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🔲 若紫(後の紫の上)の言葉を初めて耳にした源氏は? 「若紫の巻」5

北山の庵から帰京した尼君を、源氏は、訪問します。時雨の降る夜の事でした。荒れ果てた家でひっそりと暮らしている様子です。

尼君や女房達は恐縮して、源氏に応対しています。障子の向こうから尼君の心細そうな声が聞こえてきます。

源氏は、好色な男に見えぬように注意しているのですが、それでも、やはり若紫の事が気になります。一声でもいいから若紫の声を聞かせてと女房にお願いするのですが、女房はそっけなく「若紫様は、子供ですので、もうお休みです。」と答えるばかり。しかし、そこから意外な展開となるのです。


(若紫)「うへこそ、この寺にありし源氏の君こそ、おはしたなれ。など見給はぬ。」と、の給ふを、人々「いと、かたはらいたし」と思ひて、(女房)「あなかま」と、聞こゆ。(若紫)「いさ、「見しかば、心地のあしさ慰めき」と、の給ひしかばぞかし」と、「かしこき事聞きえたり」と思しての給ふ。(源氏)「いとをかし」と聞い給へど、人々の、「苦し」と思ひたれば、聞かぬやうにて、まめやかなる御とぶらひを、聞え置き給ひて、かへり給ひぬ。「げに、言ふかひなのけはひや。さりとも、いとよう教えてむ」と、おぼす。

古典文学大系一 211・212頁

なんと、若紫が奥の方から走り出て、息を切らせてらせて。尼君に話しかけます。源氏の来訪を知らせ、「源氏に好意を寄せる尼君のためを思って知らせている」と。得意になって報告しているんです。

女房達は、ウソがばれてしまい、その上、尼君や自分たちがどんなに源氏に好意を持っているかを全て伝えてしまったんです。源氏は、女房達の気持ちを察して、若紫の言葉を聞かぬふりをして帰ったのです。

源氏は、帰りの車の中で考えます。「本当に幼いのだなあ。でも、養育すれば素晴らしくなるなる。」と確信したのです。

幼いと確信した理由は、言うまでもありませんが、若紫の話し方にも問題があります。彼女は、平安時代のあの複雑な敬語法をまだ完全に習得していないんですよね。祖母の尼君ㇸの敬意はよしとしても、源氏に対しての配慮ができていないんです。子供だから仕方がないんです。そのように作者紫式部は描いているのです。

次の確信「養育すれば素晴らしくなる。」と思ったのは、なぜ。源氏が、この女性ならと確信した訳です。

1 自分の事より、祖母尼君の病気を第一に考えるやさしさ。

2 素直でのびのびした人柄。

3 自分の考えをしっかりと持っている。

若紫は、まだまだ幼く、恋愛や結婚のことは考えられないが、その気立てのやさしさやすなおさやしっかりとしたものの考え方に、源氏は、将来の可能性を確信したのです。


こういう物語を自在に構築してゆく作者紫式部の力量。恐るべしです。

 


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