緊急内視鏡が必要かなと思ったら必要です

前回緊急内視鏡検査は必要だという記事を書きました。

今回はそれをもう少し理論的に考えます。と言いながら、最初にエビデンスレベルの低い話を。

私は研修医時代に、「○○が必要かなと思ったらやるべきだ」と先輩に言われました。だいたい必要かなと思ったら必要だと。やっぱり辞めておこうと思う時は、早く帰りたいとか、やるには怖い先生に頼まなければならないとか、何か良くない理由が無意識のうちに邪魔をしているのだというのです。あとで「やっぱりやっておけば良かった」と思うことは多いですが、「やらなければ良かった」と思うことは少ないです(ほんとエビデンスレベルは未確定です)。

以下の本は有名な本で、リンク先は日本語版ですが、私はKindle版を持っています。位置No.9649/20543(SectionVIII、Chapter27の最後)に以下の記載があります。

As soon as intubation becomes a serious consideration, you should intubate the patient and get control of the airway without delay.
Being on a ventilator does not create ventilator dependence, having a severe cardiopulmonary or neuromuscular disease does.

私の下手な日本語訳を載せると。

「気管挿管が必要かなと思ったのであれば、直ちに気管挿管し、気道管理をすべきである。」
「人工呼吸管理を行うと人工呼吸器から離脱できなくるのではない。重篤な心疾患や呼吸器疾患、神経筋疾患があるから離脱できないのだ。」

これはとても大切で、研修医の先生に伝えていることです。私が言っているのではなく、Paul Marino先生が言っているんだと。私の言うことなど誰も信じてくれませんからね。

また、第3版には以下のようにあって、こちらの方が好きです。

The indication for intubation and mechanical ventilation is thinking of it.

「気管挿管と人工呼吸が必要ではないかと考えているのであれば、それらの適応である。」

さて、前回紹介したGlasgow-Blatchford scoreの原著によれば、感度(介入が必要でない人を介入が必要でないと見つける割合)が39.8%と低いのですが、特異度(介入が必要である人を介入が必要であると見つける割合)が98.9%と高いです。

これは、このスコアが0点か1点だった場合、緊急内視鏡はほぼ不要と言っています。2点以上だった場合、緊急内視鏡必要かというとそうではない場合もあると言うことです。論文に載っている表を以下に書いてみます。

          介入が不要  介入が必要  合計

スコア1点以下     43      1     44

スコア2点以上     65     88     153

合計          108     89     197

縦軸つまり、介入が不要か必要かと言うのは他の方法であとで分かったことです。患者さんが来ている時に分かるデータではありません。スコアが1点以下だった場合、表を横に見て、介入が必要な患者さんは44人中1人(2.3%)と言う割合になります。スコアが2点以上だった場合は、153人中88人(57.5%)に介入が必要という風になります。つまり、論文のデータにおいては、このスコアは1点以下だった場合にのみ意味があることになります。

しかし、これはくどいですが、197人中89人(45.2%)に治療が必要だったと言う場合のデータです。目の前にいる患者さんに治療介入が必要な可能性はそんな低くないでしょう。診察医であるあなたが上部消化管内視鏡をした方が良いのではないか?と考える場合には、80%以上の確率だと思われます。

その場合、Glasgow-Blatchfordスコアが1点以下だった場合の確率を計算してみましょう。スコアを計算する前の介入が必要ではない確率(事前確率)は20%です(そう仮定したのです)。オッズ比と言って、有り得る確率÷あり得ない確率=20÷(100−20)=0.25を計算に使います。

スコアが1点以下だった場合には、陽性尤度比を使います。

陽性尤度比=感度÷(1−特異度)=36.2

スコアを適応した場合のオッズ(事後オッズ)=事前オッズ×陽性尤度比=9.04

オッズを%に直すにはオッズ÷(1+オッズ)なので90.1%となります。90.1%の人に介入が不要となります。しかし、9.9%の人は介入が必要です。

スコアが2点以上だった場合には、陰性尤度比を使います。

陰性尤度比=(1−感度)÷特異度=0.61 となります。

事後オッズは事前オッズ×陰性尤度比=0.152となり、13.2%(0.152÷1.152)になります。つまり86.5%の人に介入が必要です。

医療において2.3%とか9.9%と言う数字(前者は論文による検査が1点以下の場合の介入が必要な割合、後者は診察や簡単な検査をして胃カメラした方が良いと考えたのだが、スコアが1点以下の場合の介入が必要な割合)が高いのか低いのかは色々なのですが、現在はリスクが1%あれば非常に高いと考えます(そう思います)。よって、上部消化管内視鏡検査をした方がいいかな?と思ったらスコアが0点だったとしても、しない理由になりません。

少し血を吐いたと言う人が来られて、下血はなく、失神もなく、脈拍数が80/分で血圧が120mmHg、肝疾患や心疾患もない健康な人のHbが14g/dLで、BUNが15mg/dLだったとすると、Glasgow-Blatchfordスコアは0点です。しかし、緊急内視鏡はした方が良いと私は思います。私は自分で内視鏡が出来ますので、より内視鏡をする閾値が低いです。

よって、「Glasgow-Blatchfordスコアが0点なんですが、緊急胃カメラをした方が良いと思います」とか言うのは変なので、「吐血の患者さんの緊急胃カメラをお願いします」で良いと私は思います。

バイタルサインが悪かったり、貧血がひどいと、それらが改善しないうちは、緊急内視鏡をしないという先生がおられますが、内視鏡室で待機しながら、輸血や輸液蘇生が上手く行くのを待つべきだと思います、、、、、、知らんけど。

それから、たぶんですが、通常はスコアが2点以上だった場合が検査陽性と言うのではないかと思います。その場合の感度は98.9%で、特異度は39.8%になります。感度が高い検査は否定に使えると一般的に言われていますので、検査が陰性(1点以下)だった場合に介入が必要なことはあまりないと言うことで、こっちの方がわかりやすいかも知れません。

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