長編小説[第15話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン

取り残された一日
 彩芽さんのお別れ会当日。真っ昼間だというのに、私、星光は、シェアハウスの一室で、ベッドの上に寝転がりながらSNSの動画サイトをパトロールしていた。
 時計は11時を回っている。そろそろ会が始まる頃だと思う。おかしい、本来なら私も一緒に参列しているはずだった。導さんの独断で名簿から除名するなんて、ずいぶん勝手な事をやってくれるなぁと思う。おかげで今、過去一なんじゃないかってレベルでやる気がなくなってしまっている。私ですらこうなんだから、渚さんはもっとだと思う。

 ぼーっとしながらスマホの画面をスクロールし続ける。シェアハウスはいつもうるさい。週末なんだから皆んなお外に出掛けていけばいいものを。自分の事を棚に上げながら、ふとそんな事を考えてしまう。だいぶ心が荒んでいるのかもしれない。
 どれだけスクロールしても、ネットワークビジネスのノウハウや、健康や美容の情報ばかりが永遠と羅列され、おすすめされ続けている。おかげで何ひとつ興味が湧かない。身体がどれだけ健康でも、心が病んでちゃ何も手につかないというのに、本当くだらない。そんな事を思いながらひたすら画面を見続けていると、ネットワークビジネスのアンチと思われる動画が目に止まった。

 私は何となく気になって、その動画を再生した。

 「 ー ブラインド勧誘。本来の目的を事前に告げずに顧客と面会の約束を交わし、後から勧誘行為を行う事を指します。えー、ネットワークビジネスの世界では頻繁に行われている行為ですが、これは特定商取引法で禁止されています。そう、違法なんです。」
 YoutOberが今まさに勧誘が行われようとしている現場からリポートをしている。なぜか目が離せなくなった私は、その動画を見続けていた。

 ブラインド勧誘、ネクプロでもやってないか・・・?

 動画をしばらく追いながら、急にその事に気がついた。
 私は動画のURLと共に、『これ、使えないでしょうか?』のメッセージを添えて、渚さんへ送信した。

 5分後、渚さんから返信が帰ってきた。
画面には『ありがとう! 私の方でも少し調べてみる。』とシンプルなメッセージが届いていた。
 事態が少しだけ前進してくれる、そんな予感がした。


復讐の芽は再び
 渚はベッドの上に寝転がり、ただ天井を眺めていた。彼女はもうすでに、エネルギーが切れていたのだ。
 暴露動画を流す。それによって組織を外側から叩こうとする動きが少しでも強まれば、またそれに気づいた最近入ったメンバーが、少しでも『やっぱりおかしい』と考え初めてくれれば、組織の存続が揺らぐのは時間の問題だと思っていた。
 彼女は、動画がバレたらその後何が起きるのかについて、全く考えが及んでいなかった。それでも今の現状は、全く事を起こせずにいるよりか、彼女にとっては幾分マシだった。

 スマホにメッセージ通知が表示される。星光からだ。
 画面を開けると1本の動画と、『これ、使えないでしょうか?』のメッセージ。

 動画を見終えると、渚は真顔でWebの検索画面を開き、『ブラインド勧誘』について調べ始めた。

 それから数分後。彼女は、消費者庁が設置した特定商取引法違反被疑情報提供フォームの存在を知った。

 渚は嬉々とした悪魔のような様相を浮かべる。
 彼女はそのフォームから、ネクプロ青葉での勧誘行為の一部始終を、事細かに告発していった。



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