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海から来た王妃

「王妃は海の向こうから来ると王はおっしゃっていたけれど、まことだろうか?」
 伽耶諸国の長の一人である留天干は従者を連れて命じられるまま望山島に行きました。
 ぼんやりと海を眺めていますと赤い帆を掛け赤い旗を翻した船が見えました。そこで留天たちは炬火を掲げて合図を送りますと船は望山島に近づいて来ました。船が着き中から見慣れない服装をした人々が降りて来ました。干は王にこのことを報せるとともに船の人から事情を聴きました。幸い、片言ながら伽耶の言葉を理解出来る者がいてこの船は南方の王女を乗せたものと分かりました。
 報せを聴いた王はさっそく王女をお連れしなさいと命じましたが、彼女は船から出てこようとしません。
「私はそなたたちとは見知らぬ間柄なのに、どうして軽々しくついて行けましょう」
 王女の言葉は直ぐに伽耶王に伝えられ、王はもっともなことと思われ、船着場近くに仮の宮を設けそこで迎えることにしました。
こうして王女は従者たちを従え、船を降りて王のもとに行きました。その後、二人は宮殿に行き、ここで初めて王女は自身の名前とこれまでの経緯を伽耶の言葉で語りました。
「私はアユタ国から王女で父母のいうままにここに来ました。数ヶ月前、両親である国王と王妃は夢の中で上帝から娘を伽耶の王に嫁がせよと命じられ、私はそれに従ってここに参りました」
王女の言葉に王はうなづきました。
「儂も、上帝から伴侶は間も無く現われるので待っていなさいと告げられたのだ」
 天が定めた婚姻に反対する者はいませんでした。
 こうしてアユタ国の王女は伽耶諸国の王妃になりました。

「三国遺事」に収録されている伽耶国建国神話をもとに創作した物語です。

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