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迷ったら胸骨圧迫、AED装着を

以下のニュース素晴らしいです。JR西日本もこの看護学生さんを表彰したとのこと。良い看護師さんになって欲しいです。

もちろんですが、心肺蘇生をすることは当たり前であり、こんなことがニュースになるなんておかしいという意見もごもっともです。が、現時点では心肺蘇生を一般市民の方がされたことは賞賛に値することです。なにしろ、一般市民の方が心肺蘇生をすると生存率が非常に高く、特に心室細動の場合には社会復帰率が50%近いです。

記事には、患者さんは脈が弱かったと書かれており、弱くても脈がある人に心肺蘇生を行っていいのか?AED(自動体外式除細動器)を使ったらダメではないか?ということで、この看護学生さんを非難するつぶやきがツイッターで多発しています。悲しいことです。

先に結論を言いますと、救助者が必要だと思ったのなら、脈があったとしても胸骨圧迫をしていいし、AEDも使って良いです。

まずAEDですが、AEDはもちろん心肺停止の人に使う事になっています。理由は、脈あり心室頻拍と脈なし心室頻拍いう状態をAEDは区別できず、脈あり心室頻拍には電気ショックをしてはいけないというのです。しかし、脈あり心室頻拍に対して電気ショックを行ってダメかと言えば、そうではないと思います(もちろん患者さんは痛いでしょうが、死ぬことはないでしょう。何しろ高エネルギーショックですから心室細動を誘発することはないでしょう)。
また、AEDは、電気ショックが必要でない人に間違って電気ショックをかけないようにと、特異度を重視して作られています。つまり、AEDがショックの適応ではないと言っても、適応であるかも知れないが、AEDがショック適応だと言えば、まずショック不適応の状態は含まれないと言うことです。細かいことは説明が大変なのでこの辺にしておきますが、電気ショックが本来不要な脈あり心室頻拍に対して、AEDがショックの適応だと判断する可能性は非常に低いと言うことです。よって、極論を言えば元気な人にAEDを使っても大丈夫です(本当に極論です)。

次に脈がある人に胸骨圧迫をして良いのか?と言う事ですが、ILCOR(国際蘇生連合協会)という団体が出しているCoSTR2020という資料には以下のようにあります。

We recommend that lay people initiate CPR for presumed cardiac arrest without concerns of harm to patients not in cardiac arrest (strong recommendation, very-low-certainty evidence).

ILCORとは世界中の蘇生に関する専門家が集まって作っている組織です。そこがこうした方がいいですよとやり方の基本を示した資料がCoSTRというもので、以前は5年に一回更新されていましたが、最近は毎年更新されています。今回の件に関しては2020年の文章が最新ですが、2015年と変わりはないと書かれています。

私の下手な日本語訳を書いておきます。
一般市民救助者は、目の前の傷病者が心肺停止ではないかと疑ったら、心肺蘇生を開始することを我々は推奨する。心肺停止でなかった場合に何か不利益があるのではないかと考える必要はない。

これは世界での共通事項です。心肺停止でない人に胸骨圧迫をしたら心室細動になるからダメだとか言う人がいます。これは否定されていたと記憶していますが、現在調査中です。だとしても、ではどうするのか?胸骨圧迫をしなければ死んでしまうかも知れないのです。

AHA(アメリカ心臓協会)という大きな学会も心肺蘇生のガイドラインを出しています。日本ではこれが一番有名なガイドラインだと思います。2020年度版の中の「Initiation of Resuscitation(蘇生の開始)」には以下のようにあります。

Four observational studies reported outcomes from patients who were not in cardiac arrest and received CPR by lay rescuers. No serious harm from CPR was found in patients when they were later determined not to have been in cardiac arrest. This is in contrast to the significant risk of withholding CPR when a patient is in cardiac arrest, making the risk:benefit ratio strongly in favor of providing CPR for presumed cardiac arrest.

こちらも私の日本語訳を。
4つの観察研究が、一般市民救助者による心肺蘇生を受けたが、実際は心肺停止ではなかった傷病者の予後を報告している。後で実際には心肺停止ではなかったと思われた傷病者において、心肺蘇生による重篤な害は認められなかった。これは、傷病者が心停止だった場合に心肺蘇生を行わないという大きな不利益と関連するものである。心肺停止が疑われる傷病者に心肺蘇生を行うことの利益と不利益を考える上で重要な点である。

心肺停止の患者さんを見つけたら、躊躇なく胸骨圧迫から心肺蘇生を始めましょう。そして、闘う人を外から笑うことも辞めましょう。事件は現場で起きてるんですから。


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