますので、今回は、拙い経験の中からではありますが、少しでも皆様の参考になればということで拙文を綴らせていただきます。

文|羽田健志


犬が猪を止めるということ

一口に「犬が猪を止める」といっても、いくつかのパターンがある。

がっちりと咬みついて止めている「咬み止め」、フットワーク巧みに鳴きながら隙を見て咬みを入れたりする「絡み止め」、そして猪の体にはほとんど、または全く触れず鳴いてその場に留める「鳴き止め」あるいは「吠え止め」、概ねこの3パターンに分類される。

また犬が猪を止めているのではなく、猪が自らの意志で止まっていることもある。このような場合、鳴いている犬もいるが、鳴かず(鳴けず)にポイント(猟犬が獲物の居場所を猟師に指示すること)のような仕草をする犬もいる。

普通、犬と共に独りで猪を獲ろうとする場合、これらの「犬が止める」ということが前提である。ゆえに、単独猟師は優れた「止め犬」を求め、自らは経験を積み重ねながら止め場での対処技術を高めていく。

しかし、グループで巻き狩りをしていても、時には犬が猪を止め、あるいは猪が止まっていることがある。こうなると、犬持ち(勢子)は犬の受傷の心配等もあり近くの人に一秒でも早く対処してもらいたいので「早く行ってなんとかしろ!」と無線で檄を飛ばす。

しかし、自分がいるタツマの目の前で犬が猪を止めていても、猟経験が浅かったり、また経験年数は長くてもタツマ専門で止め場に慣れない人だと、どう対処してよいか分からない場合がある。

止めているということが理解できなかったり、あるいは理解していても止め場に行って犬が絡んでいて、万が一にも犬を撃ってしまっては困るという思いから、足が動かない等ということが往々にしてある。中には困り果てているのか無線の応答すらないことも。

今回は、犬の「咬み」による止め場での対処についての寄稿であり、すでに単独猟で結果を残し続けている方々やベテランの方々には釈迦に説法となってしまうが、もし前述のようなことを経験された方々や、これから単独猟を始めようとする方々、単独猟でも思うようにならない方々には参考にしていただけたらと思う。

ただし、記述内容は自身の経験に基づくものであり、猟場、犬、また猪にも個体差があり、数限りないパターンがあるので、あくまで参考程度に頭の片隅に置き、あとは経験を経て自分なりの必勝パターンを構築していただきたい。

“止めている” のか “止まっている” のか

咬み止めへの具体的な対処法を述べる前に、「犬が猪を止めている」ということと、「猪が自らの意志で止まっている」ということの違いについて説明する。

一般的に、犬が咬んでいて猪が物理的にその場から動けない以外にも、絡んだり鳴いたりしながら猪と対峙している犬の力が勝っていて猪が逃げられない状態を、「止めている」という。

一方、犬が鳴いていたり、ポイントのような仕草をしていて、猪はその場に止まっているが、逃げようと思えばいつでも逃げられる状態を「止まっている」という。

特に鳴き止めの場合、止めているのか止まっているのか、区別がつかないこともあるかもしれないが、概ねの判断基準(もちろん相手は野生なので例外もある)として、犬が止めていれば、猪は寄り付く人の気配を察知しても「動かない」=「動けない」ので、その場に止まっている。雑に寄り付いても、猪に這われることはない(しかし、後述するが、単犬で咬み止めている場合などには振り切られることもある)。

このような場合、逃げられない猪は逆に人が近づくと(特に目が合うと)こちらに突っ込んで来ることもある。犬が猪に絡んでいても、猪の目は人を追っていることも多い。

犬が猪を止めているのではなく、猪が止まっている場合は、寄り付く人の気配を察知すると、人が近くに到着する前に猪は動き出す。

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