[昔話]ビューティフル太郎



むかしむかし、ある所にビューティフル太郎は生まれました。
そのへんのヤシの木から出現し、生まれた時から9頭身ありました。ブランド服しか着たがりません。

そんなビューティフル太郎は夢を持ちました。
「自分は真のビューティフルを、この手で生み出したい! 自分はそうしなければならない人間に違いない!」
そして一人暮らしを始めました。

ビューティフル太郎は部屋にこもり、リンゴやタマゴなどデッサンを繰り返しました。それから南国の花を見ながらオリジナルの洋服のデザインを考えてみました。しかし上手くいきません。
スケッチブックとにらめっこを続けて嫌になり、ふとクローゼットを開けるとビューティフルなブランド服。
「そうか……ブランド服はブランドだから良いのではなく、良いからブランドになったのか!!!」
ビューティフル太郎は、ビューティフルへの目的地の遠さを知りました。

「頭で考えてるばかりでは駄目だ!手で触れ、全身で感じなければ!」
ふと思い立ったビューティフル太郎は手芸店へ行き、大きな布を買ってきました。さらさら、つやつや、薄くて軽くて綺麗な生地。
裸になってその布を全身に巻いてみると……どうでしょう、なんだか熱がこもってあまり心地好くありません。
慌てていつもブランド服を着て、ふぅ、と落ち着き、
「そうか……ビューティフルはカッコ良さだけではなく、心地好さや機能性も大事なのか!」
ビューティフル太郎は自分の視野の狭さを知りました。

「ビューティフルを生み出すための理念を学ぼう!人から教わろう!」
ビューティフル太郎は廉価アパレル店でアルバイトを始めました。社訓や企業理念をよく聞き、ライバル店の考えも調べ、それから家に帰って黙々と洋服デザインを考えました。しかし自分が闇雲に描いたデザインよりも、翌日の職場で見る廉価ファッションのほうが優れているように見えました。自分がどう頑張ってもこれは生み出せません。自分の案では予算と造りの釣り合いがとれません。
「自分はビューティフルを追求しなければならないのに、何故こんな事を……」

アルバイトの帰り、憂鬱な気分で歩いていたビューティフル太郎は道の途中でアマチュア画家のグループ展を見かけて、その小さな会場へ足を踏み入れました。そこにあった拙い絵の数々、その素朴な個性に光るものを感じました。
「ああ、自分はこんなふうな、小さなビューティフルを見つめる仕事がしたい」

ビューティフル太郎は地元へ帰り、地域のカルチャーセンターでスタッフとして働く人になりました。そうしてずっと穏やかに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。