見出し画像

夜職も昼職も一緒だよ

 国分町で白服として働き始めてから早3週間が経過した。好奇心100%で入った業界ではあったのだが、縦社会とか、人間関係の歪みとか、それなりのギスギスは覚悟していた。まぁ、怖かったので、それでもなるっだけ穏やかそうなお店を探して、店の口コミ等も調べまくった上で入店したのだけれど。

 入って3日くらいは、緊張でガチガチだった。そして、せめて初見で嫌われないようにしようと思って、謎のコミュ力を発揮していた。黒服も、キャストも、お客様も、店のもの全部が怖かったのだ。今思えば相当に失礼な話だ。

 3日働いて3日寝込んでみたり、ホールの単純な仕事で凡ミスを連発してみたり、自分はポンコツだったとある程度諦めかけていた最中、私に仕事を続けて欲しいからと、飲みに連れ出してくれたキャストさんがいた。

 彼女は昼職の接客業を経験した後、夜の世界に入ったという。すんごく美味しい麻婆春雨たちをご馳走になりながら、卓に着いた時には、キャストさん毎にそれぞれ求められる役割があって、それは毎度違うこと、当たり前の仕事とプラスαのサービスのこと等、私がまだ見えていなかった色んな事を教わった。
 「昼間の仕事と一緒だよ。」そう話した彼女の言葉が印象的だった。どうすれば役に立てるか?どんな状態なら役に立てているか?そんなの場面場面で変わるし、考えたって仕方がない。そうじゃなくて、自分が教わった今できる仕事の中で、他の人がやろうとしていない仕事を探して動けばいいんだよ。彼女の言葉にハッとした。その上で、気づいた事はやってみた方がいい、とアドバイスしてくれた。試してみれば何かしらのリアクションが帰ってくる。やった事がその場の正解だったならお客さんが喜んでくれるし、失敗だったなら、キャストや先輩黒服が後からありゃあいかんと注意してくれる。それを積んでいけば感覚が掴めるようになるのではないかと。

 昼間の仕事とやる事は一緒だよ、時間が変わっただけ。「お客さんはなんでウチの店を選んだの?」それがサービスのヒントだよ。そんな事も話していた。

 肩の力が抜けた。そりゃあそう、私がやっているのは紛れもない「仕事」なんだ。昼も夜もない。「おしゃべりしながら楽しく飲みたい!」そんなお客様をもてなすのが私達のシゴトだ。その中で、白服という最前線のキャストより一歩引いた目線から、よりお客様に快適に楽しく時間を過ごしてもらう為には、どう立ち振る舞ったらいいのか?って視点で動いていけばいいのだ。
 そんな視点で、黒服やキャストの先輩方の立ち振る舞いを見て、あぁすればスマートなんだなぁと、少しずつ学んでいけばいいのだ。

 この業界独特の飲みの席の締め方がある。少しグラスを傾けて、ちっちゃく乾杯してから席を立つのだ。一緒に過ごした時間がより特別なものになる、素敵な所作だなぁと思った。
 「仕事で返してね♡」と言って飲み代を奢ってくれた彼女の姿が、ものすごくカッコよかった。

 帰り道、大きな月が沈む姿を、生まれて初めて目にした。私はその幻想的な夜明けを、いつまでも目に焼き付けていた。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?