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[無料]5分で読める、遭難したらどうしたらいいか?問題

遭難してしまったらどうしたらいいか?というのはよく話題になる話であります。沢に降りちゃダメだ、いや、沢を下れ、上に登れ、絶対に動いてはいけないジッとしてろなど、色んな意見があります。

今回は、それら『遭難したらこうしろ』に白黒つけます。

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まず落ち着け

遭難したらどうするか?動くのか留まるのかを考える前に落ち着いてください。事故や道迷いなど、恐怖を感じる状況になれば誰でもパニックになります。

パニックは自覚できません。酔っ払いが「酔ってない」っていうのと同じです。

恐怖を感じたら、自分はパニックになっていると考えてください。安全な場所ならザックを下ろして飲み物を飲んで行動食を食べましょう。これは登山の遭難だけでなく普段の生活でも同じ。怖い目にあったら気持ちが落ち着くまで待ちましょう。

安全でない場所(例えばクライミング中とか)なら、ゆっくり深呼吸をして気分を落ち着かせてください。

気持ちが落ち着いてから考えて行動してください。いきなり行動を決定してはいけません。

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遭難したらどうするかって?状況次第です

遭難したあとの行動について、絶対の正解はありません。鉄則も法則も決まりもありません。科学と同じで絶対はありません。遭難の種類(態様)も状況もさまざまなので『これをすれば絶対』というのはありません。

高尾山の6号路(沢沿いの登山道)の途中で軽い怪我をしたときに『沢を下ってはいけない』というルールに従って登る人がいますか?ポンコツロボットじゃないんだから、普通に登山道を下るでしょう。

『来た道を戻る』は道迷い遭難の対処としては基本ですが、どうしても戻れない場合もあります。簡単に戻れるなら遭難しません。そんな時どうしたらいいのか?

状況次第としか答えられません。

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沢を下るか下らないか問題

沢を下るか稜線に登るかというのは道迷い遭難をしたあとどうするか?という話です。普通の怪我で登山道にいるのなら登山道を使って移動するなりその場で救助要請をして待てばいいわけです。

道迷い遭難をして、登山道から外れた状況でどうするか?ですね。この話になると沢を下っていいのかダメなのか?が話題になるので早めに書いておきます。

登山道が無い沢を下ってはいけません。

登山道が無い沢を下ると、ほぼ間違いなく「下りられない滝」があります。10mの滝から落ちれば死ぬか、良くて骨折します。5mでも打ちどころが悪ければ死ぬし、骨折して行動不能になれば死ぬ確率が爆上がりします。開放骨折なんかしたら骨髄に雑菌が入って、運良く助かっても一生骨髄炎に悩まされます。

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上の写真は沢登りで登った滝ですが、これをロープなしで下るのは絶対に嫌です。滝の横に沢登りや渓流釣りの人が付けた巻き道がある場合もありますが、登ることは容易でも下るのは非常に危険です。固定ロープがあれば下れるかも知れませんが、当然全ての滝にロープが付いている訳ありません(沢登りをする人なら分かりますね?)。どれくらいの規模の滝が何本あるかも分からない沢で、全ての滝を身一つで安全に下るのは非常に困難です。大抵はどこかで落ちて死ぬか大怪我をします。どう考えても下っちゃダメですね。

沢は3方向を地形で遮られていて携帯の電波も入らないので、どこかの滝上で行動不能になると本当に詰みます。稜線なら携帯の電波が入ることがありますが、沢はほぼ絶望的です。救助要請出来ず、数カ月後にたまたま訪れた沢登りの人が骨や持ち物を見つける事になります(見つけた方も困ります。見なかったことにしたくなります)。

沢は携帯の電波だけでなくGPS衛星からの信号も届きにくいので現在地の確認という点でも不利です(iPhoneなどはけっこう正確に測位しますが)。

他にも天気次第では増水や鉄砲水、落石、冬は雪崩や深い積雪など、沢に降りると様々な理由で不利になります。

沢を舐めてはいけません。非常に危険な場所です。

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沢を下ってもいいシチュエーション

・間違って沢沿いを登ってしまい、戻れば元の道に戻れると分かっていて、下るのが可能な場合。ただし下るのが不可能な崖を登ってしまったら詰みます。そうならないよう、登っていい崖かよく考えましょう。

・沢沿いに登山道が付いていて、地図やGPSで下まで続いていることが確実にわかっているとき。ただし沢沿いの登山道は台風などで崩壊していることがあります。不確実なら下らないのが賢明です。

・ロープやクライミングギアを持っていて使い方も熟知しており、安全に下降できるとき(沢登りやアイスクライミングではロープを使って沢を下降することがよくあります)。それらが無いなら安全に下るのは不可能です。なお、クライミングで沢下降をするのはその先に下山すれば帰れる事が分かっているからで、道に迷った結果の沢下降はしません。

・飲み水が無くなり死にそうで、沢の源頭部まで比較的安全に降りられるとき。沢の源頭部までなら下る選択肢もあり得ます。ただし、登山道がない斜面はとても急で崩れやすく、滑落しやすいし、落ちれば死にます。水を汲んだら速やかに稜線まで戻ってください。これも、基本的にはやらないのが正解です。だって、水が無くなって死にそうな人がそんな斜面を安全に上り下り出来ると思いますか?谷側にふらついたら死にますよ。

以上の様なリスクや条件をよく考えた上で行動してください。くれぐれも、基本的には先がどうなってるか分からない沢を下ってはいけません

・沢は携帯の電波が通じない、GPSの精度も落ちる
・沢を無理に下ると滝で死ぬ

もしどうしても水が欲しいのなら、あまり降りずに行けそうな谷地形に行ってみてください。トラバースとか。運が良ければ小さな沢があるかもしれません。ただし、谷地形は滑落や落石のリスクがあります。よく見極めてください。谷から這い上がるのは大変です。また、地図から谷や尾根を読み取るには読図の知識が必要です。分からない人は読図を勉強しましょう。

(それくらい読図できるなら道迷い遭難なんかしない気もしますが)

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原頭部では地面から水が湧いています。これは飲める。

以上を短くまとめるとこうなります。

「道に迷ったら、登山道が無い沢を絶対に下るな」

道に迷ったら稜線や山頂に登れと言われる理由

稜線やピークは登山道がある場合が多いので正規の道に復帰しやすいです。予定の道でなくても『道』は非常に歩きやすいです。登山道にいれば誰かが通りかかる可能性もあります。捜索隊も登山道の外よりは、登山道から先に探します。道から外れた場所は、10m外れただけでも誰も通らないし藪が濃ければ見えません。

携帯の電波も稜線や山頂のほうが届きやすいので、怪我人がいたり自分が怪我をしていた場合は救助要請をしやすいです。救助要請後も、谷間にいるより山頂や稜線の方が見つけてもらいやすい。

見つけてもらったあとヘリにしても救助隊による陸上搬送にしても、谷の底にいるより稜線やピークのほうが運びやすいです。谷底から怪我人を引き上げるのはとても大変です。

GPSも谷や斜面にいるより測位精度が上がります。西や北側の斜面や谷にいたら日が当たりませんが東や南の向いた尾根や山頂に出れば日が当たって暖かいでしょう。日光は偉大です。

というように、さまざまな理由で谷や斜面よりも、稜線や山頂の方が生存に有利な場合が多い。だから谷(沢)に降りてはいけないと言われています。

ただし、悪天候の時は風雨を避ける工夫をしてください。同じ稜線でも風下側に数m下がるだけで風が無くなったりします(滑落に注意)。

北から風が吹いているときは山頂や稜線の南側に移動すると風が弱くなります。ビバークや待機、休憩は条件が良い場所で行いましょう。

また、尾根は谷よりはマシってだけで、尾根上に崖があって登ってみたら進退窮まることもあります。大事なのは、闇雲に行動せず、地形図や地形をよく見て安全な選択をすることです。残念なら、遭難した時点で絶対の正解なんてないんです。

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登山道が無い尾根を下ってもいいのか?

「沢を下るな」はよく言われることですが、だったら尾根は下っていいのかというと、登山道が無いのなら下らないのが無難です。特に、現在地が分からず自分がいる尾根の末端(下の部分)がどうなっているのか分からないなら、その尾根を下るべきではありません。

  • 尾根でも途中が崖になっていることがあり行き詰まる可能性があります。

  • 尾根の末端が崖になっていて降りられない場合があります。

  • 尾根の末端は沢(谷)になっています。そこに林道や登山道があればいいのですが、無ければ結局、沢を下ることになってしまいます。

尾根を下っていいのは、

  • 現在地と自分がいる尾根が分かっていて、途中に崖も無くなだらかで、下れば道があると確信できる場合。

  • 尾根上に登山道があり、容易に下れそうな場合。ただし、その道は本当に一般登山道なのか?獣道や沢登りの詰めルートではないのか?降った先は舗装路など安全地帯に繋がっているのか?を確認してください。

どちらの場合も、降りる途中も降りた先も安全性が高いと確信出来る場合のみ下るべきです。確信が無いのなら下るのは悪手となります。あやふやな「きっとこうだろう」といういい加減な判断をしていると死にます。

斜面の上りと下り、どっちが難しい?

クライミングをやってる人なら分かると思いますが、下りのほうが難しいです。なぜかというと、足場が見えにくいから。

道迷いでやむを得ず上り下りする急斜面の角度は45°くらいでしょうか(※)。そのくらいの角度で大事なのは腕力ではなく足の置き場です。体重のほとんどは足に掛かります。

※それでも十分危険なので、道迷いの際にそういう斜面になったら地形図をよく見て迂回しましょう。ちなみに45°以上の斜面は、その場に立つと「壁」に感じます。一般登山者が上り下りするのは自殺行為です。

上りは足場を見ながらなので分かりやすいのですが、下りは足場が遠く見えないため難しいです。足を置くのに失敗して滑ったら落ちます。足場が見えなかったり不安定だったりするからといって、腕力に頼れば1分も持たずに落ちます。クライミング経験があってもなくても、人間は山のスケールでは無力です。

崖の上り下りであれば、上りの方がまだマシです。ただ、上ってしまえば引き返すことは困難になります。登山道外の崖は大抵岩が不安定で、ボロボロと崩れます。足場や手がかりが崩れたらどうなるか?

だから、登るにしても下るにしても、地図やGPSで現在地を割り出し、地形図と実際の地形から、最も安全なルートを見つけなければいけません。登山道外では、上りも下りも、崖を通ってはいけません。

遭難時の状況いろいろ

状況はさまざまですが、大雑把に書き出すとこうでしょうか。

・単独か?パーティー登山か?
・動けるのか、怪我などでもう動けないのか?
・道に迷って来た道を戻れるのか?もう戻れないのか?
・今の天気は良いのか悪いのか?
・これから天気は崩れるのか?しばらく晴天なのか?
・水や食料はあるのか?
・ビバークの装備はあるのか?技術は?
・計画は誰かに提出してるのか?今この山に登っていることを誰か知ってるか?

他にもシチェーションは考えられますが、上記の状況を中心に考えてみましょう。

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月曜日に単独で怪我して行動不能、登山計画も出していないし救助要請も出来ない場合

最悪です。もうほとんど死ぬ状況です。

単独登山はパーティー登山で遭難した場合の3倍死にます。足首の捻挫で死にかねないので、絶対に行動不能になってはいけません。特に救助要請が出来ない、携帯の電波が通じない山域では死ぬ可能性が高い。

月曜日に遭難したら、マイナーな山なら土曜日まで人が来る可能性は低い。登山道から外れた場所ならなおさらで、土曜日に遭難してもだれも見つけてくれないかも知れません。

しかも計画書を誰にも出してない?探しようがありません。ココヘリを持っていてもどこの山に登ったか分からなければヘリは飛びません。

完全に運の世界で、その場で待っていて見つけてくれる可能性はとても低い。登山道から10mも外れていたら骨も見つからずに行方不明として処理されるでしょう。終了です。

それが嫌なら、体力や怪我の回復を待ってなにか行動してください。笛を吹き続けてもいいし、這ってでも登山道に戻る選択をするのも良いかも知れない。地形、怪我、装備から最善の生き残る策を考えます。絶対の正解はありません。

ここまでの状況にならないようにしてください。

・仲間と山に登る。
・登山計画書を警察や登山サイトなどで提出し家族にも残す。
・余裕のある計画と慎重な行動。
・登山道から外れないように地図やGPSを活用する。
・ファーストエイドキットなどしっかりした装備を持つ、使い方を学ぶ。

仲間と登山中に転んで怪我をした場合

まずは安全の確保。落石や滑落、装備を落とリスクを考えます。近くに安全な場所があるならどうにかして運びます(ただし首や頭を怪我した場合は動かしてはいけない場合もありますが専門外なので触れません)。

怪我の状況を確認。出血しているのか打撲なのか、関節はどうなっているのか。元気な仲間がいるのならその人がニトリルグローブなどをしてから応急処置をします。出血してるのなら傷を水で洗ってからガーゼや包帯などで圧迫して止血しますし、傷の大きさによってはコロイド包帯も有効です。

応急処置の動画もありますので見ておきましょう。

腕の怪我で出血が少なければ仲間のサポートで自力下山も可能ですが、それも怪我の具合や登山道次第です。手を使わなければ降りられない山で腕を怪我したら行動不能ですし、足の怪我ならなおさら難しいでしょう。

サポート要員が十分(3人以上)にいて技術と体力があるなら背負搬送や簡易担架で担ぎ下ろす事も可能です。ただし、非常に大変です。特に大柄な男性を搬送するのは本当に大変です。小柄な女性でもかなりキツイ。

自分たちで対処できないとなったら、無理せず救助要請をしてください。

救助要請は警察に直接しよう

電話で救助要請をする際は、家族や友人に頼むのではなく直接自分で110番をしましょう。直接なら、GPSで測位できていれば位置情報も伝わりますし、状況などを直接伝えられます。もし電話は通じないけどメールなら使えるという場合は、位置情報や状況を説明したメールやLINEを家族などに送ってください。Googleマップでも経緯度は調べられます。

拙作のジオグラフィカは画面上部の座標バーを長押しで現在地の座標をメールなどで送れます。

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救助要請をしたら安心なのか?

救助要請をして位置も伝えたらそれで助かるかと言えば、天気次第ではヘリが飛べないこともありますし、救助隊が下から登ってくるにも時間が掛かります。助けてもらえるまで自力で耐えなければいけません。

動くなと言われたからと言ってバカ正直に風雨に晒される場所にいては低体温症になってしまいますし、豪雨で沢の中にいれば鉄砲水で流されるかも知れません。助けてもらえるまでは自力で安全を確保しなくてはいけません。

傷病者を守る際に最も大事なのは保温です。服や下着が濡れているのなら、可能であれば着替えさせ、上着や雨具を着けさせ、ツエルトやエマージェンシーシートで風雨から守ってください。

温かいものを飲ませたり、プラティパスなどの耐熱容器にお湯を入れて湯たんぽにしたりして保温してください(その際は熱すぎや火傷に注意)。

沢の真ん中にいるのなら少しだけ斜面を登って、鉄砲水で流されないようにしたほうがいいでしょう。吹きさらしの場所ではなく岩陰や木の下(ただし雷が鳴っているときは木の下に逃げてはいけません。側撃雷に撃たれます)に逃げたほうがいいでしょう。稜線にいるなら風下側に3mも下れば風が無くなったりします。

出来るだけ安全な場所でツエルトをかぶれば、吹きさらしのところで待つよりだいぶマシです。

道に迷ってしまったが怪我はしていない場合

いつ道に迷ったと気づいたかにもよります。迷ったかもなーと思いながらも進んで行って、いよいよ進退窮まって前にも後ろにも動けなくなったら詰みです。崖から落ちたら死ぬか大怪我をします。

迷ったかもと思ったらすぐ確認、基本は引き返す

迷ったかも?と思ってすぐ地図やGPSで確認したのなら、すぐに引き返せます。特に、まだ登山道にいるのなら引き返すのは容易です。これで復帰できれば遭難にはなりません。ニュースにもならないので、こういう人が取った行動はだれにも知られません。

下ってしまった場合、登り返すのは嫌だな…という心理的葛藤はあるにしても、『道に迷ったら分かる場所(正しい場所)まで引き返す』と決めておけば可能です。基本的には戻ってください。面倒くさがらず、絶対に戻ってください。

補足:登山道から外れたらすぐ気づけ
登山道とそうでない場所では地面の硬さが違います。登山道から外れるとフカフカして柔らかく、草木も生い茂っており蜘蛛の巣が張られています。周りや地面の硬さに気を配り、道から外れないように歩きましょう。地面やスマホの画面ばかり見ていないで、前や上、周りをよく見て歩きましょう。

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戻れないなら地形を見て考える

迷ってしまってGPSなどで現在地を確認したら登山道から外れていて、もうどう戻ったらいいか分からないし、来た道が分からなかったり険しすぎて戻れない場合は地形を見て考えます。安全に登れそうな尾根があるなら尾根を目指します。どうしても動けなくて携帯の電波が通じるのなら救助要請をしましょうか。

沢を下ると救助要請できなくなるし滝で死ぬので、上に書いたように原則的には下らないでください。

最後まで下ってしまって道路に出た

ほとんど下ってしまって間違った登山道や林道に出てしまったのなら、そこからどう帰るかは自分で考えてください。車をどこかに停めているのなら車道なり林道なりを歩いて車のところまで行くか、もう夜なら別の手段で一旦家に帰って後日車を取りに来るか、状況次第でしょう。下りきった登山道を暗いのに登り返す人はいませんね?

読図できないのに山に登るのがそもそもおかしいので…

そもそも地形や地図を見て、どうしたらリカバリ出来るか考えられる人が進退窮まるような道迷いをする可能性は低いです。

だから、登山をするなら読図をよく勉強してください。読図できれば道迷いの遭難を少し減らせます(ゼロにはなりません)。そんなに難しいものではないので勉強しましょう。

地図を見てもなにも分からない、等高線?なにそれ?という人は登山をする前に地図の勉強をしてください。あとスマホのアプリでいいからGPSを使えるようにしてください。最悪、現在地は分かりますから。

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悪天候のなかで怪我をした場合

これから天気が崩れると分かってるのなら登山を中止するか、行っても途中で引き返す、エスケープルートに転進するなどプランBを実行します。当然計画段階でプランBも考えておきます。皆さん考えていますよね?

悪天候の中で怪我をしてしまった場合、動けて下山出来るのならさっさと下山したほうがよいでしょう。軽い怪我をして天気が崩れる山で救助を待っていても不利になるだけです。

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動けないのなら救助要請をして救助を待ちます。仲間と登っているのなら、その場で携帯が通じなくても伝令として電波が通じる場所や山小屋、登山口まで行ってもらって救助要請をします。

このとき、怪我人や伝令を単独にしないようにしましょう。なので4人以上のパーティーが望ましいのですが、2人パーティーだったらそれぞれ1人ずつでどうにかします。

ただしこれも状況次第です。計画を出していてココヘリを持っていて、待っていれば救助がくる可能性があるなら2人で待っていてもいいでしょう。雪山なら雪洞を掘って待ってもいいし、ツエルトやテントがあるならそれらを使ってビバークします。

これらの行動を取る際は、くれぐれも『落ち着いてから行動する』ようにしてください。パニックのまま行動すると誤ります。

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水や食料がない場合

水は3日飲まないと死にます。食べ物は季節や体脂肪次第ですが、一般的には3週間は食べなくても死なないそうです(いわゆる餓死はなかなかしない)。人の体は食べ物がなくなれば脂肪や筋肉をエネルギーに変えて生き延びるように出来ています。よく分からない草やキノコを食べて、それが毒だったら死んでしまいます。

食べ物は多少無くても死にはしないと思ってください。食べ物が無くなっても絶望しないでください。

ただし、出来ればそうならないように予備食や予備の水を持ちましょう。

雪山など特に寒い場所で食べないと熱を産生出来ないので低体温症になってしまいます。夏でも十分に食べていない人が悪天候で風に吹かれて低体温症になった事例があります。なかなか餓死はしませんが、低体温症になれば短い時間でも命を落とします。予備食を持ちましょう。

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もしヘリが飛んできたら鏡で合図

運良く捜索のヘリが近くに飛んできて、鏡を持っていたら太陽光を反射させて自分の存在を知らせることが出来るかも知れません。

もしかしたら気づいてくれるかも知れないので、遭難した時は思い出してください。鏡を持っていなくてもスマホの画面でもそこそこ反射します。

とどのつまり状況次第なんですよね

結局、遭難したらどうすべきか?ってのは『状況次第』です。遭難の種類、怪我の度合いや天候、パーティー編成で最善の策は変わります。積極的に動くのが正解の場合もあるし、動かないのが正解の場合もあります。

積極的に動いて捜索願が出る前に自力下山した人は、わざわざ警察署に行って『遭難してました』って言わない限り統計にも乗らないしニュースにもなりません。『見えている遭難者』の何倍もの『自分で助かった隠れ遭難者』がいるはずです。

助かった人が取った行動が、『その状況における正解』だっただけで、常にこれをすれば助かるという事はありません。

だから、「これが絶対に正解な行動なんだ!」って固定観念に縛られて変な行動を取ってしまうタイプの人は登山に向いていません。その場の状況に応じて柔軟に最善策を考えられないと死にます。

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やってはいけない行動

『こうしたら絶対正解』というのはありませんが、やってはいけない行動はあります。

無自覚な単独登山をしてはいけない

一人で山に登るのは、それはそれで楽しいものです。実は私もたまにします。でも、単独登山はパーティー登山登山の3倍死にます。単独で登るのなら絶対行動不能になってはいけないし、そうなったら全てを自分で対処しなくてはいけません。

腕や足が折れた状態で自分を助けなければいけません(頭を打つなど致命的なダメージを受けたらまず死にます)。それが出来ない、覚悟が無いのなら単独登山はやめましょう。

闇雲に沢を下ってはいけない

装備も技術もないし、先の状況も分からないのに沢を下るのは最悪です。自殺みたいなものです。やめてください。基本的には沢をくだってはいけません。GPSで現在地を確認し、地図を見て最も安全な道を探してください。つまり、地図、コンパス、GPSは必須装備。読図の技術も必須です。

パニックのまま行動してはいけない

まず落ち着くのが大事です。パニックのまま行動してもろくな事になりません。事故が起きたり、道に迷ったと気付いたらお茶を飲むなどして休憩してください。まずは休憩!お忘れなく。

無理やり進んではいけない

GPSで現在地が分かって、この先の崖を下れば早く元に戻れそうだなって崖に突っ込んだりしないようにしましょう。GPSは現在地を教えてくれるだけの機械で、登山者としての実力は何も変わっていないことをお忘れなく。上にも書きましたが、読図して安全な道を選びましょう。

登山計画を残さず単独で登ってはいけない

どこの山に行ったのか分からない人が単独で遭難したら探すのがとても大変です。怪我をして24時間は生きていたとしても、探すのに時間がかかれば死にます。計画書を出して、家族にも残し、ココヘリやjROなどにも入りましょう。

根拠なく行動してはいけない

現在地もあやふやなまま、よく分からない尾根や沢に突っ込んでいけば、そりゃ死にます。GPSや地形図で現在地を特定し、進むべきルートを地図から読み取り、根拠を持って行動を選んでください。

根拠も理由もなくその場でただ待ってはいけない

どこに行ったのか分からない状況でただ待っていても、相当運が良くなければ見つけてもらえません。その場で待つのが絶対正解って、そんなわけないでしょう。

根拠もなく白馬の王子様が現れると思ってる夢見がちな乙女ですか?または空から女の子が降ってきて自分の事を好きになると思ってる中2男子ですか?

計画を出して家族が捜索願を出したり、救助要請をして現在地を伝えていたり、近くまでヘリや人が来ているのならその場で待ったほうがいいでしょう(救助が近くにきたら声や光で合図をしましょう)。でも、どこに行ったかも分からず誰も探してないのならその場で待っていても死んで動物の餌、そして骨になるだけです。

いい加減マスコミは『その場で待つのが絶対安全神話』から抜け出してください。その場で待ってて助かった人は、助かる理由があり運が良かっただけです。

助かった人の裏に「待ってても誰も来ねぇじゃん…」って死んでいった人がたくさんいます。そんな人の多くは骨も見つかりません。『その場で待てばいい教』はそういう人を量産してしまいます。

本当に、マスコミの方たちは登山や遭難を話題に出すならよく勉強してください。ガイドに取材するなら複数のガイドに取材して、言ってることに偏りがないかよく確認してください。

パーティーをバラバラにしてはいけない

例えば1人怪我をしたり体調が悪くなって、その人が歩けるからと言って1人で登山口に戻らせるのはやめましょう。最悪です。基本としては、そこで登山を中止して全員で下山してください。

せめて複数人のサポートを付けて下山させましょう。10人グループで軽めの怪我人1人サポート2人が下山して残り7人で続行可能ならそれも構いませんが、本当にいいのかはよく考えてください。リーダークラスの人が複数抜けたあと、更にトラブルが起きた時に対応可能かよく考えましょう。

行動中もパーティーはまとまって歩いてください。リーダーだけ100mも先行するなど論外です。そんなに離れていて後続が事故った時すぐに気づいて駆けつけられますか?視界が悪ければはぐれますよ?具体的には、30m離れたら離れすぎ。どんなに離れても10m以内にしてください。

何も準備せずに山に登ってはいけない

登山はミスが重なれば人が死ぬ遊びです。だから登山はトラブルが起きた時のことを考えて、必要な装備を持ったり技術を学んだりして行います。

その日が晴れでも遭難したら何日か、あるいは1週間以上耐えなくてはいけません。晴れてても雨具が必須なのは、その日に山から帰れるかわからないからです。同様にツエルトやエマージェンシーシート、ファーストエイドキット、予備食なども持ちます。

それらを持っていても使えなければ意味がありませんから、本や講習で使い方を学びましょう。

ヤバイ人と山に登ってはいけない

登山経験に関わらず、『この人の安全管理はマズイな』とか『この人とは安全に関する考えが合わないな』という事があります。経験豊かなはずなのに、だからこそなのか?リスクを過小評価したり準備不足で危険な山に突っ込んだり、判断が甘かったり登山技術が低かったり、ここに書いてる様なリスクを平気で踏み越えてしまう人。そしてそれを反省しない人。

危ないなと思った人とは山に登らない方がいいです。リスクを指摘してもいいのですが、それで改めてくれないのであれば一緒に登ることは諦めましょう。登山は命がけの遊びです。合わない人と続けるのは危険です。

冷たいようですが、事故に巻き込まれたら自分の家族や友人が悲しみます。運が良ければ、危ない事をしている人も遭難しないでしょう。一緒に登って下山し、ヤベーなと気づいたら、あとは相手の運に任せて自分は巻き込まれないように逃げるのもアリです。

天気が悪いなら山に入ってはいけない

間違いなく大荒れだと分かっているのなら、そもそも山に入らないのが正解です。天気図や風向き、強さ、地形などを考えて行けると判断したらその限りではありませんが、それでも途中でメンバーが1人でも危険になったら中止しましょう。

だれか1人でも動けなくなれば、最悪パーティー全員が死にます。

生きるのを諦めてはいけない

生きるのを諦めたら死にます。なにがなんでも生きて帰るんだと思い続けてください。悲観的になるより楽観的な方が助かる可能性が上がるそうです。遭難したらその状況を受け入れ、最善の選択をしてください。

ある程度腹をくくり、次の日の仕事のことなどはもう忘れて、生き残ることだけを考えましょう。僕はそこまでの遭難はしたことがありませんが(※)、もし遭難しても生きていれば最後まで諦めるつもりはありません。

※ちょっとだけ道に迷った事がありますが、冷静になってリカバリしました。

本を読みましょう

山岳遭難に関する本はとてもたくさん出ています。それらをよく読んで勉強してください。

まとめ

・遭難したと思ったらまずは落ち着きましょう。

・本や講習で勉強してください。

・無理せず救助要請してください。

・遭難後の行動について、こうすれば絶対正解ってのはありません。

・やってはいけない行動はいくつもあります。やってはいけません。

・道に迷ったら登山道のない沢を下るな。

白黒ついてないって?

最初に『白黒つけます。』って書いてあるのに随分玉虫色な内容だったな、グレーじゃないの?って思った方は正解。状況次第で正解が変わるのだから白黒はつかないんですよ。

だから、「遭難したら絶対こうしろ」って情報はありません。最後は助かる道を自分で考えてください。ただし、よく考えて行動を選んでください。選択次第では死にます。

そして、そんな状況に自分たちを追い込まないように準備してください。登山の計画段階で遭難の種が入り込まないようにしてください。遭難する人は準備段階から計画が甘かったり無計画だったりします。

遭難の入り口に立っているだけならすぐ引き返せます。遭難の沼にはまり込んでしまったら自力でリカバリするのは困難になります。早めにリスクに気づいて避けてください。

状況に合わせた最善策を自分で考えて行動できない人は、遭難しないでください。

状況判断も準備も出来ない人は…山なんか登らなくても死にませんよ?(山に登らないほうがいいですよ)

※…5分で読めなかったって?あはは、嘘ついちゃった!ごめんね!

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。