ポカリ1

女王様と僕 | 1−6 | 下上ル(シモ・ノボル)と秋の夜に見る春の夢

皆さんは、よく見る夢というものはあるだろうか?
僕は、子供の頃は特にいろんなことに影響されて様々な夢を見た。

例えば。あれは8歳の夏、長野で過ごした時のこと。
あの夏の最大の衝撃は、ポカリスウェットのラベルの裏側…の成分表だった。
イオン・ウォーターにふさわしく、様々な聞いたこともない成分が羅列されていた。
めちゃくちゃ、ワクワクした。科学技術の結晶のような、飲み物だった。
その夜見た夢は、仲間たちとともに、肝試しに廃屋の洋館に忍び込む夢だった。
田舎、夏、とくればお決まりの肝試し。
古びた階段を登り、心臓を高鳴らせながら進む子どもたち。
そして、洋館の二階奥…に待ち受けていたのは、吸血鬼だった。
棒を投げてみたり、呪文を唱えてみたい。何をしても、太刀打ちできない吸血鬼。
そんな中、たまたまコケた一人、春ル(サク・ラチル)が持っていたポカリスウェットが吸血鬼にかかり、奴がのたうち回る。
なんと、ポカリスウェットの成分が吸血鬼の弱点だったんだ。
僕らは、春ル(サク・ラチル)に助けられた。

で、2018年秋。
僕、下上ル(シモ・ノボル)はだいぶ大人になった。

夢の中に、また春ル(サク・ラチル)が登場した。
全てが散ろうとする季節に、帰ってきた。僕に問いかけるために。

ソファに深く座って、春ル(サク・ラチル)が問いかけてくる。
「ねぇ?」
「ん?。」
「久しぶり」
「久しぶり。」
「アナタの見ている毎日毎日って、本物?」
「本物でしょ。」
「今は?」
「本物だよ。」
「だって、今、夢よ」
「そっか。」
「じゃ、今は、夢ね/じゃさ、起きて覗いているスマホの中って本物?」
「本物でしょ。」
「だって、画面の中よ?嘘だらけかもよ?」
「そっか。じゃ、どっちでもいいか。」
「いや、ダメでしょ/だって、画面の向こうで誰かがアナタに
見せたいものを見せているだけかもしれないって、
ダメでしょ/画面の向こうばっか気にしてるくせに/」
「じゃ、画面の向こうは、無いことにする。」
「そ、それが正解/せいぜい、眼の前にあるものを大切にすることね/
じゃないと、あの日の吸血鬼みたいに、ぶっ壊すわよ」

秋に見る、春の夢。
おお、怖い。
僕は早速、山ン(ヤーマン)に連絡を取った。
そう、第二話で出てきた、リーマンラッパーだ。
夢といえば彼だろう。
彼は、やたらリアルな夢を見る達人だ。
彼に聞けば、なにかわかるはず。
嫌な、嫌な、予感がする。
待ち合わせは代沢。力ある自然を喰らいながら彼に一連の出来事を
説明すると、予想以上のシンプルな答えが帰ってきた。
「ま、要は、何をレップしてるかって話じゃね?
あとは、リアルを生きてっか?ってこと。」
慌てて僕は質問を探す
「ん?つまり?ん?どういうこと?」
山ンはおもむろにアメスピを取り出してため息をつく。
「察しが悪いな…」
「(吸っちゃうんだ…)」
秋の長い夜はまだまだ始まったばかりだ。

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