見出し画像

優勝と昇格、その先にあるもの

noteを更新するのに、こんなに日数がかかったことがないくらい時間がかかっている。書きたいこと、伝えたいことは分かっているのに伝えられない、記者になって最初の頃を思い出した。頭の中がまだふわふわしている中であるけど、当日の様子を書いていきたい。

いつもとは様子が違うJヴィレッジスタジアム。
午前9時の待機列スタート時には、たいてい数組がいる程度だったのがざっと見いつもの数倍の待機がすでに出来ている。午前10時にはメイン駐車場が満車となるアナウンス。それだけ、この試合の持つ意味を多くの方が分かっているということなのだろう。

試合開始前の喧騒

ここまでの混雑は見たことがない。運営も試されてる。これを乗り越えて一回り成長していくことが大事かな、と。

対戦相手の鹿児島ユナイテッドサポーターさんも何人かお見かけする。開幕戦のアウェイ鹿児島戦に参戦した仲間たちから聞いていた通り、物凄くアットホームな雰囲気。至るところで「こんにちわー」だの「遠いところお疲れ様でした」だの「今日はよろしく」だの声が交わされる。理解出来ない方もいるかもしれないけれど、これが自分たち。今後、こういうクラブは増えていく傾向にあると個人的には感じているし、この雰囲気はなくしたくない

3年ぶりの声出し解禁

通常よりかなり前倒しとなる10時45分にはシーズンチケット組の入場が開始される。ロープによって区切られた3ブロックが、この3年間、僕たちが夢にまで見た声出しの出来るエリアとなる。受け取ったリストバンドをスタッフに見せて、声出しエリアに入る。いつもと同じ場所なのに、いつもと違う。
そのままコールリーダーとリズム隊のメンバーで距離を保って演奏する為に太鼓の配置などを確認。途中テレビ記者さんが話を聞きに来るも、ごめん、今日はマジでみんなバタバタなのだ。

最前列に並べられた太鼓

今日のリズム隊はバス2台、フロアタム複数台、スネア2台、ティンバレス1台、一斗缶1台という最大規模編成。いわきFCが地域リーグを戦っていた時代に盛岡から通ってくれて、一緒にスネアを叩いてくれていた小学5年生になっただいや君も久しぶりに駆けつけてくれた。今ではグルージャ盛岡のゴール裏でスネアを叩いている。本当に懐かしい、そして大きくなったね。

「だいや君、リズム覚えてる?」「うん」とか話しながら"バモスいわき"を試して音がピッタリ合ったのを確認。心の底から嬉しくなる。

そんなことをしている間に、キックオフ1時間前。午後0時が迫る。
3年前、この場所「Jヴィレッジスタジアム」で過酷な地域チャンピオンズリーグを戦い、勝ち抜けていわきFCはJFLへの昇格を決めた。あの日から3年、コロナ禍という未曾有のパンデミックが世界中を襲う中、僕たちサポーターも声に出して声援出来ない悔しさを十分に味わった。選手が辛い時に声をかけられない、人を集めることが憚られる空気感。JFLへの昇格、Jリーグへの参入というファン、サポーターが増える時期を新型コロナに奪われた。それも一旦はこの日で終わる。3年間の様々な出来事が、胸をよぎる。

午後0時―
毎週のように会っているのに、上遠野君のこの声を聞くのは実に3年ぶりだ。「3年ぶりにJヴィレッジに響かせましょう、いわきFCコールいきます!!」というリードに続いて行われた、3年ぶりのいわきFCコール。涙が溢れそうになる。この言葉を発する為に、どれだけ苦しんできたことか。そして"バモスいわき"へ。

日本代表のチャントとしてもお馴染みのこのチャントを叩くのはやはり楽しい。しかし、寄る年並には勝てず。声出し禁止の3年間で1回くらいしか叩かなかったこのリズム+スピードは、なかなかに腕を疲労させるのです。
声出し解禁3分で腕がつるという体たらく。それでも、嬉しかった。ただただ嬉しかった。みんなの掛け声、多くの人にとって初めて見るであろう自分たちの声出し応援はどんな風に見えているのかな、、などと感傷に浸る暇もないままに腕は疲れていく。

現れた男

と、そこに全身タイツに身を包んだ1人の男が登場。
田中龍志郎―今年3月に突然退団を発表し、多くのファンを泣かせたこの男は、相変わらずのスーパーイハイテンションでいわきFCの応援席に戻ってきた。なんも変わってない。一般人ならダダ滑りして無惨な結果に終わるようなことを、この男がやると絵になる。本当に不思議な男だ。

こんな奴いるかよ…シーズン途中で退団して、8カ月後に全身白タイツにユニフォームペイントしたアホな姿で現れて。そんな格好してるくせに、誰よりも熱く応援して、声出して、ファン・サポーターに取り囲まれて…ルール的には多分事故扱いだろうけど、シャーレまで掲げやがった。こんな元選手いるかよ。なんなんだよ田中龍志郎、最高だよ。せめて35点は取って「あと1点足りなかったッス!!」くらい言ってくれよ…来年頑張ろうな、業法と法令は満点狙うんだぞ、民法は深追いするなよ。

そんな田中…いや、いわきマンとの応援を重ねながら、我がいわき戦士は本当に頑張ってくれた。昇格・優勝がかかった試合で、元選手がアホな格好で最前列で煽ってるという状況に「本当に大丈夫なのか」という心配をしたものの、逆に選手はリラックスしたのかもしれない。大輝が2点目を決めた後、デジタルサイネージを飛び越えてサポーター席に来てくれた時のあの日高の表情を見た時に、本気でこの日、たな…いや、いわきマンが来てくれたことの大きさを感じた。いつでも来てくれ(笑)

昇格、優勝

試合が終了、とほぼ同時に藤枝の敗戦が伝えられる。
昇格。え、昇格なのか。いやもちろん分かってはいるのだけど、あまりの現実感のなさに体の力が抜けたような不思議な感覚になる。近くにいるサポーター仲間と言葉を交わす。「前回ここで声を出した時って、東北1部リーグだったんだよね…」信じられない。
とは言いながら、仲間たちと喜びを分かち合いながら1時間を待機。カターレ富山と松本山雅の試合の様子をみなDAZNで見ている。カターレ富山が鬼神の如き追い上げをみせた松本山雅を4-3で振り切って勝利。この瞬間、2022年J3リーグ優勝が決定した。
本日2度めとなるが―
優勝。え、優勝なのか。いやもちろん分かってはいるのだけど、あまりの現実感のなさに体の力が抜けたような不思議な感覚になる。

眼の前で山下優人がシャーレを掲げ、いわきマンがシャーレを掲げる。なんだ現実じゃないじゃん、いやいや現実だこれ。

行きたい場所へ

昇格も優勝も嬉しい、本気で嬉しい。
けどそれ以上に嬉しかったのはJヴィレッジスタジアムに4400人以上の人々が集まってくれたということ。それに尽きる。
東日本大震災が発生して、人がみんないなくなって「この街はどうなってしまうんだろう」と思った。少しずつ人が戻ってきても「あんな場所で子育てするのか」と言われた話を聞き「ここに観光客が戻ってくることはないのか」と諦めかけた。Jヴィレッジは原発事故収束に向けた最前線の場所となった。2002年ワールドカップを前にした代表合宿を見学に来たことを思い出しながら、ここでサッカーが出来る日はいつになるのだろうと思った。
そんな日々から10年がかかったけれど、この場所にいわきFCを、サッカーを観ようとこんなに大勢の人々が集い、熱狂してくれた。この地域にとって、それは昇格や優勝と同等かそれ以上の出来事に違いない。

茶とらンさんのツイートをみて、心が震えた。
地域を愛するということ、地元を思うという気持ち自体を否定された時期もあった。あんな場所、ベクレる…そんな言葉に傷ついた時もあった。
今でも、福島県内に入ると高速道路には線量計が設置され、放射線量が表示されている。他県から来た人にとっては異様な光景だろう。個人的にはもはや、あんな線量計を設置することに意味はないと思っているのだけれど。他県から来てくれる対戦相手サポーターの方々にとっては、正直嫌な思いもするのではないか。そんな中でもサッカーを観に来てくれて、集まってくれて心からありがとうしかない。そこに対戦相手、いわきサポなど関係ない。この地に生きる1人として、ありがとうしか言えない。

この地域にいわきFCという存在があること自体が、それだけでとてつもなく素晴らしいことなのだ。昇格や降格、勝ち負け以上に、この地に多くの人々が集まってくれること、熱狂してくれることが何より嬉しいのだ。その機会を与えてくれたいわきFCを心から大切に思う。

あんな場所と言われた地域が、日本で一番行きたい地域になる。
そんな日が来ることを少しだけ期待したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?