見出し画像

オーストラリアで医師免許、その方法とは?

 ノート第一弾はまずこれ。(ちょっと加筆しました)

 海外に行こうと考えた時に避けて通れない目的地での医師免許。日本の医師免許がそのままの形で使える国はいくつかあるが、残念ながらその中にオーストラリアは入っていない。ではどうやってオーストラリアの医師免許を取得したらいいのか。日本は医師免許と言えば1種類だが、こちらのIMG(International Medical Graduate 海外の医学部卒の医師)の免許には複数あってややこしい。AMG(Australian Medical Graduate 豪州医学部卒の医師)のはシンプルなのに…。
 ここでは、オーストラリア医師免許の種類、免許取得への2つの行程となるStandard pathwaySpecialist pathwayその他の方法について書いていこうと思う。わかりやすくまとめるのになかなか時間がかかってしまった。長文です。お暇な方はどうぞ♪
(これは2021年3月時点での情報をもとにしました。ルール改正は予告なく行われることがあるので最新の情報は各自確認してくださいね。)

1. オーストラリア医師免許の種類

 オーストラリアでは医師免許のことをメディカルライセンスではなくてRegistration と言い、IMGに関するRegistrationにはいくつか種類があってこれがまぁややこしい。まず大まかにGeneral registration vs Specialist registrationとFull registration vs Limited/ Provisional registration 。この4つ(細かくは5つ)のregistration が何を指してるのかはぜひ頭に入れておきましょう。ウェブサイトによっては General とFull をごっちゃにして書かれてるものもあったりして、自分もわかりにくいなと最初感じたけど一度理解すればそうでもないです。一つ一ついきます。
 まずGeneral registration。通常AMGが研修医修了すると登録できる免許のことで、IMGの場合はそれと同等の知識とスキルを持ってるとみなされると申請できる。日本の医師免許を想像してもらえればいいと思う。日本のは研修医修了前にもらえるという違いはあるものの、どちらも専門医の前にもらう免許でこれがあれば専門医ではないポジションならばどこでも勤務可と言う点では同じ。対して Specialist registration は専門医試験を合格すると申請できる免許。専門医を標榜し独立して診察をしていいよ、というもので日本の専門医登録に相当する。通常AMG は Generalを経て Specialist registration を取得するので専門医取得しない人を除いては2つの registration を持っていることになる。方や IMG は条件を満たせば General を省略して Specialist registration の申請が出来るので 1つしか registration を持たない人もいると言うわけ。

 え、あと2つあったよね…ここまではいいですか?

 今、説明した General と Specialist registration はどちらも Full registration にあたります。で、それを取得するまでの過程で申請する免許は Limited/ Provisional registration とよばれる … えぇ … たくさん免許ありすぎ。最初からわかる人どれくらいいるんだろ。
 Full registration とは正規または本免許(General と Specialist registrationがこれにあたる) のことで、限られた国(NZ、UKなど)以外のIMGはいきなりこれを申請することはできないシステムになっている。なので、多くのIMGが初めに取得するのは Limited/ Provisional registration でいわゆる仮免とか暫定免許と呼ばれるもの。これはスーパーバイザー付きのポジションならば勤務していいよと言うもので、勤務地にタグ付けされる形で発行される免許なのでそういう意味でLimited なんだと思ってる。ちなみに、医師というスキルで永住権を申請する際に必要なのはこの Full registration でして … UK とかじゃない限り簡単にはやらんよという強い意志を感じたのは自分だけでしょうか。
 では次に registration を取得する方法について。大きく分けて General registration を取得できる Standard pathwayと Specialist registrationを取得できる Specialist pathway の2つがある。(これ以外に Competent authority pathway というのもあるが、該当するのはUKとかで日本は対象国ではないので割愛。)自分はどれに該当するかわからない人はぜひ AMC(Australian Medical Council) Self-check を見てみてください。

2. Standard Pathwayとはなに?

 スタンダードというだけあって IMG の多くはこれ。AMG がみんな持っているGeneral registration を取得することがこの pathway のゴール。つまり、このpathway で取得できる Full registration は General registration ということ。ただ、母国の医師免許をいきなりこの免許に書き換えられるのはUKなど限られた国の IMG のみ。残念ながら日本は該当国でなはいので最初の免許は Limited/ Provisional registration になる。
 そして Standard pathway で絶対避けて通れないのが(アラフォー泣かせの) AMC の試験。オーストラリアのIMG用医師国家試験と思ってください。医学部卒業相当の知識とスキルがあるかどうかの試験で AMC の 試験は以下の2つのパートからになる。
 ・Part 1 :AMC CAT MCQ (マルチプルチョイス)
 ・Part 2:AMC Clinical exam(実技)
MCQ に受かると Clinical 受験の申し込みができて、晴れて両方受かった暁にはAMC Certificate が発行され、これは現行のルールだと expireしないのでこれで永遠に AMC 試験とはおさらば!Clinical に変わるもので WBA(Work Base Assessmentというプログラムもある。受験料がもともと高く合格率も低い Clinical は昔から不人気なうえ、WBA は Clinical の代わりになるばかりか勤務経験にもカウントされるとあって以前から人気。でも、このプログラムを行う病院は現在10箇所のみで募集する人数は各施設かなり少数のため競争率が非常に高いのが難点。
 先に Limited/ Provisional registration は勤務地にタグ付けされる免許と書きましたが、別の言い方をすると就職先が見つかったら申請してね、というシステム。つまりAMC Certificate を持っていても就職先が決まっていないと申請できないんです … 人脈のない IMG にとっては1つ目の就職先探しははなかなか高いハードルなのはいうまでもありません。2つ目はみんなあっさり決まるんだけど。
 以下、各 registration の仕組み。
 ・AMC MCQ のみ + *就職先 → Limited registration
 ・AMC certificate + 就職先 → **Provisional registration
 ・Provisional registration で***指定の研修期間修了→ General registration 
* この就職先がWBAのポジションの場合は WBA 修了時に General registration の申請ができるはず。
** Provisional は暫定免許のひとつで Limitedとの違いは AMC Certificate を持っているということ。Provisional は一定の勤務を経れば General を申請できるが Limitedは Clinical に合格するかWBA を修了しないと何年勤務してもGeneral は取得出来ないしくみ。Limited でずっと勤務する人はいない(しない方がいいと言われる)。
*** だいたい12ヶ月〜といわれてる。

3. Specialist Pathwayとはなに?​

 母国で専門医を取得していて、豪州でもその専門医をしたい IMG 向け。UK など書類の書き換えのみで OK なラッキーな国以外の IMG では実は少数派。これはひとえにスーパーバイザーを用意してくれる就職先を探すのが至難の業だから。ただ、すでに強力なコネがある場合はその限りではない。この pathway で取得できる Full registration は Specialist registration となる。その過程の免許は Limited/ Providional registration 。Standard pathway の審査母体がAMCなのに対し Specialist pathway は各 Medical College(以下 College 、日本の専門医学会に相当)が直接審査。このため College ごとに審査基準が違うので注意。Limited/ Provisional のルールも Standard pathway とは当然異なるのでごっちゃにしないようにしましょう。プロセスは非常に多岐にわたるうえ、下記 pathway も全 College 共通ではなく、さらにルールは頻繁に変わるので全容を知ることは実は不可能です。すいません … 間違った情報は書きたくないし。なので大まかな説明になるので悪しからず。各自該当の College の HP を十分に確認することをおすすめします。各Collegeへのリンクはここからどうぞ。あとは Specialist pathway のタイトルから行ける AMC の PDF が非常によくまとまってるのでおすすめ。

では、大まかな3つの pathway の説明に入ります。

Specialist recognition
 母国のトレーニングがどれだけ豪州のそれと類似しているか各 College が審査するというもの。結果は Substantially comparable/ Partially comparable/ Not comparable のいずれかとなる。Substantially comparable は追加トレーニング/ 専門医試験が免除/ 最小限で Provisional もしくは Specialist registration になるそう。UK などの一部の国がこれに該当し、日本はまたもや該当しないので目指すべきは Partially comparable になる。これは母国のトレーニングシステムの一部は認めるけど、指定のトレーニング/ 専門医試験をしないと Specialist registration はあげないよ、というもの。指定のトレーニングをしてくれる就職先を見つければ Limited registration の申請となる。トレーニング期間や試験は IMG ごとに各 College が審査し決め、それを満たせば Specialist registration となる。最後の Not comparable は母国のトレーニングは豪州とかけ離れていて専門医とは認められないので、AMG のように一からトレーニングをやり直してねというもの。これは事実上 Specialist pathway は無理と言われたのと同じということになる。
Area of need 
 人材が足りない地域を補充する目的のポジションに対し、各 College がその人がポジションに見合うスキルを持っているかを審査。その個人の能力がポジションに見合ったと審査されれば Limited/ Provisional registration を申請。トレーニング期間や試験は IMG 毎に各 College が決めそれを満たせば Specilaist registration を申請となるのは Specialist recognition と同じ。ちなみに都心の病院では通常人材が足りてるので、足りない所はだいたい都心から離れた地域なことが多い。
Short-term Training  
 帰国前提の期間限定(通常2年)の免許。Specialist recognition のようなCollege の審査は基本的にはなし。母国にスキルを持ち帰るためのトレーニングと言う名目なので、これを選ぶ人はあらかじめコネがあって勤務先が決まってる人が多い印象。ただ、帰国前提だったけど在職中に気が変わって、ここから Specialist registration につなげた人もいると聞く。

4.その他の方法は?

 IMG にとって一番の難点は人脈がないこと。科によっては AMG でさえトレーニングに入れないのに、人脈のない IMG が そこに参入するのは実はかなり不利と言えます。なので臨床よりも少し入りやす言われている研究職でその専門科領域に入り、在職中に人脈を作ってそこから臨床の pathway へ繋げるというアプローチをする人も。こういった人の多くは Specialist pathway で Specialist registration をとることをゴールとしていて、いわば忙がばまわれ作戦。いきなり Specialist pathway に入るよりもこの方法をやるべきという意見もあるが、College にもよるだろうしこればかりはなんとも言えない。この研究職の免許は Limited registration for teaching or research になる。
 あと、諸外国の若い医師に多いのが Standard pathway で General registration を取得した後に AMG と同じ正規の専門医トレーニングを経て Specialist registration を取得するという、いわゆる確実な方法。General registration まで最短1年、そこから正規のトレーニングに入るまで数年待ったとして、専門医トレーニングは一番短くても2−3年、多くは6年くらいなのでそれくらいの年数をかけても構わないという人にはありかも。

5. 自分の場合

 一人一人違うので参考にはならないかもですが自分の話をちょっと。自分は王道の Standard pathway を選びました。AMG が皆もつ General registration を取得しておくことは安全だと思ったから。AMC MCQ + Clinical を経てAMC Certificate を手に入れ、就職先をみつけて Provisional registration 取得し、就労ビザで勤務開始。その約18ヶ月後かな(ビザも残ってたしあまり急いでなかったので)General registration 取得。いよいよ就労ビザが切れるタイミングで永住権取得。とまぁこんな感じ。

6. まとめ

 ここまで読んでくださった皆さん、おつかれさまです。日本の医師免許取得者がオーストラリアで医師免許を登録するにあたっての過程をざっとまとめました … 長文失礼しました。該当 HP みてもいまいち不明だった点が何となくでも全貌が見えてきたなら嬉しいですがどうでしょう? 
 余談ですが、豪州の医師免許審査は Australian Medical Board とMedical College が管轄しているのは先述した通りですが、免許登録は AHPRA(Australian Health Practitioner Regulation Agency アプラとみんな言います)が一括して行う。医師だけでなく、歯科医、看護師、療法士に代表される医療従事者の免許登録も全部ここ。なので、免許申請書類は全てここに出すことになります。余談ですが日本のように免許は生涯有効ではなくて毎年更新制で、その手続きもAHPRA 。ちなみに最初の registration が一番大変と言われていて、2回目以降はびっくりするほど早いのがなんともオーストラリアらしいというか … 。システムの中に入るのは大変だが、入ってしまえば楽と言われる所以はこんなとこにもあったり。まずシステムの中に入る、これが何より大事!!

ではみなさん、Good luck 🍀


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?