映画「漆黒天-終の語り-」感想&考察

映画の感想をFilmarks、舞台の感想をふせったーに書いていたのですが、一か所にまとめておきたくなったのでnoteに転記しておこうと思い立ちました。
いずれも初出は別のサイトですが一部推敲しています。


荒木宏文というとんでもない俳優にぶつける相手が、鈴木裕樹をおいて他にいるとしたら、それは他ならぬ、荒木宏文自身…ということか…。ものすごい作品を見た…。
パンフで坂本監督もおっしゃってたけど、せっかくの映画なので時代劇らしい引きではなくアップが多くて。あのミステリアスなあらやんの表情を大スクリーンで体感してしまったよ…別にアップだからといって何かがわかる、とかそういう単純な話ではなく、ただただ引き込まれ飲み込まれるだけなんだけど、その体験がなによりすごかった…。

まあ早速考察ですけども。
陽之介:武家の嫡子として育てられる。おそらく時代は江戸初期なので、武士がこぞって道場を開くなどして食い扶持を稼ぐようになった時代(ムビステは前2作も一貫して江戸初期ですね)。道場主として平和に暮らしていた。玖良間の率いる討伐隊の相談に加わる。討伐隊の情報が洩れ、道場が襲撃される。自分に成り代わって帰宅した旭太郎に妻子を惨殺される。(ここまで確定)→引き続き討伐隊の一員として活動を続ける?
旭太郎:獣腹を忌み嫌われて捨てられ、野伏に拾われて育てられる。養親を殺し日陰党を結成、討伐隊の情報を得て道場襲撃を行う。陽之介の道場を襲ったとき、双子の陽之介を見つける。彼を観察して成り代われるまでになり、陽之介の妻子を惨殺する。(ここまで確定?)→あまりに強く陽之介をトレースしたため、自らが陽之介自身だと思い込むようになる。妻子を殺されたショックを受けて崖から身を投げる。名無しとして江戸に現れる。

これでいくと…→のタイミングで入れ替わってもぜんぜんおかしくない。崖から身を投げたのは、妻子を殺されて真っ当にショックを受けた本物の陽之介かもしれないし。そして陽之介がいなくなった討伐隊に、自分が陽之介だと強く思い込んだ旭太郎がするっと入ったかもしれない。だってずっと観察してたんだもの、それまでの情報を把握して入れ替わることだってできるでしょう。
そして方や道場主、方や野伏の養子で、剣の腕だってどちらも相当なものでしょう。だからどっちがどっちでもおかしくない。どっちがどっちだったとしても、討伐隊を皆返り討ちにすることもできるだろうし、どっちだろうと記憶のない状態だったら嘉田蔵近も斬れるだろうし。えええ、これ、陽之介が、自分ではそうとは思い出せないまま、親友を斬ってしまっていたとかだったらしんどいな…でもそういうの好き…←
最後の二人の死闘、あれ、傷のつき方が同じなんだよな…どちらかの頬に傷がついた、これで見分けがつくか、と思ったらもう片方にも。そして額にも同じタイミングで。そうなのよね、どっちがどっちかはわからないけど、「本物の陽之介」vs「陽之介の剣の型をトレースした旭太郎」だから、同じ剣技で戦っているわけで。だから同じところに傷がつく。記憶を取り戻す前、名無しとして戦ってるときはもっと荒々しいけど、最後の戦いは完全に同じ手の二人の剣士が戦っている。
その直前の、玄馬先生に、もし自分が旭太郎だったらそうする、と語る場面も、あんなにはっきり語れるならお前が旭太郎なんだろう、とも言い切れない。だって、繰り返しになるけど、両者とも方向性は違えど優れた剣士なわけで、そして同じ血を引く双子なわけで。だから、旭太郎が完全に陽之介に成り代われるならば、陽之介もまた、あたかも自分が旭太郎であるかのように、旭太郎ならこうする、と語ることだってできてしまうのではないかな、と。そういう、他人のことを想像し体現する能力が、きっとこの双子にはあったのだと思う。
まあこれはもうあらやんの芝居の力も大いにあるが…。旭太郎の思考を語っているときは旭太郎に見えるけど、でも「俺は宇内陽之介だ」って言われるともうそっちにしか見えなくなる。

じゃあ結局どっちがどっちだったんだ、って話をすると。自分でも答えは出てないけど、手がかりになりそうなところは2つ見つけている。
1つは、玖良間の屋敷で、短刀で名無しに襲い掛かった喜多。名無しの返り討ちにあって、殺したかった、でも芝居で優しくした、みたいなことを言ってて。そして最後の最後、とどめを刺される直前に、何か躊躇うような素振りがあった…ように見えた。これ…もしかしてここで、今まさに自分が刃を向けている名無しが、本当は姉が愛した夫、宇内陽之介だって、なんとなく気づいた、のでは??あれ、最後にもう少し、反撃しようと思えばできたような、変な間があるように見えて。それが、殺すべきはこっちじゃない、って気づいたから、なのだとしたら???というのが1つ。
そしてもう1つはやっぱりラストのあの笑顔…。「笑えるのだから陽之介」ともとれるし、でも「陽之介を討ち、日陰から日の当たる場所に出られた旭太郎が初めて笑った」ともとれる。これは舞台でどう描かれるかだと思う。舞台でもおそらく、笑顔が一つのキーワードになってくるような気がしてて、例えば舞台で旭太郎が「俺は日の当たる場所に行ったらそのとき初めて笑うだろう」なんていう壮大なフラグになるセリフを吐いたりしたら、それで映画のラストは確定する。まあ他にも、逆に旭太郎が一生笑わないと宣言したり、あるいは陽之介の方が何かフラグになるセリフを言ったりするかもだけど(そもそも舞台に陽之介は出るのかな)。

末満さんの作品は、人間はどこまでも狂える、ということを描いてくれるから好き。自分のことを別人だと思い込む、ということが、人間には可能なんだと思う。その狂気を、否定も揶揄もせず、ただそうあるものとして提示してくれる。それこそ舞台オリジナルのTRUMPシリーズでは、指示によって人間の思考や認識を強制的に狂わせる、ということも描いているけど、おそらくそんな機能がなくても人間は簡単に狂える。
だって、そう、あの場面。惨殺された妻を抱き起こす陽之介。あれが旭太郎の可能性だってあるわけで。もともと旭太郎は、陽之介が不在にする時間を狙って、陽之介に成りすまして帰宅して。そして3人を殺した直後からもう狂い始めて、まさしく自分のその手で殺したばかりの妻を抱き起していたって、なんら不思議じゃない…。着物は違うからその場ですぐにではなく、いったん屋敷を離れて着替えてから、なのかもしれないけど。こんな想像を掻き立てられるくらいには、人間の狂気には果てがない、常識や道理なんてものは吹けば飛ぶような脆いもの、っていう世界観が今作も伝わってきた。
というかもうオープニングの一文で完全解釈一致なんですわ…太陽の存在を否定してるわけじゃないんだよ末満さんは。ただ、それが当たる人と当たらない人、というのはもう、自分ではどうにもならない様々な巡り合わせで決まってしまう部分が大きい、というところなんですよ…。

そして!そんな末満さんの世界観を、鮮やかにスピーディーに撮った坂本監督!!アクションのイメージが先行するけど、人間のダークな面もしっかり深く、それでいてテンポよく描いてくれる。自分、ウルトラマンジードが大好きなんですけど、あの安達先生が本業でもお得意の、十代の少年少女の情緒をめちゃくちゃにするようなやつとか、敵側の哀れなドラマとかも、軽く明るく流すのではなく、重厚でありながらテンポよく、っていうあの好きな感じが今回も出てた。

あとはもう好きなキャストしか出てないんで一人一人挙げるのも今更なんですけど…松田凌はいつも完璧だし、加州清光のときも思ったけど近年特に色気がすごい。長妻怜央くんは前にタンブリング(2021)で見てめっちゃいいな!と思ってて今回もかわいかった。しにつかの十蘭の安井くんといい、7ORDERみんなポテンシャル高いよなあ。橋本祥平くん、太鼓鐘貞宗と月永レオのイメージ強かったけどこういうのもいい!舞台楽しみ!宇梶さんは笑え!っていうのがどうしてもオーズのハッピバースデイ!がよぎっちゃったけどwでも圧がやっぱりすごかった。唐橋さんはほんとに何考えてるのかわからない顔をする。ふざけてるときも本気なのかわからない感じ。そして寛也さんが…!ムビステ3作目にして、こう来たか…!これまで2作とも、愛されキャラみたいな感じだったのに!小津翼も陣マサトも軽い感じだし、こんながっつりダーティーでかっこいい感じなの見たことないよ!?←
あと小澤くんはアクション得意なだけあって所作も美しいなあと思ってたら、パンフによるとたくさん練習されたそうで。刀の殺陣は初めて見たけどやっぱこの人かっこいいわ…身体がぶれずにしっかりしてる。逆にジードのレイトくんはなぜキャスティングされたの?ってくらいwたぶんゼロ憑依時のイメージなのかなw
今作はヒロイン二人も良かった…!!ムビステシリーズでは特撮出身者がおなじみだったけど、ヒロインはなぜかアイドル出身とかだったのよね。今回は有紗ちゃんが!すごくよかった!有紗ちゃんの姉が藤子ちゃんってのもしっくりくるし。前作は姉の設定がだいぶ年下のキャストだったからね…。繰り返しになるけど、最期のときに名無しに向ける喜多の表情が、何かを訴えているようですごくよかったんだ…。同じく富士の死に際の顔もよかったなあ…あれ、ほんと、どこまで気づいてるのかなあ…。自分としては、愛する人に殺されるなんてある意味幸せ、とか考えちゃうけど、子ども殺されてるとなると話は別だし、そして、本物の陽之介が帰ってきたことで、偽物に殺されたって気づいちゃったかもしれないじゃん…つらい…。旭太郎と陽之介の双子もいろいろあるけど、こちらの姉妹も、何か女の感のようなものがあるようにも見えた。
そして。ずっきーさん。あの、ニキニキ!とか言ってた子が、こんなに渋い大人になりましたよ…。あらやんは当時からミステリアスで大人っぽくて、昔と今で大きく変わった、って感じはしないけど。ずっきーさんは、刀ステの真田信繁もすごかったけど、今回もすごかったよ…。昔のかわいらしさがなくなったわけじゃなくて、捜査一課長とかでは柔らかい雰囲気だけど、あの、迫力…。憎しみだけで人を睨み殺しそうなあの表情。これもドアップで見れてものすごかった…。すごかったしか言ってないな。

時代劇ムビステも3作目ともなると、ニチアサ見ててあ!茨城県のあのへん!ってなるのと同じく、太秦京都撮影所の場所もわかってきますなw陽之介の屋敷はしにつかの水野の屋敷だし、幻士郎が大坂屋を探していた船着き場で名無しと喜多が人相書配ってた。ちなみにこの船着き場の近くはGOZENで恋する二人が出会うところでもあったはず。
とりあえずまずもう1回観に行きます!!!

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