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テレサ・テン日本デビュー前の曲「一見你就笑」:一戸信哉の「のへメモ」20220506

2022年5月6日の放送では、5月8日に没後27年を迎えたテレサ・テンさんの歌を、カバー曲を中心にお届けしました。台灣や香港をベースにしつつ、中国大陸でも影響力を持ち、日本でも大きな成功を収めた彼女の活躍とその背景を理解するというのは、大学の番組の企画としてもよいのではないかと考えたわけですが、亡くなって四半世紀、学生たちにとって縁遠い曲ばかりなのはたしかでしょう。調べていく中で、彼女が中台関係の狭間で背負ってしまった役割についても、いろいろ考えることになりました(これについてはいつかまた書きたいと思います)。

テレサ・テンさんは、日本では、今でいうところの「不倫」をテーマにした演歌で多くのヒットを飛ばしましたし、その中国語バージョンも多く存在していることも知られているとは思います。また「北国の春」「グッド・バイ・マイ・ラブ」のような別の歌手の曲を、中国語で多くカバーしていて、テレサ・テンさんの歌によって、中国語圏に知られた歌も多くあります。制作チームの間では、「テレサ演歌」という言葉も使われていたそうで、きいてみると、たしかに中華圏とも共通する「歌謡曲」の要素はあるんですが、「演歌」らしさは薄いようにも感じます。

一方、中国語圏で彼女が歌った曲を調べてみると、「但願人長久」や「月亮代表我的心」のような、中国語圏のスタンダードナンバーも多く歌っていて、こちらはいわゆる日本の「演歌」とはだいぶ趣が違っています。「高山青」という台灣の阿里山のことを歌った曲、「南海姑娘」という南国風の歌など、テレサ・テンが歌ってメジャーになった曲は中国語圏にも多いようです(「南海姑娘」は、のちにフェイ・ウォンのトリビュートアルバムにも収録されています)。


そしてもう一つ。日本デビュー前の中国語圏でのヒット曲を見てみると、アイドル風の歌もヒットさせていることがわかります。日本でも当初「アイドル路線で、「今夜かしら明日かしら」という曲でデビューするのですが、この曲はほとんど話題にならなかったといいます。このあとに出したヒット曲「空港」に比べると、たしかにパッとしない気もするのですが、それは後知恵なのでしょう。


ただ中国語圏ではアイドル路線(という路線が当時中華圏に存在していたのかどうかわかりませんが)でそれなりに成功を収めていたようで、日本デビュー前に香港では、1970年映画「歌迷小姐」に主演し、挿入歌である「一見你就笑」がヒットしています(この曲のタイトルは、「我一見你就笑」になっているときがあり、ブレがあります)。

曲自体は、「あなたの笑顔を見ているだけで、私は幸せになれる」というような単純なラブソングですが、17歳のアイドルとして、すばらしい歌声を披露しています。日本語では、これと全く同じようにはヒットさせられなかったというのが不思議なものですが、これが後の日本での大成功につながることになります。

この「一見你就笑」、日本ではほとんど知られていないようですが、一緒に選曲していた中国出身の留学生からの反応は意外なもので「『一見你就笑』は、テレサ・テンの歌だったんですね」でした。つまりこの曲そのものは、もはやテレサ・テンの歌というよりも、昔流行ったある種のスタンダードナンバーになっているということなのでしょう。調べてみると、テレサ・テン以外の曲がそんなにたくさん出てくるわけではないのですが、アレンジもさまざまなものが出ていることがわかります。





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