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鶏林書笈≒ゆきやまイマ
2020年4月28日 15:55
朝鮮王朝前期明宗時代(1545~67年)の晩秋のことである。 主上(国王・明宗)は弘文館に満開の黄菊がこんもりと植わった鉢を送り、詩を読むよう命じた。王宮図書の管理やその他学術関係の事柄を扱う部署である弘文館で働くものであれば即時に詩の一つくらい詠じられると思われたのだろう。 黄菊を見て真っ先に詠じたのは宋純だった。「風霜が降りる時にようやく花開く黄菊を 美しい鉢に盛って玉堂に送って下さ
2020年4月12日 20:22
「実に見事だ」親馬鹿に思えるかも知れないが息子の書は本当に秀逸だった。六歳の子供が書いたものとは思えなかった。「今年はお前の書いた立春帖を門に貼ろう」父の思わぬ賞賛に元春は「ありがとうございます」と元気に応えて平伏するのだった。翌日、一人の士人が父を訪ねて来た。「北學議」等の著書がある楚亭朴斉家だった。「こちらの立春帖を書かれたのはどなたでしょうか?」舍廊房(書斎)に通された楚亭は
2020年4月10日 15:05
久しぶりに都に来た秋江(추강)はいつになく賑わっていることに少し戸惑った。 射亭を見ると射客が命中させるたびに、後に控える妓女たちが「大当たり」と歓声を上げていた。ーそうか、今日は上巳の日なのだなぁ 改めて周囲を見回すと城壁内外には紅い杏の花が咲き誇っている。 その西側から日が差して東側に花影をつくる。 馬に乗った老人が通り過ぎると風が女墻より吹き込んでくる。 秋江はさっそくこの
2020年4月9日 16:32
玉峰は夜空を見上げた。天気が良いためか銀河水(天の川)がはっきりと見える。「今年は牽牛と織女が会えるわね」彼らは一年に一度しか会うことが出来ない、運悪く雨が降ってしまったらその年は会えないのだ。世間の人々は二人を気の毒がる。だけど彼らには無限に時がある。今年が駄目でも来年、再来年があるではないか。そして、銀河水を挟んで互いを思いやることも出来る。だけど私は‥。自分が撒いた種とはいえ、愛し
2020年4月7日 15:15
今宵はとりわけ寒いが、その分空は晴れ渡っている。 綿入れ帽子を被り、上着を何枚も着込んで湛軒先生は庭に出て天を仰ぐ。無数の星が闇を照らす。「あれが北斗星‥、ということは」 先生は清国の友人が送ってくれた天文書と照らし合わせながら、星々の名称を確認する。地平線に目を移すと淡い光を放つ雲が見えた。「あれが星雲というものか」 雲のように集まった星の群れ。“星雲”とは上手く名付けたものだ。彼は一