北越雪譜

「鈴木屋さん、大好評ですよ」
 自宅を訪ねて来た鈴木屋こと鈴木牧之に京山は嬉しそうに言った。
「すべて京山さんのお陰ですよ」
「いやいや、内容がいいからですよ」
「それにしても、雪国には江戸に住む我々には思いもよらないことがいろいろあるんですねぇ」
「私どもにとっては当たり前のことでも皆さんはご存知ないんですね。そのことが『北越雪譜』の執筆のきっかけになりましたが」
 牧之が初めて江戸に来た時、会う人が皆自身の故郷について知らないことを残念に思った。そこで彼は故郷の様々なことを記して人々に知らせようと決心したのである。
 原稿はすぐに完成したが、それから大変だった。費用面やその他の事情で刊行してくれる版元が見つからなかったのである。大阪の版元も当たってみたが駄目だった。
 その後、紆余曲折を経て山東京山のもとにたどり着いた。執筆を開始して30年過ぎていた。
「雪国についてもっと知りたいという要望がたくさん来てますよ」
「では続編を書きましょう」
 続編も刊行され、三巻目も期待されたが牧之自身が亡くなってしまい、『北越雪譜』は二巻で終わってしまったのだった。


#歴創版日本史ワンドロワンライ  2019年12月21日 お題「雪」
「北越雪譜」の存在を知ったのは宮尾登美子氏の小説「蔵」を通じてです。


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