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運命は存在した〜男子チア物語第17話〜

2013年4月下旬。

明治大に入学し、早くも約1か月が経過しようとしていた。

時期は、新歓コンパの真っ盛りだった。


男子チアの仲間になってもらうためには、まずは多くの友人を作ることが大事だと考えていた。


手当たり次第に新歓コンパに参加しては、友人作りに励んでいた。

そんなある日、学部別の新歓コンパが催されることを知った。

俺は経営学部に属していた。

同じ学部の友人は大切。履修科目の情報交換が出来るからだ。

これには多くの学生が参加する予定で、チケットが完売するほど。

俺は、なんとか完売前にチケットを手に入れることができた。

その夜、午後6時から井の頭公園で経営学部の新歓コンパは開催された。


俺はクラスの友人、タケとともに吉祥寺駅から散策しながら徒歩で向かった。


井の頭公園に到着すると、すでに多くの学生が集まっていた。


桜の木の下にビニールシートが敷かれている。

各10人くらいの、いくつかのグループに別れて軽食をつまみながら、交流会が始まった。

俺のグループは男が7人、女が3人だった。


「ねえねえ、履修科目ってどうした?え?経営心理学履修してる?」 

「俺も俺も!」

「ぜひ情報共有してこうよ!LINE教えて!」


やはり話の中心は履修科目についてだ。


みんな、なんとか単位を落とすまいと必死さが伝わってくる。


あっという間に時間は過ぎ、時刻は午後9時を回っていた。


主催者が立ち上がって手を叩きながら、声を張った。

「それでは、もう時間になりますので、順次グループごとに解散していってください。ゴミはこちらにまとめるよう、お願いします」


ぞろぞろとグループごとにみんなで駅に向かった。


俺たちのグループも、まとまって駅の方へと歩いていった。


最寄駅は京王井の頭公園駅と吉祥寺駅の2つ。


俺とサヤカという女の子は吉祥寺駅。


残るは井の頭公園駅となった。


「それじゃ、また大学で!」


今日知り合った仲間たちに別れを告げると、俺はサヤカと2人で吉祥寺駅を目指して歩いた。



「俺らあの場であまり話せなかったよね!」


「そうだね。ケイタくんは、私の向かいにいたよね?離れていたもんね」


改めて自己紹介も兼ねながら、ゆっくりと2人で吉祥寺駅を目指し、歩いていた。


サヤカは埼玉県出身だった。


愛知県蒲郡から上京した俺は、"シティーガール"を恐れていたのでひと安心だ。


サヤカと話している時は、まるで地元の友人と話しているような感覚だった。


真剣に話を聞いてくれ、俺は次第に気分が良くなっていった。


「あ、あのさ、俺、夢があって」

胸を張ってニヤリと語りかけたが、直後「しまった、俺は何言ってんだ」と急に恥ずかしくもなった。


だが、もう撤回出来ない。


サヤカは「なになに?教えてよ!気になる!」と身を乗り出している。


よし。思い切って言葉を続けた。


「俺、明治大学で男子チアを、作ろうと思ってる!ずっと夢だったんだ。男子チアをやるのが。早稲田にしかないの知ってて、浪人して早稲田目指したんだけど叶わなくて。諦め切れないから、俺、明治で作る。決めたんだ」



俺は力強く宣言した。


「え?え?えっ?」


サヤカは慌てふためいた。

そして、サヤカの瞳から目に涙がこぼれ落ちた。


「私も、実は、SHOCKERSのマネージャーになりたくて...。それで早稲田を目指してたんだ」 


信じられない。


こんな運命があるものか。


だが、SHOCKERSのマネージャーはインカレだ。

つまり、他大学の部員でもマネージャーにはなることが出来る。

俺はサヤカに確認した。


「知ってると思うけど、 SHOCKERSのマネージャーはインカレだから、今からでもなれるんじゃ...」


そう言いかける俺にサヤカが反論した。


「私は早稲田に入って、早稲田のチアチームに入って、早稲田の応援をするっていうのがやりたかったんだ。早稲田に入らなかったら、SHOCKERSのマネージャーにはならないと決めてたんだ」

「そうだったんだ...。じゃあサヤカはその夢はもう叶わないんだね...。本当に諦められるの?」

俺は、静かにサヤカに尋ねた。

するとサヤカは笑顔で首を振ってニコッと笑った。


「ううん、もういいんだ。私決めたの。ケイタくんの夢を応援する。私が1人目のメンバーになるよ。マネージャーとして」


俺は叫びたくなるくらい溢れそうな気持ちをぐっと抑えた。


「ありがとう。これからよろしくな。サヤカが初めてのメンバーだ!」


手を差し出して、ガッチリ握手した。

「痛い、痛い...」と嘆くサヤカ。


ちょっと強く握りすぎた。

でもその顔はどこか嬉しそうだった。



気付いたら、吉祥寺駅に着いていた。


「じゃあ、また。近日2人でミーティングをしよう!」


そう別れを告げ、別々の電車に乗った。


これから始まるワクワク、ドキドキする未来予想図を描きながら、車内で"ニヤけている"俺がいた。


つづく
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第17話の登場人物 整理

ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。

タケ=同じ愛知県出身のクラスメート。仲の良い友人の1人。

サヤカ=埼玉県出身。同じ経営学部。手先が器用。ケイタと同じく早稲田の男子チアSHOCKERSに憧れ、マネジャー志望として早稲田大学を目指すも叶わず明治大学に入学。

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