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SpO2が100%でなくても一酸化炭素中毒は否定できない

先日一酸化炭素中毒の患者さんが救急搬送されてきたのですが、救急隊の方は酸素をやっていませんでした。救急隊の方にあとで質問されました。現場の状況から一酸化炭素中毒を疑ったのですが、以下の理由で否定してしまったとのことでした。
(1)一酸化炭素中毒ではSpO2が100%になると聞いている。今回の患者さんは96%程度だった。
(2)一緒に現場にいた患者さんの友人は無症状だった(のですが、この方も一酸化炭素中毒と診断しました)。

(2)は一酸化炭素中毒は無症状の人もいるし、症状があっても色々で診断は難しいとされていますので、こちらは否定の理由とはならないでしょう。

また、一酸化炭素中毒を疑ったら、否定することは難しいので、酸素投与を是非してきてくださいと伝えました。しかし、一酸化炭素中毒ではSpO2が100%だと言うのは不勉強で知らず、色々調べてみました。

結論から言うと、一酸化炭素中毒ではSpO2が100%であるという記述は見つけられませんでしたし、SpO2が100%でない場合もあります。

以下のサイト(本も持っているので、確認しました)の説明が一番分かりやすいと思ったので参考までに紹介させて頂きます。

Hbは酸素と結合しているものとそうでないものに大きく分類されます。
さらに細かく書くと以下のようになります。

酸素化Hb(O2-Hb、酸素と結合したHb)
酸素と結合していないHb
 還元Hb(H-Hb、酸素はもちろん他の物質とも結合していないHb)
 一酸化炭素Hb(CO-Hb)
 メトヘモグロビン(Met-Hb)
 その他異常ヘモグロビン

パルスオキシメーターは、指などにつけた器械を使って測定した光の吸収の差から、酸素飽和度SaO2を推測して表示しています。このSaO2がややこしいのですが、これが以下のどちらかによって値が微妙にずれてきます。
(1)O2-Hb÷(O2-Hb+H-Hb)
(2)O2-Hb÷(O2-Hb+H-Hb+CO-Hb+Met-Hb+その他)
本当のSaO2は(2)です。通常CO-HbやMet-Hbは無視できるほど少ないので、両者に差はあまりなく、問題はないのですが、異常ヘモグロビンが増えてくると色々ややこしくなります。
血液ガス分析の結果出てくるSO2(O2-Satなどと表示されますが、通常この結果を見る場合は動脈血ですのでSaO2)は(1)です。これはO2-HbとH-Hbを直接測定しています。分母にCO-HbやMet-Hbが入っていませんので、一酸化炭素中毒やメトヘモグロビン血症となってもSaO2は低下しません(一酸化炭素中毒では酸素化能に大きな影響はないとされていますので、PaO2は低下しないことが多いです)。
(2)を知りたい場合には、O2-Hbと言うような値を見れば良いです。多くの血液ガスの機械は自動的に算出して表示しています。O2SatとO2-Hbの値は通常ほぼ同じですが、乖離があった場合には、一酸化炭素中毒などを疑わなければなりません。もちろん同時にCO-Hbと言う値が表示されていると思いますが。

パルスオキシメーターは二種類の光の吸光度の比を求め、その値でSaO2がだいたいどれくらいかというデータ(実際に測定してデータを取るようです)と比較してSaO2を表示します。こちらも(1)を示しているらしいです。
一酸化炭素中毒の場合には、CO-HbがO2-Hbと間違えられてしまいますので、SpO2は実際の値より高くなります。メトヘモグロビン血症や循環不全の場合には、理論上SpO2が85%に近くなっていくそうです。2種類の光の吸光度の差がない場合、SpO2は85%だからだそうです。以下の論文が詳しいので興味のある方はご覧ください。私は何度もこの論文を読んでいますが、全然理解できていません。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/23/6/23_625/_pdf

どちらにしても、還元Hbが存在している以上、一酸化炭素中毒となっても、分母にそれが入るため、SaO2は100%にならないでしょう。また、SpO2は二種類の吸光度の比とその時のSaO2の値の換算で求められるので、誤差は当然あり、特にSpO2が高い時は誤差が大きいという説があります。しかし、SpO2が100と99、97と96等の場合、それほど意味のある差とは考えませんので問題はありませんよね。
よって、一酸化炭素中毒でSpO2が100%にならないことはあり得ますし、100%のこともあるでしょう。色々な症例報告を見てみましたが、酸素投与をされていた場合でもSpO2が100%でない場合が散見されました。

一酸化炭素中毒は重篤な病気ですので、救急隊の方はオーバートリアージで酸素投与をして病院へ搬送してください。オーバートリアージは許容すべきだという事が救急専門医向けに日本救急医学会が書いたテキストにも書かれていますので。
私は救急患者さんは全員酸素を投与して搬送すべきだと考えている者なので、かなり偏った考えかも知れませんが、心筋梗塞や脳梗塞の場合の酸素投与の害が過剰に広まっていると感じています。救急隊の方が現場から病院へ患者さんを搬送するぐらいの短時間の酸素投与の害についての研究はないのでは?と思います。

また、一酸化炭素Hbを区別できるパルスオキシメーターが発売されていて、是非欲しいと思っていたのですが、以下の論文によれば、感度77%、特異度85%とそれほど高くはなく、ルチンに使うべきではないとのことです。特に感度が高くないので、一酸化炭素中毒が病歴で疑われる場合には使うべきではないとのことです。高価なパルスオキシメーターなので、病院も買ってくれず、一度も使ったことがなかったのですが、それで良かったようです。

また、質問をしてくださった救急隊の方が、「先生のブログを読んで酸素の投与について勉強していたつもりだったのですが、、、」と言われたのに驚きました。私は今救急専属ではないので、それほど救急隊の方とご一緒することはないのですが、ブログに書けば救急隊の方に伝わるとポジティブにとらえておきます(アイドルオタクなのもばれてますね)。

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