長編小説[第17話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン
渚さんの目に、じわじわと涙が溜まっていく。
しばらくすると、落とすまいと必死に溜めていたそれは、決壊して、彼女の頬を伝っていった。
そんな渚さんの背中に覆い被さるようにして、クロちゃんは彼女を強く、愛おしそうに、抱きしめていた。
渚さんが同封されているイヤホンを手に取った。
「確かに、受け取りました。」
彼女がそう呟くと、クロちゃんは渚さんを抱きしめたまま、静かに頷いた。
斜めになった日の光が、カーテンの隙間をぬって差し込んで、一筋の細い線を作っていた。
渚さんから手を離したクロちゃんは、彼女の隣に座り直して、彼女の止まらない涙をそっと拭った。
クロちゃんは渚さんの後ろに回り込み、彼女の両肩に手を添える。
そして渚さんの耳元で、優しく囁いた。
『バイバイ。元気でね。』
手紙を握りしめたままの渚さんが、少しだけ、ハッとしたような顔をした。
クロちゃんは私に向き合って、優しく笑いながら手を振った。
私も同じように、彼女に向かって手を振り返した。
部屋に差し込んでいた光の線が、少しずつ薄くなっていく。
それに比例するかのように、そこにあったはずのクロちゃんの身体も、少しずつ、薄くなっていった。
彼女が消えかけたその刹那、彼女の身体の中心だった場所から、小さく強い光りが放たれる。
その光は羽毛の様にふわりと舞い上がり、やがて霧のように、静かに消えていった。
日が沈み、月の時間が始まろうとしていた。
暗くなり始めた部屋の中には、私と渚さんだけが、ポツリととり残されていた。
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