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損害保険鑑定人について

今日のnoteは、保険事故が発生した時に起用される損害保険鑑定人(ロスアジャスターとも呼ばれます)についてです。筆者は損保在籍時代に損害部門に在籍したことがなく、もし理解や整理に誤りがある等ありましたら、是非ご指摘いただければ幸いです。

まず損害保険鑑定人とは、どんな方なのか、という点について日本損害保険鑑定人協会のホームページを見てみましょう。

「損害保険鑑定人(以下「鑑定人」とする)とは、正式名称を「損害保険登録鑑定人」といい、損害保険会社から委託を受けて損害保険に関わる財物(建物・動産等)の損害額算定、保険価額の評価および事故状況・事故原因の調査、ならびにそれらに関連する一連の業務を行います。」

とされており、「損害保険会社から委託を受けて」となっています。保険契約は保険契約者と保険会社の相対契約であり、その契約内容については保険約款に定められたものです。では、損害保険鑑定人は約款上に規定されているのか、という点を確認すると、例えば企業財産包括保険の普通保険約款には見当たりません。保険金支払の条項において、支払期日を延長する場合があるケースの一つとして、「専門機関による鑑定等の結果の照会」と書かれています。

保険金査定の実務では、一定規模以上の保険事故の際には、①保険会社が鑑定人をアポイントし、②鑑定人が損害調査を実施した上で保険会社宛にレポートを作成、③そのレポートをベースとして保険会社と被保険者が保険金を協定して保険金を支払う、という流れになっているかと思います。鑑定人には、鑑定報酬が保険会社から支払われ、査定付帯費用として保険金の一部に計上されます。従って、被保険者が実際に受領する金銭としての保険金と、保険会社が会計上認識する元受保険金支払額には差異が生じることになります。

企業が付保する保険の場合には、いわゆる損害率(保険金÷保険料)によって、翌年度の支払保険料を定める方式(リザルトレーティング方式)があります。すなわち、鑑定人の費用、あるいは他の査定付帯費用は保険金の一部として、将来的に自身の保険料負担に反映されます。個人保険の場合にも、当該保険種目全体の収支計算には含まれる事になりますので、こうした費用の多寡は最終的に保険料支払い者に転嫁されている事になります。

企業保険契約者は、支払保険料をミニマイズするために、リスクを改善して、ロスコストを最小化しなければなりません。適正な保険金支払の実施は、保険制度の健全性担保に不可欠なものですが、鑑定人費用に代表される査定付帯費用が保険会社の判断で支出されるという事が、契約者側から見ると当該費用の支出がロスコストの最小化に本当に資するのか判断ができない点に問題があるように思います。

欧米企業が多く採用している企業保険契約のうち、大企業によく見られる「ブローカーフォーム」では、どの鑑定人をいつ起用するのかが予め約款上に定められていたり、その起用権限は被保険者が持つとされているものがあります。これは、上記の問題点を解消するためのソリューションとして考えられたものではないかと思います。こうした査定付帯費用は支払保険金の金額と比べれば小さな金額ではありますが、保険求償のプロセスを見える化するという観点から、リスクマネージャーとしてきちんと見ていかなければならない部分であると思います。

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