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小説「ほんの束の間のこと」番外編

 小説は5つのエピソードから成り立っていますが、ここでは本編を掲載することが出来ないので、そのエピソードに入りきれなかった「その他のエピソード」を掲載することとします。

1  メトロポリタン美術館とひとりの女性

 カトリーナが近づいていた。アメリカで史上最も大きな被害をもたらしたハリケーンがフロリダ沖から上陸しようとしていた。アメリカ国民だって、当時誰も予想し得ないことだったに違いない。その年(2005年)が忘れられない年であるのは、アメリカの南部から中西部を巻き込んで荒れまくったこの「カトリーナ」という素敵な名前を付けられたハリケーンは、実際に予想以上に未曾有の大惨事を巻き起こしたからで、その後にもそれを凌ぐほどの規模をもつものはまだなく、歴史に名をとどめることになった。時の大統領でさえ9.11では危うくなることなく続けていられたのに比べ、この自然災害は彼の神通力も通じなかったようだった。
 私は見るもの聞くもの初めてという格好でニューヨークの街を歩いていたのだろう。ニューヨーカーに「大丈夫かい?」なんてストリートで声をかけられたことがあった。よほどお登りさんで覚束ない日本人と思ったことだろう。
 私がニューヨークにいた十日間は、全く災害に関する情報は皆無だった。というのも十日間という少ない日数で出来る限りのものを詰め込もうと必死だったし、早朝から深夜までマンハッタン島所狭しと歩き(歩き過ぎて「ナイキニューヨーク本店」で新しいスニーカーを調達した)、ホテルに帰っては撮り溜めた写真をデジカメ(ソニーCyber-shot)やデジタル一眼レフカメラ(ニコンD70)からノートPC(ソニーVAIO)に移す作業をして、その間にお風呂に入って(日本人の私はシャワーよりもバスタブに湯を溜めてゆったりと湯船に浸かることを好んだ)疲れを取っては、ぐっすり眠りスケジュールをこなすのに精いっぱいだったからだ。
 私が初めてアメリカ大陸の土を踏んだのは、2005年8月の終わりで、夏の休暇をこれまで憧れていた初めてのニューヨークと決めて、約一年前から計画を立て、半年前から劇場や野球場のチケットやホテルの予約などを行っていた。ニューヨークに行けば、まず行きたいところがある。見たいところがある。聴きたいものがある。行く前の半年間は楽しみでもあった。何を用意し、どことどこを短期間で周ったらいいか、とかイメージが先行していた時期が楽しかったりした。

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 初日は、まず一度行きたかった「アメリカ自然史博物館」American Museam of Natural History  に行った。あのスピルバーグの映画「ジェラシック・パーク」に出てきたTyrannosaurusはじめ恐竜の数々を見て廻った(死ぬ前にロンドンの博物館に行かなくちゃ)。まず入り口の外の公園には、ノーベルの碑が立っていたのに気づいた。「こんなところに」という意外性に驚いた。ノーベルと言えば、誰しもノーベル賞を思い浮かべるだろう。ダイナマイトを発明したことで莫大な財を成した人物で、遺族は彼の遺産を無駄にしないで、毎年世界有数の有用な科学者らに賞を贈っている。 

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 私はその博物館で三時間余りを過ごした。気に入った恐竜の骨を写真に撮りながら館内を巡る。日本ではmuseum(博物館あるいは美術館)では撮影禁止が普通だからとても有り難かった。さすが、ここは自由の国アメリカと一人合点しながらほくそ笑んでいた。でも、もし誰か隣に恐竜のことについて話し合える友人、若しくは恐竜のことなら何でも語れる考古学者や遺跡調査のプロフェッショナルのような人が一人でもいたらきっと楽しいだろうなぁ、などと感じながら出口に向かって注意深く足を運んでいた。しかし、そんな「充実した」時間があと数時間で現実のものとなることを、その時の私はまだ知らないでいた。

 日本でも公園は数多くあるが、ニューヨークであれば誰しも思い浮かぶのは、セントラルパークである。
 その日は八月の終わりにも関わらず陽射しも照り付けて、博物館の周りでは、ヘルメットを付けてインラインスケートを楽しむニューヨーカーの姿や、歩道上に自ら描いた絵を並べているところに道ゆく人達が足を止めて見入っている様子を垣間見しながら、私はセントラルパークに入り、公園を横断して次の目的地に向かった。公園の中では、楽器を演奏している人やただ何をするわけでもなく寝そべっているカップルや休暇中の家族連れの姿などが多く見られた。

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 その次の目的地とは、世界四大ミュージアムの一つとして数え上げられているメトロポリタン美術館  The Metropolitan Museum of Art  である。

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※ 写真は、「Life Designs」より。 メトロポリタン美術館の入口です。

 ギリシャ建築を思わせる壮大な入口には、当時巨大な広告がかかげられていた。そこから中へ入り、チケットを購入した後館内を巡るべく、まずトイレに行っておこうと思った。
 ちょうど日本人らしい二十歳くらいな女性がトイレの方から歩いてくるのが見えた。私はその女性に日本語であそこはトイレですかと聞いた。彼女は私の質問にキョトンとしていた。日本語が通じなかったのだ。ひょっとして….You are a Korean? 彼女は直ぐに頷いた。彼女が一人でいる感じだったので、これから一緒に館内を廻らないかと尋ねたところOKしてくれた。Wait a few minutes. 私はトイレで用を済ませて再び彼女と合流した。彼女はちゃんと私を待っていてくれていた。以後二人でずっと様々な展示物を見て廻ることになった。私としては本当に有り難かった。アフリカやアジアの民族特有の彫刻等を見たり、または現代アートや近代絵画を見て廻る時にもずっと一緒にいてくれたからだ。大袈裟に言えば、これまで私が人生で思い描いていた韓国人に対する印象が、彼女を通じて変わった瞬間だった。ニューヨーク旅行中にコリアンタウンで行くことになった「ガミオク」Gammeeok も少なからずそのことに貢献した。今日限りと思い、食べきれない程の料理を注文してしまったのを憶えている(その店は、当時私が入った場所から少し離れているが存在してくれているのが嬉しい)。そして数年後テレビで偶々やっていた映画「僕の彼女を紹介します」で演じていたチョン・ジ・ヒョン(Jeon Ji-Hyeon、 전지현、全智賢)という女優の演技でそれは決定的になったと思う。

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(※一番上真ん中の写真がレストラン「ガミオク」Gamiokで、タクシーの運転手に「ニューヨークで一番の撮影ポイントは?」と聞いて連れて来てもらったのが、ブルックリン・ビレッジ Brooklyn Bridgeで、誰かに撮ってもらったみたい。)
 

私は今回の旅行はセンチメンタルージャーニーであった。すなわち傷心の10日間を送っていた中で彼女と遭遇したことは、ほんの束の間のことであったとしても私の心を癒すには充分だったのだ。かつての文豪や画家が人生経験もない若い女性に恋焦がれたことがあったように、彼女もまるでアンドレ・ジッドが描くような純文学の中の清純な女性のようだった。同じ空間をわずかな時間であっても共有するということは、そのような効果を生むということを The Metは私に教えてくれた。
 私はアメリカに来るまでは傷心の気持ちも殆どピークに達していたから、何かで誤魔化すしかなかったのだ。そんな折に彼女と出会ったのだった。

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二人で心ゆくまで絵画や彫刻や民芸品を見て堪能してから、外に出て階段のところで二人で一緒にアイスクリームを食べた。その後彼女は、ニュージャージー行きのバスに乗って行ってしまった。ほんの束の間だったけれど、私にとって充分に幸せな時間を過ごしたのだった。

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以前(2018年8月11日)facebookのkonoyubi tomare というブログにそのことを載せた記事が次の文です。

N.Y.のメトロポリタンmuseamに行った。そこでNew Jersey州から見学に来ていた女性と一緒に館内を回った。世界でも指折りの美術館だ。見終わってから外の石段のところで一緒にアイスクリームを食べた。似たようなことを、TVで以前石原さとみがやっていた。(だれかがその模様を綴っておられるので参考にしてください)

https://science-lover.net/2013/10/20/post-1223/#i-3

いまごろ、彼女どこで何をしているんだろう...。

I have been to metropolitan museam where N.Y.City. So I walked around inside of the museam with a girl who had come to tour alone from New Jersey state by bus. It is an eminent art museum (It's ranked as one in four large art museum of the world.) We ate ice cream together at the outside stone steps after we finished seeing arts.

Before I watched the TV, japanese famous actress Satomi Ishihara was doing resembling there. Now, what will she do where?


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