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ログハウスOB

珈琲茶館OBという喫茶店があるのを知ったのは、16年ほど前の私が26歳頃の頃だったと思う。

きっかけは新しく入ったアルバイト先で知り合った友達だった。

その友達は埼玉県の八潮市に住んでおり、他愛のない話の流れから、

昔から行きつけのカフェというか喫茶店があると私に告げた。

その喫茶店は友達のお気に入りで、昔から行っていて落ち着くので、是非私にも紹介したいと言ってきた。

当時車人間だった私だったが、そのアルバイト先へは電車通勤をしていたので、帰りに私の地元まで電車できてもらい

車を出して一緒に行こうと計画を立て向かうことにした。

私の地元から八潮市までは空いていれば30分ほど。

それ以前より、八潮という土地には特に用事も何もなかったが、

少し足を伸ばしたドライブルートには入っていたので特に遠いなどと思うことはなかった。

知り合ったのは車系のアルバイト先であったが、周りを見渡しても車好きは少なく、

その友達も例によって特に車に興味のある子ではなかった。

そんな友達に見せるマイカーが、マツダのNA型ロードスターであった。

普通の人からすると、特殊に見えるこの車。友達にはどんなふうに見えたのだろう。

自分自身は普通の車ではない自覚があったので、友達を乗せて最初の頃はなかなかオープンにして走ろうとは思えなかった。

ある日友達を家に送り、いざ自分が帰る段階になった時に帰りはオープンで帰ろうと思ったことがあった。

友達が見送る中、私は幌を開ける作業をする。

NAは幌を開けるのに手間がかかる車であった。

まずフロントガラスの上部にはまっているロックを外し、

リアスクリーンというリアガラス代わりのプラスチックの窓をジッパーで開け、幌を後ろに倒す。

見栄え良くするためにロックを空のままはめて終わり。

幌の骨組みが重たいのと大きいので私の場合、座ったままでは腕を精一杯伸ばしても届かず

半分外へ出て作業をするので大掛かりに見えたのだろう。

そんな姿を見て、友達が「(私が)幌を開けてるところ見るの好き」と言った。

その言葉にハッとしたのを覚えている。

オープンカーは常人には受け入れられない車だと、勝手に思っていたのは私だったのだ。

そのあとから友達を乗せていても気分がよければオープンにし、友達自身も楽しんでくれていたと思う。

その友達とは、色々なところに行った思い出がある。


そんな友達に紹介されて、初めて見たOBは暗い景色の中に浮かぶログハウスだった。

私は初めてログハウスというものに入ったので、中の景色も全てが新鮮だった。

友達にはお気に入りの席があり、ちょうど空いていたのでそこへ腰掛けた。

メニューは当時ログハウスに習ってか、木の板に手書きで書かれていた。

ちなみに今はiPadで注文するスタイルに変更…急に革新的である。

基本ドリンクはコーヒー系とフルーツジュース、パフェがメイン。

どれも大きい器での提供で、最初はいわゆるデカ盛りの店という印象だった。

そして、軽食で八潮店のみ提供されているらしい、スパゲティ。

友達におすすめだけど、味が独特だから美味しいと感じるかわからないと言われた代物が

「いかめんたいスパゲティ」である。

まず具材のメインのいかめんたいはスーパーの生鮮珍味コーナーに売ってそうないかめんたい。

そこに合わせるのは刻みのりとわかめに、コーン(!)玉ねぎスライス(!!)そしてなぜかトマトピューレ(!!!)

味付けは塩コショウのみ。

この味の想像しづらい組み合わせ。

食べてみると意外な美味しさがあるもので、私はその時から友達にならってお気に入りメニューになったのだった。

そこから、友達とは毎日一緒に仕事をするし、週末は友達の家に遊びに伺い、OBでお茶してカラオケへ行ったり。

この時期は私自身の遅い青春だったのかもしれない。

半年ほどこの生活が続いて、このアルバイトはさまざまな事情をはらんで、部署を解散するという形で実質解雇となった。

アルバイトで会わなくなっても、友達とはしょっちゅう遊んでいた。

その中でも何かとOBへ出向く日々も増え、思い出も増えていった。

それぞれ別な仕事を見つけて、会えるタイミングも減りながらも、それでもまたOBで集まって食事をして帰る、

というようなスタイルを確立しながら会える機会を作っていったのだが

友達が結婚することになり、子を産み、友達とは生活スタイルの違いなどが原因で疎遠になっていった。

当時私は独身で、友達と会わない週末が来ても特に用事などなかった。

他の友達が少なかったと言うのもあるが、不思議とここへはこの友達以外と来る気にはならなかった。

大体休日の朝は1人でモーニングを食べに来たりしていた。

なんの予定がなくても、OBに行けば何となく目的達成した気分になり、あとは惰性で休日を過ごすのだ。

そんな日々は今のオットと付き合い出し、一度別れて、同棲した後も訪れる日数は増減しつつ続いて行った。

その間にもいかめんたいスパゲティの味は変化していく。

今現在はこの味に慣れてしまい、以前の味は思い出せないが、確実に言えることがある。

それは当時の味の方が美味しかったということだ。

それは単に味の変化だけではないだろう、思い出や背景も含めた味というか風味が加わっていると思う。

今現在、その友達と会うことは年に1度あるかないかの頻度になっているのは事実ではあるが、

このOBに通うことで繋がりを感じて、今でも身近な友達のひとりだと思っている。

私自身は結婚後ここから車で15分圏内に住むことになり、行こうと思えばすぐ行ける場所となった。

今でも、これからも、私にとってのOBはオアシスで重要なポイントである。

余談ではあるが、いかめんたいスパゲティを食べると必ずと言っていいほどお腹を下すのだが、

それもまあ、なんだ、あれだ。…

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