長編小説[第16話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン
少しの効果
渚さんの告発から数日後、ネクプロ本部より、『勧誘についての注意事項』と書かれた、約10ページに渡る長文のPDFが送られてきた。
それを受け、ネクプロ青葉チームでは全体ミーティングが開かれた。
ミーティングに出席した渚さんと私、星光は、一切の口を開かずに、ポーカーフェイスで導さんの話を聞いていた。余計な事を言ってしまわないか、内心冷や汗をかきながら。きっと渚さんも、同じ心境だったんじゃないかと思う。
導さんは、冷たくも温かくもないビジネスライクなサラッとした態度を、その場にいた全員に対して、終始貫いていた。
束の間の休息
渚さんが久方ぶりに部屋の掃除をしたらしい。多肉植物をお迎えしたと、なんとも珍しい報告を受け、私、星光は今、近所のお菓子屋さんで買ったチーズケーキを片手に、渚さんのアパートへ向かっていた。
ネクプロの活動に呑まれながら多忙な日々を送ってきた私達。だから、今日みたいな本当に何もない1日というのは、ものすごく貴重な時間なのだ。
外はまだまだ明るいが、陽はすでに西側からさしている。
渚さんの部屋のインターホンを押す。
とかしただけの髪でノーメイクの渚さんが、ゆるい笑顔で部屋に私を迎え入れた。
ケーキと紅茶をローテーブルに並べ、ハワイアンミュージックのBGMを流しながら、私達はくつろいでいた。
ふと部屋を見渡して驚いた。雑然と床に置かれていた荷物たちが姿を消している。机に積まれたネットワークビジネス関係の書籍達も、ばら撒かれたメモ紙たちも、どこかに片付けられたのか、姿を消していた。渚さん家が綺麗だ・・・。
「今、部屋が綺麗なの珍しいなって考えてたでしょう?」
「いやいや。・・・はい、ちょっと考えてました。」
それを聞いてクスッと笑う渚さんは、どこか憑き物が落ちたような、自然な顔をしていた。
玄関扉に備え付けられている郵便受けに、書類が投げ込まれる音がする。ちょうどチーズケーキを食べ終わった渚さんは、その郵便物を取りに行こうと席を立った。
A4サイズの茶封筒の封を切ると、中に入っていたのは手書きの手紙だった。
濃い青の星空柄の便箋。裏面に書かれていた差し出し主の名を見た渚さんは、口を半分開いたまま、しばらく固まっていた。
『渚へ 彩芽より』
便箋の裏面には、確かにそう、書き記されていた。
どのくらい時間が止まっていたのだろうか。思考力が戻ってきたらしい渚さんが、茶封筒の差し出し主の住所と名前を確認する。そこに書かれていた住所は、間違いなく、彩芽の実家のものだった。
渚さんは中身を読もうと、便箋の封を開けた。
「読んでもいい?」
私は頷く。
渚さんは、中に入っていたメッセージを手に取って、それからじっくりと、中身を読み始めた。
さっきから私の横にもう一人、人の気配を感じる。確認すると、その正体はクロちゃんだった。渚さんの真隣りに座ったクロちゃんが、一緒になって手元のメッセージを覗き込んでいる。クロちゃんは何故か少し照れたような顔をして、渚さんがその手紙を読もうとしている様を、見守っているようだった。
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