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神の声、立ち上がれケイタ!〜男子チア物語第14話〜

2013年3月中旬。


気付いたらあれほど、毎日のように思っていた男子チアの存在は少しずつ頭の中から消えていた。


何もやる気が起きず、家でぐうたら生活を送っていた。


気持ちは乗らなかったが、とりあえず友人たちに受験の結果を報告することにした。


片っ端から友人やグループにメッセージを送った。


みんなから返ってくる返事が怖かった。



なんて思われるんだろう。

自分にあった変なプライドが邪魔していた。


だが、みんなからの返事はいい意味で俺の期待を大きく裏切っていた。



「受験本当にお疲れ様!そして明治合格おめでとう!すごいじゃん!よくがんばったね!」


誰1人、「残念だったね」という言葉を言う人はいなかった。


返ってきた言葉は、「お疲れ、おめでとう、頑張れ」と俺を称賛する声だった。



みんなからのメッセージを読んだ瞬間、一気に体の力が抜けた。


俺はなんでそんなことを考えていたんだろう。


仲間たちを裏切っていたようで、心が痛くなった。


心の中で謝罪した。


「ごめんな、それとありがとう」


また自分のことが嫌になった。



2013年3月下旬。


旅立ちの日は近づいていた。


受験が終わった俺を思い、仲間たちはたくさん遊びに誘ってくれた。


いろいろなところへ旅行に行った。


おいしいものをたくさん食べた。

それでも、いつも心が満たされていない気がして毎日を生きていた。


そんな生活を続けていた、ある日の昼間。


誰との予定もなく、することがなくゴロゴロとソファで1人横になっていた。


しまった。


1人で暇を持て余すと、考えなくていいことまで考えてしまう...。

男子チアのことが頭によぎった。



やっぱり完全に俺の頭の中から消えてはいなかった。


「夢の...男子チア...やりたかったなぁ...」



そんなことを思っていると、暖かな日差しを浴びながら、気付いたらウトウトと眠りについていた。


約1時間が経過した。


深い眠りに入った頃だろうか。


突然、目の前が光り輝き出した感じがした。


俺は重いまぶたをゆっくりと持ち上げた。


立ってあたりを見渡したが、360度真っ暗だ。


ん?なんだこれは?


夢の中なのか?


再び横になって目を閉じようとした瞬間、目の前に眩しいくらい光り輝く"何か"が現れた。


眩しすぎて、ハッキリとは見えない。


「何なんだよ、何だこれは!」


そう叫んだ瞬間、向こうから声が聞こえてきた。


優しく語りかけるように。


「ダンシチア、アキラメルナヨ、アナタハ、デキルヨ、デキル!」


突然の出来事に驚いたが、そのまま耳を傾けた。


すると、また向こうから声が聞こえた。


次は、大きな声で、俺を鼓舞するように。


俺の尻を叩くような、激しい口調だった。


「アナタガ、メイジダイガクデ、ダンシチアヲ、ツクレバイイ!サア、タチアガレ!ケイタ!!!ハシリダセ!!!」


俺はその言葉を聞くと、ハッと目を覚ました。


ん?夢だったのか?何だったんだ?今のは。



だが、確かにその言葉は俺の胸を打った。


背後から強く背中を押された気がした。


そして、俺は決断した。

「そうか!俺が明治で男子チアを作れば...。そうすれば、俺は男子チアが出来るんじゃないのか?俺、明治で男子チアチームを作ろう!作るんだ、俺が!」


途絶えていた俺の夢が、再び動き出した。


俺が明治で男子チアチームを立ち上げるという新しい形で。


俺は再び、走り出した。


その日以来、俺の表情は明るくなった。



母から「なんかいいことでもあった?」と言われたくらいだ。



2013年4月1日。




ついに地元を離れ、東京へ進出する日になった。


さすがに、生まれて18年間住んだ愛着のある蒲郡を離れるのは寂しかった。


けど俺は、やるんだ。夢に向かって。



出発時、地元の最寄り駅には、母、祖父、祖母が、見送りに来てくれた。


祖母ハルコの「ケイちゃんがいなくなったら寂しくなっちゃうね」という言葉には、グッときた。


「じゃあ、行ってくる!また夏休みに帰ってくるから」


そう言い残し、手を振りながら来た電車に乗車した。


「じゃあ!」とドアが閉まりかけた瞬間、「ケイタ!!!」。


声が響いた。



ドアが閉まる。

窓の外には、今まで俺を応援してくれた地元の友人達の姿があった。


みんなが笑顔で手を振っている。


俺は、それを見てグッと涙をこらえて、手を振り返した。

電車は出発した。


俺の涙腺は決壊した。


涙が車内の床にこぼれ落ちた。


「ありがとう、みんな。ありがとう蒲郡」


みんなの顔を見たら、優しい気持ちになれた。


そして、強く両拳を握りしめた。



「俺、絶対、男子チアの夢を叶える」



今まで応援してくれた家族、友人、先生たち、みんなへ感謝の思いを伝えるのは、あのステージしかない。


形で恩返ししたい。


「男子チアのパフォーマンスを見せて、感謝の気持ちを伝えたい!」



俺の決意は固まった。


やるしかない。



俺の新たな挑戦が幕を開けた。


つづく
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第14話の登場人物 整理

ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。

ハルコ(祖母)=ケイタの名付け親。おれは幼き頃からおばあちゃん子だった。

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