【レビュー】知っておくべきデジタル政府の失敗の歴史

『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』
日経コンピュータ、日経BP、2021年2月

個人的に昔、SEABISやGIMA、人給など府省共通システム・府省重点プロジェクトに断片的、断続的に関わったことがあったので、興味深く読みました。
日経コンピュータや日経クロステックの過去記事からの収録が多いですが、それが「デジタル政府の失敗」というひとつのテーマでまとまっていることに本書の価値があります。

e-Japan戦略から始まる政府のデジタル政策の大きな流れや、その過程で起きた特許庁、年金、人事・給与システムといった失敗事例がよく分かります。
直近で起こったHER-SYS、COCOA、G-MIS等についても問題の経緯を詳細に記載しており、とても分かりやすかったです。

失敗事例だけではなく、政府CIOによる立て直しの記録やBPMの導入、農林水産省によるSlackを用いた自治体や農業従事者とのコミュニケーション事例など、成功事例についてもいくつか触れられていたので、示唆的な内容もありよかったです。
農水省は、デジタル政策推進チーム(DXチーム)を他省庁に先駆けて立ち上げており、その成果が出てきているのかと思います。
ちなみに、登大遊さんの「シン・テレワークシステム」や「自治体テレワークシステムforLGWAN」は、先日のテレビ「情熱大陸」にも出ていたので面白かったです。

自治体の失敗事例として、京都市の事例が詳細に載っているのもよいです。まだ民事調停も続いているところですが、判例として旭川医大とNTT東の発注者側責任を問う判決事例と並んで後々に残りそうなものなので、最新の状況も踏まえて経緯が記載されており、読みごたえがありました。

本書の記載内容に関しては中央省庁や自治体の情報なので、失敗事例についても契約情報など基本的にはすべて公開されている情報であり、本書独自の情報としては、いくつかあるインタビュー記事の内容くらいかなと思います。
ただ、公開情報であっても、それが時系列的に網羅的にまとまっているので、本書には資料的な価値が十分にあると思いました。

これから政府も自治体もデジタル化が大きく進んでいく中で、それに関わる人たちは、本書を読まないまでも記載されている内容は知っておき、過去の失敗を繰り返さないようにする必要があると思います。

特に地方自治体は基幹系システム17業務の標準化を「25年度末までに統一」という話が降って湧いてきたところで、「標準化」の中身が明らかでない中でもBPRを進めなければならず、国の「業務・システム最適化計画」の失敗を繰り返さないように早急に検討を進めなければなりません。

発注者側のガバナンス、BPRを含めた仕様の作成、ステークホルダーの協力体制など、当たり前のことですが、プロジェクト現場に入り込むとなかなか問題が見えにくくなってしまうことがあります。
その時に、過去の失敗事例を知っていれば、「ヤバい」という勘所は掴めるようになると思います。そうすれば、何が「ヤバい」のか落とし込んでいき、足りないリソースは外部コンサルでも使って埋めていくことができます。「ヤバい」ことの具体的な原因は組織やプロジェクトによっても異なりますし、まずは「ヤバい」ことに気付けることが大事かと思います。

今年の9月にデジタル庁ができることで、国や自治体だけではなく、民間企業への影響も多かれ少なかれ色々な形で出てくるのではないかと思います。
「DX」がバズワードになって久しいですが、民間企業も政府の失敗事例から学ぶところは大きいと思います。
政府だけではなく、自治体でも民間企業でも、デジタルに関わる人は読んで知っておく価値のある内容の一冊です。


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