プロ野球界を「会社」に例えてみると、ちょっと異常?(FA移籍:第2話)

(1)基本的なプロ野球選手の現役生活の流れ

 プロ野球選手になりたい場合、プロ志望届を出し、各球団のお眼鏡にかなった選手がドラフトによって指名され、基本的には交渉権を獲得した球団に入団することになります。入団後はその球団でプレーし、主力になる選手もいれば、力及ばず戦力外通告を受ける選手もいます。
順調にいけばレギュラーになり、(年齢とともに衰えが見られはじめた頃に)引退をするという流れになります。

最初に所属した球団で、です。

出身地が北海道でも、東京の球団に入りたいと思っていても、福岡のチームに入団したら、最初に入団した球団で現役生活を送り引退するのが基本路線となります。
現役生活中に他球団の施設が良いなと思っても、自球団のフロントに文句を抱いても、結婚相手の実家が遠くても、その球団に所属し続けなければならないのがプロ野球選手です。
※もちろん、プロ野球選手にはドリームもありますし、あくまで「基本路線」なので、すべてが当てはまる訳ではないです。

更に言えば、「トレード」という制度があります。
自球団では「不要」と判断されても、他球団が「欲しい」と思えば、選手と選手(あるいは金銭)をトレードし、戦力を整理することがあります。

過去の事例を見ていると、フロント上層部同士では話は進んでいるけど本人には通達されず、トレード直前になって初めて本人に通達される、ということがほとんどのようです。(会見時のショックの受けようを見ていると、本当に急に言われるんだなと思ったことが何度もあります。選手がSNSなどで言っていたこともあるので多分ホントです。違っていたらご指摘下さい。)

選手の言い分は聞かないまま、球団主体で要る要らないを判断し、行われるのがトレード制度です。
とにかく球団が主体です。
逆に、選手が「移籍したい!」という主張をしたとしても、はいそうですかと主張がすんなり通ることは滅多にありません。
現在のプロ野球界では、球団主体で選手の処遇を決めている構造になっています。

(2)会社に例えてみよう

 前置きが長くなりましたが、FA制度について考えるうえで大事なことなので、改めて確認をさせてもらいました。
ここからが本題というか、自分が思っていることになります。

まず、プロ野球界を「会社」に例えてみようと思います。

①球界の構造(入社する)
プロ野球界を「プロ野球 株式会社」という会社に見立ててみます。
日本全国に支社があって、12個の支社を持っている大きな会社です。
全国の若者に人気の会社で、入社希望者は「ドラフト」という名の入社試験を受け、合格した人のみが入社できるシステムです。
若干、普通の入社試験と違うのは、一般的な会社は「会社への入社が認められてから、各部署に配置される」というのが普通ですが、この会社は「各部署ごとに合否判定を出し、各部署に配置される=入社」という点です。
普通と若干違うので、すでに理論が破綻してるじゃないかと怒られそうですが、まあ…そこはものの例えなのでご容赦ください。
合格者は各部署に配属され、その部署で仕事を始めることになります。
これが入団です。

②部署での仕事・待遇
基本的にはその部署で働き、その部署で定年を迎え退社するという流れになります。
各部署では似たような仕事をしている訳ですが、部署ごとに理念が違ったり、駅からの距離が違ったり、トイレの清潔感とか、上司とか、当たり前ですけど違うわけですよね。

そのうち、出張とかで他部署の人と会った時に「えー、そっちの上司は部下に優しいのか!いいなぁ、ウチは毎日怒鳴られてるよ」とか、「ウチは福利厚生も充実してるし、給料も良いよ」とか、そういう会話が出ます。

「ウチのオフィスは駅から徒歩1分で近いけど、都心からのアクセスは悪いんだよね。しょうがないから、奥さんと子供は都内に住んでて、俺は単身赴任だよ。しかも信じられないかもしれないけど、オフィスに壁が無くて、屋根が乗っかってるだけだから、エアコンがつけられなくて、夏は蒸し暑くて冬は寒風が吹き荒れて激寒だよ。階段も全国一長くて、登りきるころには足はパンパン。Wi-Fiのつながりも悪いし、夏場はオフィス内に虫が出ていつもみんなで追っ払ってるよ。それでいてお給料悪いんだ。唯一の救いは、上司が部下想いな所と、食事メニューが豊富で美味しいところかな。」
なんて文句を言う社員もいるでしょう。
どこの 球団 部署とは言いません。ちょっとそういう 選手 社員さんの声が聞こえてくることが多い部署があるってだけです。
あ。ちなみに俺はそこの部署によく出入りしてるんですけどね。
埼玉県にあるんですけど。

③異動願いについて
さて…
そういう事が繰り返されていれば、いずれ「他の部署に行きたい」と思う人も出てくるでしょう。
「この部署にいたらダメになる」
「あの部署でもっとスキルを伸ばしたい」
「尊敬する先輩があの部署にいる」
「家族の事情で仙台から博多に引っ越す必要が出てきた」
理由は様々ですが、結果的には異動を希望するということになります。

でもここで致命的なルールがあることに気付きます。

それが、「異動願いが出せない」という会社規則です。

この会社は、他の部署がいいなと思っても、家庭の事情で引っ越す必要が出たとしても、どんな事情があっても異動を希望することが出来ない会社だったんです。

異動願いを受け入れてくれない会社ではなく、異動願いを出す事すらできない会社です。多分、異動願いの用紙が社内にないのかもしれません。

基本的には最初に所属した部署で定年まで働くのがルールです。

皆さんいかがですか?
希望・期待を抱いて入社したら、異動願いができない会社だったら。
もちろん社員(選手)はそれを承知の上で入社希望をする訳ですが、入社後に異動について考えたときに、改めてこのルールの重大さに気付くわけです。

④異動願いルールの「抜け穴」
家族と離れ離れになっちゃったよ…何とかして異動願いを出せないかなぁ…

そんな時、もう一つのルールが判明します。
それが「各部署で、ある程度がんばったことが認められた社員には、異動願いを出す権利が発生する」というルールです。

営業成績か、勤続年数なのか、ここでは条件にはこだわらないことにしますが、とにかく第一線で何年か頑張っていれば、異動願いを出す事ができます。
お判りでしょうが、これがFA権ですね。
さっきからずっと異動願い異動願い…と狂ったように言ってきましたが、要はFA権です。
これなら、他の部署に移ることができます。
もちろん、移りたい部署の部長に「必要としていない」と言われてしまえば移動はできませんが、本人にとってみれば「今いる部署よりはまし」を求めて、どこか待遇の良い、自分に見合う部署はないかと探し、条件があいそうな部署が見つかれば転勤できることになります。

まあ、なんのこっちゃない普通の異動な訳ですが、ここで一つ、ポイントとなる「事象」があります。

それは、「このシステムは、この会社で唯一の、社員主体の行動」ということです。
後述はしますが、とても大事な考え方なんじゃないかなと思います。
プロ野球でも同様です。
FA権の行使(異動願い)は、球界の中で唯一、選手が球団よりも強い立場になれる(少なくとも会社からの命令をただただ受け入れるしかない立場を脱却できる)行動です。
お給料の引き上げを交渉したり、そういったこともできます。

これまでは、会社が行けと言った部署に入り、そこでひたすら働き続けるという選択肢しかなく、自分の言い分なんて一切聞いてもらえなかったけど、ある程度頑張れば、自分の好きな部署・好きなお給料の交渉ができるんです。

…これなら、「ちょっと使ってみたいな」って思いません?

(3)異動願いを出すとどうなるか

 これは、後々くわしく書きます。
ただ一言だけ先に言っておきたいのは、選手がFA権を行使することが、ちょっと「裏切り」みたいに言われる風潮があるってことです。

強めの言葉で言い換えると、
仕事をがんばった結果ようやくゲットした異動願いを出すことで、大炎上するような風潮があるんです。

「正しい方法で異動願いを出しただけなのに!」って怒りたくなりません?

現在のプロ野球界(のファンの間には)そういう風潮があるんです。
逆を言えば、それだけその選手に居て欲しいという気持ちの裏返しなんですが…

所属している部署の、駅前の飲み屋街の店主さんやガールズバーの女の子達に「俺さ、昨日異動願いだすことが出来たんだ~」って報告したら、「〇〇君、この街にいて定年まで働かないっていうのは、この街に育ててもらった恩を仇で返すようなもんだよ」って説教されたり、「これで異動ってなったら、もうあなたとは口もきかないから!」って泣きつかれて服を引っ張られる、みたいなことですかね。

そして、これを、町中の人たちから言われる訳です。
町中の人から。

なんか、嬉しいような気もするけど、俺だって俺の人生があるんだよ~って言い返したくなりますよね?(ここらへんの気持ちは後々検討しましょう)

何だか異動願いを出すのは悪いことなのか?って思っちゃいますよね。

(4)いよいよ「俺の屁理屈」へ

 長かったですが、これらを踏まえて、自分の考えを述べるフェーズに移っていきます。

次回の「FAについて考える(最終話)」では、こういった状況に置かれている野球選手がFAを行使することはアリか?ナシか?ということについて言及させて頂きます。

もしよければ次回もご購読いただけると嬉しいです。
それではまた。

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