長編小説[第17話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン

渚へ

元気にしてましたか?
私は、ちょっと、元気じゃないかな・・・笑。

生きていくのがもう限界だったから、
いつ死んでも大丈夫なように、
こうして今、渚へ手紙を書いています。

渚に伝えておきたい事があります。
それは、もし私が自殺をしたとしても、
それは私が自分で選んだ、
私自身の選択の結果だということです。

誰のせいとか、何が原因とかじゃない。
私がそうしたいから、そうします。

だからもし私が死を選んだとしても、
渚は自分の事を考えて、自分の時間を生きて欲しい。

最後になりますが、
なかなか一緒に遊べなくて、ごめんなさい。
離れていても、いつまでも、大好きだよ。

それから、ちょっと遅くなっちゃったけど、
あの時のイヤホン、お返しします。

いままで ありがとう。

彩芽より

 渚さんの目に、じわじわと涙が溜まっていく。
しばらくすると、落とすまいと必死に溜めていたそれは、決壊して、彼女の頬を伝っていった。
 そんな渚さんの背中に覆い被さるようにして、クロちゃんは彼女を強く、愛おしそうに、抱きしめていた。

 渚さんが同封されているイヤホンを手に取った。
「確かに、受け取りました。」
彼女がそう呟くと、クロちゃんは渚さんを抱きしめたまま、静かに頷いた。

 斜めになった日の光が、カーテンの隙間をぬって差し込んで、一筋の細い線を作っていた。

 渚さんから手を離したクロちゃんは、彼女の隣に座り直して、彼女の止まらない涙をそっと拭った。

 クロちゃんは渚さんの後ろに回り込み、彼女の両肩に手を添える。
そして渚さんの耳元で、優しく囁いた。
『バイバイ。元気でね。』

 手紙を握りしめたままの渚さんが、少しだけ、ハッとしたような顔をした。

 クロちゃんは私に向き合って、優しく笑いながら手を振った。
 私も同じように、彼女に向かって手を振り返した。

 部屋に差し込んでいた光の線が、少しずつ薄くなっていく。
 それに比例するかのように、そこにあったはずのクロちゃんの身体も、少しずつ、薄くなっていった。

 彼女が消えかけたその刹那、彼女の身体の中心だった場所から、小さく強い光りが放たれる。
 その光は羽毛の様にふわりと舞い上がり、やがて霧のように、静かに消えていった。

 日が沈み、月の時間が始まろうとしていた。
 暗くなり始めた部屋の中には、私と渚さんだけが、ポツリととり残されていた。

 


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