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3 九郎に恋した私です〈Ⅱ〉-(2)
〈Ⅱ〉あのね、九郎は、ね (2)
8 月 6 日(木)
台風9号が通り過ぎ、降った雨が飼育舎のテントの屋根にたまりました。その雨を突っついて取り除くため、2mほどに短くなった古い旗竿をもって飼育舎へ向かいました。
出かけるとき、九郎の声はするけれども姿は見えません。帰ったときにも声はするのに姿は見えません。
声がした辺りで、私は旗竿を近くの木に立てかけ、ポケットからビスケットを出します。彼の好きなクリーム入りです。2~3声鳴いてやっと下りてきました。ところがどうしたことか私に近づきません。離れたところでビスケットを催促しますが、やはり近づいてこようとはしません。どうしたことでしょう。
私から2m以内には入ってこないので、投げて与えることにしました。
後で気がつきました。
私のいでたちがいつもとは違っていました。麦わら帽子をかぶっていました。
しかし、そのことを警戒しているのではなさそうです。彼は、私の後ろに立てかけてある旗竿を警戒していたようです。
なんという賢さ! この賢さはカラス共通のものなのでしょうか?それとも、かつてひどい目にあった経験を持つ彼特有のものなのでしょうか?
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8 月 7 日(金)
廊下の窓際にやってきます。
電話台の上に置いてある包み紙(ハトロン紙2枚を貼り合わせた厚さ)を、例のごとくつついています。中に何かあると思ったのでしょうか。穴がいくつか開いています。鋭い穿孔力です。
クリームのついた菓子を与えます。
このときふっと、少しの不安が私の胸をよぎりました。
この九郎がこれからもずっと居ついてくれるとは言い切れません。せめて写真なりと撮っておけば、九郎との思い出を残すことができるでしょう。
Mk先生にえさを与えてもらいながら、写真を撮りました。ピントがうまく合いません。きれいに映っているかどうか、心配なことです。
8 月 8 日(土)
パンを食べ満足した後も、私のそばを離れません。
しゃがんでいる私のスカートの裾をチョンチョンとつつきます。
「コレッ!」としかっても、これまた「我関せず」、ひたすらつつきます。親愛の情を現しているのでしょう。
こんな風に甘えられることは心地よいものです。
8 月 10 日(月)
朝8時ごろ、10時ごろ、お昼の3回、味なしコッペパンを与えました。午後3時の4回目も同じく味なしコッペパンなので、食が進まない様子。水につけて与えると、のどの渇きが癒せるのか、比較的よく食べます。
おなかがいっぱいになると、屋上の柵の手すりまで飛び上がり、そこに留まります。一本足で。しかし、手すりは丸く、滑ってバランスを失い、体が前後に揺れます。
均衡を保って、やっと落ち着いたと思ったとたん、3階の屋上から排泄。白く長い尾を引いたようにそれは地上にぽたぽたと落ちます。
もうしばらく、こちらに下りてくることはないでしょう。次におなかがすくまでは。
午後は年次休暇をとっていたので、早めに学校を出ました。
「今日の味なしこっぺは不評だったので、明日はサンドウィッチのごちそうでもしてやろうか」と思いつつ、車を走らせ、帰宅しました。
〈Ⅲ〉九郎とのお別れが に続く
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