異常があれば原因を追及しましょう

最近某大学病院で井戸水によるメトヘモグロビン血症が出たと言うことで話題になりました。メトヘモグロビン血症について復習していたら、興味深い論文を見つけました。日本語ですので是非お読みください。

結語だけ引用させていただきますと以下の通りです。

10年来の在宅酸素療法を受けていた患者に対して 全身麻酔中にMetHb血症が判明し,術後に原因薬剤を中止することで在宅酸素療法から離脱できた一例を経験した。呼吸器系や循環器系に異常を認めないながらもSpO2が低値である場合には MetHb血症を念頭に置き,動脈血ガス分析やCO-オキシメータによる酸素飽和度測定を行う必要がある。また,後天性のMetHb血症においては,内服薬を詳細に調べる必要がある。


この症例でビックリというか、もしかしたらいっぱいあるのかも知れません(論文にもそう書かれています)が、在宅酸素療法を開始するのに血液ガス分析が必須ではないと言うことです。私は専門ではないのでよく分からないのですが、在宅酸素療法ってお金もかかるし、ずっと経鼻カニュラを装着するので不快でしょうし、何よりボンベを常に携帯しなければならないので不便だと思います。火災の危険もありますし、そのような治療を開始するのに、激しく詳しく原因を追及しなければならないのではないでしょうか。忙しくて時間がなかったとか、保険適応がないので行えないとか、色々事情があるのかも知れませんが、10年も結果的に必要のない治療を受けることになった患者さんのことを忘れないようにしたいですね。

 色々検査をして、他にも患者さんをたくさん担当していると、ついつい軽微な異常値はスルーしてしまいますが、やはり検査をした以上、異常値があると思って出したはずですから、きちんと解析しましょうね!

 昔やっていた蘇生講習会のインストラクター向けのテキストには、教育すべきことは主に3つの分野に分けられるとありました。

・認知領域 胸骨圧迫は1分間に100-120回程度の速度で圧迫する。
・精神運動領域 実際に人形などに正しく胸骨圧迫が出来る。
・情意領域 実際に胸骨圧迫が必要な患者さんがいたら行う。

 最後の情意領域を伝えることはとても難しいとありました。そして、情意領域が最も重要です。何しろ、それがなければ知っていて出来るけどやらないのです。患者さんの受ける利益は、知らない、出来ない人と変わりません。

 今回の低酸素で言えば、低酸素があれば、これこれの原因があって、それらを鑑別するには○△の検査が必要であると言う事を知っていて(認知領域)、実際にオーダー出来る(精神運動領域)のですが、忙しかったり、疲れていたり、眠かったり、保険適応がなかったりしたらやらない(情意領域)のでは全然意味がありません。あるいは、認知領域、精神運動領域が足りなければ、つまり低酸素の鑑別法を知らないとか、それをするための検査の出し方が分からないのであれば、分かる人に頼めば良いのです。胸骨圧迫で言えば、誰か出来る人を呼んでくるとか、今は役立ちませんが、やり方を学ぼうとか思うことが大切です。

 研修医の先生にも検査データの異常が幾つもあるのに、何も解析しようとしない人がいますが、情意領域をどう伝えたら良いのか?困っているところです。もしかしたら研修医の先生の場合には認知領域が不足しているだけなのかも知れませんが。

「先生は医学部に入る時、あるいはこの病院に入職する時、血液検査をオーダーして、異常値があっても放置する医者になりたかったのですか?」などと言っていますが、パワハラなのかも知れませんね。

こちらのブログにも同じようなことを書きましたので良かったらご覧ください。

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