深海3

小説を通して、心の奥底で繋がる感覚。

先日、「月の満ち欠け」を読んだのですが、その時に感想も兼ねて書いた文章です。
少しネタバレも含んでいるのですが、感想文を書きながら小説に感動したのは久しぶりだったので、noteに載せたら少し面白いかなと思って、載せます。
自分用に書いたということもあり、公開すること自体めちゃくちゃ恥ずかしいのですが、よかったら見てください。


【ほぼ日の永田さんの紹介ツイートで知ってから半年以上たったが、今日読み終えた。
ジャンプ以来の佐藤正午さんの著作だったが、文章が心地よかった。
伏線の張り方とその回収の仕方、徐々に伏線を伏線として読者に提示して、綺麗に回収していく感じが見事だった。

物語としては不思議な感じだ。ありきたりな形ではないんだけど、スッと心地よく読んでいて馴染んでくる。
その心地よさに浸るために、周りが静かな状況で読みたくなるほど。
大学生と人妻の恋がどんどんあらぬ方向に進んでいく感じで、あれよあれよという間に作者が作り出す世界観に吸い込まれていった。

小山内さんの心情変化について上手く表現されていて、心情の変化がとてもわかりやすく、娘が亡くなってからの「諦観、困惑、受け入れ」の心情変化が見事に表現されていた。
こんな心情変化を描けるようになりたいなぁとも思った。
作者が書きたかったのは、最後のシーンではないだろうか。

何回も下手な失敗繰り返すんじゃない。怯むな。自分の脚で立って、自分の言葉で説明して、自分の声でアキヒコ君に電話をかけなければ。彼の声が聞きたい。彼の顔が見たい。会って話がしたい。それなら待っているだけじゃだめだ。困難は自力で打開しなければ。不運だった過去の彼女たちのために。いいえ、そうじゃなくて、不運だった過去のあたしたちのために。いまこのあたしがやるべきことをやる。これはあたしただひとりの願いではなく、彼女たち、不幸だった死者の願いでもあるんだ。もしかしたら彼女たちにとどまらず、もっと遥かな昔から、数々の死者からバトンを受け渡しでつながっている宿願かもしれないんだ。みんなの思いが遂げられる日まで、これは永遠に続くかもしれないんだ。会いたい人がいる。人はみな会いたい人に会えないままこの世界から消えていったのかもしれないんだ。

これを書いている時に、わかった。

このシーンは、初めてルリが自発的に行動した場面だ。

これまであまり人生にも意欲的に取り組まず、勤務先のタバコ屋も親戚のツテで働き出し、正木からのプロポーズも現在の生活から逃げるように受け入れ、本当は大好きなはずなのに三角さんからのアプローチも躱し、時間が経ち何度か三角のアプローチが実を結び、生活に嫌気がさしやっと正木から離れることを決意して動き出したら、電車にはねられた。生まれ変わっても、何度か行動したけど、親に止められ、社会に止められたくらいで諦めて、大人になって会おうとしたら、また交通事故にあった。これの繰り返しだった人生。受け身で過ごして来たから、自分の人生を生きられずにいた。

でも、今回は違う。このままじゃ永遠にこのままだと気付いた。自分の脚で立っていくんだ。受け身・待つんじゃなく、自分の生きたいように生きるんだと初めて本気で決意したシーンだ。
この決意が行動に現れ、三角さんとも会うことができた。

このことに気づいたとき、僕は震えた。
著者が伝えたかったことを理解できたような気分になれた。どこか深いところで繋がったような気分にもなった。これが小説を読む醍醐味だ。小説を書く醍醐味でもあるかもしれない。
本当に読んでよかったと思えた。これを書き起こすまで気づかなかった。すごく面白かったけど、正直この作品が直木賞をとるほど面白いとは思えなかった。でも、このシーンの裏側に気づいたことで受け取り方がガラリと変わった。

小説に限らずに、深いところで繋がった感覚になれるのが表現のいいところかもしれない。
文章、音楽、絵画など芸術の目的は、表現者と鑑賞者が表ではわからないような深いところで繋がることなのかも。
勘違いかもしれないけど、この感覚を味わえて心から感動している。

現代は、表面上すぎている。SNSで見栄を張った投稿や薄っぺらい会話。
だからこそ、少し中身をさらけ出すような毒舌タレントが人気なのだろう。
そんな時代だからこそ、芸術は大事だ。
表面上だけでは分かり合えなくても、表現・芸術を通して深いところで繋がれる。
表面上で感じる薄っぺらい感動なんかよりも、大きくて深い本当の感動を味わえるからだ。

お世辞を言い合ったり、バーチャル上で薄い好奇心を満たすよりも、深いところで生きようぜ。
そんな浅いところで生きていていいのか。もっと本気で能動的に生きようぜ。自分のことしか考えられない器を捨てて、もっと大きな器を手にいれよう。自分の脚で立って、自力で打開する。会いたい人がいるなら、自分から会う。まだ生きているんだろ。生きている間に行動しようぜ。
思いを遂げないと、永遠に果たされないぞ。過去からのバトンを捨てるな。バトンを活かせ。
それを僕に気付かせてくれた小説だった。

ありがとうございます。】


読み直してみて、深夜に書いたことも相まってすごく青臭い文章でしたが、載せたい文章がこれなんで載せます。

本当にマガジンタイトル通り「青二才のくせに」って感じですね(笑)。


「月の満ち欠け」最高に面白かったので、まだの方はぜひどうぞ。
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