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スウェーデン留学思い出の味、ファラフェル

スウェーデンに留学していた。大学時代の話だ。当時わたしはスウェーデンについて、「なんかいい感じの国」というイメージしか持っていなかった。IKEAの存在も知らなかったし、ABBAがスウェーデンのバンドだということも知らなかった。大学が提携している留学先の大学の多くがアメリカやカナダ、イギリスである中、英語圏ではなくよくわからないスウェーデンに興味津々だった。この機会でもなければ一年間スウェーデンに住む機会なんてないだろうと思ったし、英語以外にスウェーデン語もわかるようになったらお得だと思った。

留学先のルンドという町は、海を渡れば隣国デンマークのコペンハーゲンという、スウェーデン最南端のスコーネ地方にあり、学生の人数が地元住民の4倍とか5倍とか言われる大学街だった。

そしてはたと気づく。スコーネ地方って、聞いたことがある。わたしが子供の頃から大好きで、ビデオテープが擦り切れるまで何百万回も観た、「ニルスのふしぎな旅」のニルスの旅の出発地じゃないか。あれ、スウェーデンの童話だったのか。わたしは潜在意識下ですでにスウェーデンと出会っていたのか。

ちなみにニルスとガチョウのモルテンが加わる雁の群れは、非常にリーダーシップがあり頼もしい雌のアッカ隊長が率いている。今思えばさすが北欧という先進的であり、落ち着きがあり判断力に優れたアッカ隊長は、今でも理想の上司だ。

ルンドに渡って初めて知った食べ物は数多くある。真っ黒で見た目も味もタイヤみたいなlakritsという菓子(英語ならリコリス、フィンランド語だとサルミアッキ)や、細かくてどこにでも紛れ込み、触れるものをやたらと爽やかにするハーブのディルがその一部だ。そして、キャンパスのある街の中心から、徒歩で一時間近くかかるわたしの寮までの道中にあったケバブ屋で、別の日本人学生から「あのケバブ屋ですごくおいしいものを売っている。あんなにおいしいものは食べたことがない」と激推しされて食べてみたのがファラフェルとの出会いだった。

うまっ。なんだこれ。ゴルフボール大の揚げ物と野菜がギッシリ巻かれたフワフワのロール、揚げ物はコロッケみたいだけどもっとザクザクに揚がってて、カレーっぽいスパイシーさもある。割ってみると黄緑色。これは何。そして、一度に食べきれないボリュームでたったの15クローナ(1クローナ=18円くらい)。外食が高いスウェーデンでこれは。

どうやって作ってるんだろうと、店の脇に回り込み、開いていた窓枠に指をかけてつま先立ちで厨房を覗き込むと、大きなボウルに山盛りの、案外ポロポロとドライ感つよめの黄緑色を、お兄さんが二本のスプーンで器用にギュッギュと固め丸めて、リズミカルに油へ投入していく。

なぜあんなポロポロの具がうまいこと丸く固まる。。?ますます集中してお兄さんの手元を凝視していると、表で接客していたほうのお兄さん2がいつのまにか厨房へ引っ込んでいて、わたしを静かに見つめているのに気づいた。ヤベッと思って窓枠から手を離すと、お兄さん2のほうから窓の外へ手を差し出してきた。「どうしたの?食べる?」揚げたてのファラフェルを一つくれた。

ひもじい子供と思われたのかのだろうか。ちょっと面白かったので、寮に戻ってから、まことにモテる友達に報告したところ「何それ!わたしその店の人から電話番号しかもらったことない。わたしもファラフェルが欲しい」と羨ましがられた。なおわたしは電話番号はもらっていない。というわけで餌付けされたわたしは一年間同じケバブ屋に足繁く通い、最も安い「storfalafel」(大ファラフェル。最小サイズが「大」)15クローナを食べ続けた。ケチャップやバーベキューソースなどから選べるソースの種類は毎回同じ、vitlök(ニンニク)。白いヨーグルトっぽいさっぱり系のソースにニンニクがガツンと効いている。最初は二回に分けて食べていたものの、すぐに一度で完食できるようになりました。

スウェーデンにはミートボールやサーモン料理やニシン料理、アンチョビとポテトのグラタンのヤンソンスフレステルセ(ヤンソンの誘惑。名称の由来は諸説あるが、厳格な修行僧ヤンソンでも誘惑に負けて食べてしまうほど美味しいという逸話が好き)などの地元料理もあるのだが、節約命の学生の舌の記憶に一番残ったのは、ファラフェルだった。(のちに、ルンドやマルメは、スウェーデン国内でもファラフェルが美味いことで有名だったことを知る) ↓写真は、作ってもらったヤンソンスフレステルセと、このあと大惨事を巻き起こすことになる可愛い缶詰

一年経って帰国して、日本ではファラフェルという食べ物の知名度が極めて低いことに気がついた。どこにも売っていない。はなまるうどんぐらい増えてほしいのに。今でこそファラフェルブラザーズなどのチェーン店が渋谷などのメジャーな街に出店するようになったが、ほんの10年前、ファラフェルを知っていて食べたことがあるという人は東京にもめったにいなかった。
なので、ヨーロッパへ行くと記憶をたぐるようにファラフェルを必ず食べるのだけど、そしてやっぱり美味しいのだけど、ヒトは初めて食べたファラフェルに付いていく習性があるので、やっぱりパンは挟むのでなくロール状であるべきだし、ソースはガーリックヨーグルトであってほしい。それにしても、パリのマレ地区にある有名店L’as du Falafelは、恐らくタヒニが入った濃厚ナッツ系ソースで、グリルした茄子とか入ってて美味しかった。パリのイメージに引っ張られてるのかもしれないけどオシャレでした。完全に引っ張られています。

というわけで、自分で作るしかないので作れるようになりましたという話です。パセリをたくさん入れたほうが美味しいので、パセリ大量消費レシピとしても。

<ファラフェルの材料> 15-20個ぐらい
・ひよこ豆 カルディとかで売っている水煮の缶詰め1個全部 400g(いきなり邪道。ファラフェルらしい食感は、「乾燥豆を戻して、加熱せず潰す」ことで生まれるらしいので。。わたしは待てないので水煮缶を使ってしまいますが、待てる人は乾燥豆を使ってください。生の豆を使ったほうができあがりも食感がザカザカして噛みごたえがある感じ)
・玉ねぎ みじん切り 半分
・小麦粉 スプーン1杯
・パセリ 片手でワッサと掴むぐらいの量を2つかみ分。パクチーでももちろんいいけど、こればっかりはわたしは両方やってみた結果、パセリだけのほうが「あの店の味」でした。
・クミンとターメリックをスプーン1杯
・パプリカパウダーとチリパウダーをティースプーン1杯(ぶっちゃけカレー粉で全然いいと思います)
・ニンニク 1.5片 2個分をみじん切りにしてください。0.5個分はソースのほうに使います。
・塩胡椒 ふたつまみくらい

<ソースの材料>
・無糖ヨーグルト スプーン4-5杯
・塩 ひとつまみ
・ニンニク さっきの0.5片

<ファラフェルの作り方>
①ひよこ豆を潰す。フープロがあればとても楽。わたしはないので、ボウルに少し缶の中のひよこ豆水と一緒に豆を入れて、床に置いたボウルを両足で固定してすりこぎでドッチドッチと地道に潰す、縄文人スタイル(イメージ)です。

②<ファラフェルの材料>のひよこ豆以外を全部入れる。玉ねぎは水が出るのであとで油跳ねの原因にもなるので、フープロで一緒に潰せないなら先にみじん切りにした時に少々塩を振って揉んでおいて、水を出させたほうがいいと思う。ちょっとポソついてると思ったら、ひよこ豆水をちょこっと足す。

③よく混ぜたら少し冷蔵庫で馴染ませる。ソースをこの間に作ります。
④ソースは5分くらいでできると思うので、そしたら冷蔵庫内、ソースとバトンタッチ。ボウルを出して、ピンポン球サイズにどんどん丸めてほんの少し平たく仕上げる。まあ丸でもいいんですけど、家庭では平たくしたほうが油が少なく済むし、早く火が通る。
⑤フライパンに油を引いて着火。小麦粉を振ってみてシャワシャワと泡立つくらいの高音になったら、静かにフライパンの中にファラフェルを置いていく。ゴードン・ラムゼイが言ってたんですが、ランダムに置かずにフライパンを時計に見立てて12時の位置から時計回りか反時計回りに置いていくと、どの順にひっくり返せば自分がわかりやすくてよいそうです。

⑥外側がこんがりしたら完成。そのままでもよいし、好みのパンや野菜と一緒にいただきます。

なお、ルンド大学のあるエリアを卒業後何年かしてから訪ねてみたところ、わたしたちの胃袋を支えたあの思い出のケバブ屋は潰れていて、居抜きで「地獄」という名前のバーになっていました。諸行無常。


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