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電気のおはなしその37・真空管(2)三極管

前回、真空にしたガラス管の中にフィラメントやヒーターを挿入し、さらにもう一つの電極を挿入することで、一方向のみに電流が流れる素子、すなわちダイオードを形成することができる、というお話をしました。
こうすることによって交流から直流を作ることができる…のは良いのですが、実はそれだけではイマイチ役に立ちません。というのも、我々が求めるのは、長距離伝送する間に小さくなってしまう信号を増幅する手段が欲しかったからなのですね。実はこの「信号を増幅する」という手段が無いために、せっかく発明された二極真空管もあんまり役には立ちませんでした。
アメリカの発明家ド・フォレストは、1906年に、二極管のフィラメントとプレートの間にグリッドと呼ばれる網状の金属を挿入した三極管を発明しました。最初の頃は、三極管が大きな増幅作用を持つことに気付かれることがなく、せいぜい多少性能が良くなった二極管という程度の扱いを受けていましたが、第一次大戦・第二次大戦と世界的な戦禍に突入していく中、軍事兵器としてあらゆる技術が見直される中で三極管の増幅作用が注目され、一気に真空管の性質が明らかになっていくと共に爆発的に普及することになりました。
三極管は、次の図のような構造をしています。

図1・三極管の原理図

フィラメントまたはカソードから飛び出した熱電子は、真空中をプレートに向けて飛んでいくのですが、このとき途中に挿入されたグリッドを通る際、カソードに比べてグリッドの電圧を負にすると、飛んできた熱電子はクーロン力によって反発力を受けて跳ね返されるため、プレートに到達することができません。そこでグリッドの電圧を上げていくと、やがてグリッドの隙間を電子が通り抜けるようになり、プレート電流が流れるようになります。すなわち、カソード・グリッド間に掛ける電圧により、プレート・カソード間に流れる電流を制御できることが分かります。
したがって、カソード・グリッド間にマイクを接続し、カソード・プレート間の回路の途中にスピーカーを入れることで、マイクに流れる微弱な音声電圧を増幅してスピーカーから大きな音として発することができるようになります。
また、増幅作用によって安定した発振回路を作ることもできるようになった結果、電波の利用も飛躍的に進歩しました。それまでは、火花発電機などを使って、周波数なんか関係ないからとにかく飛んでいく電波で無理やり押し出していくという手法だったものが、真空管によって目的とする周波数をピンポイントで発振し、効率よく増幅してアンテナに導くことができるようになったわけです。大昔の物語のように書いていますが、これ、たった100年くらい前の出来事なんですね。いかにその後の科学技術が恐ろしいほどの勢いで発達したのか、って話ですね。

図2・直熱型三極管の回路記号
図3・傍熱型三極管の回路記号

私は真空管工学の専門書も持っているので(今は無き、明大前の古書店で買ってきた覚えがあります)色々と論理的な考察はできるのですが、そういう難しい話は本旨と離れてしまうので、簡単な話だけ少しして終わることにします。
三極管は、その構造から分かるように、基本的にはカソードとプレートの間に掛ける電圧を高くすればするほど、P-K間の電界が強くなるため、プレート電流が多く流れるようになります。また、P-K間の距離を狭めたり、極板どうしの対向面積を大きくするほど電流が流れすく(内部抵抗が小さく)なりますが、その分逆方向電圧に対する耐性は悪くなります。
P・G・Kの位置関係も重要で、G-K間の距離をできるだけ狭めたり、グリッドの網の目を細かくしたほうが増幅度(グリッド電圧の変化に対するプレート電流の比)は大きくなりますが、余りに近づけすぎるとKからの熱放射を受けてGの温度が上がり、Gからの電子放射が起こりやすくなってしまいます。
…というわけで、細かい話をし出すとキリがないため、次は四極管以上について一括で話して、トランジスタに戻ろうかなと思っていますよ。

以上。

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